「エコがセクシーじゃないって誰がいったの?」 エシカルブランドINHEELS代表・ディレクター岡田有加

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東京・NY・ストックホルムを拠点に2015年1月に創設。「社会問題を解決する“遊び心のあるアイデア”」を提供しています。また、世界中の「社会変革のストーリー」を、独自の視点で切り取り、「問題への気づき」や「解決するヒント」を読者へ届け、活動している方々を応援することを使命だと考えています。
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「将来の夢ね…この会社の存在意義がなくなること」。

自身で立ち上げた企業の将来を、真面目にこう願う経営者がいる。ロンドン発のエシカルファッションブランド「INHEELS」代表・ディレクター、岡田有加だ。立ち上げてから3年、今、なぜ彼女はそう思うのか。

そもそも、
エシカルファッションとは?

160321_beinspired-inheels_02Photo by Shiro Miyake

待ち合わせ場所は、六本木の雑居ビルに紛れている隠れ家バー。岡田有加さんの行きつけだという。

バーで待つ編集部の前に現れたのは、ブラックで統一された服に、ゴールドのアクセサリーがきらめく女性。一見「環境に優しい」なんて言葉とは結びつかないクールな彼女こそ、岡田さん。

現状、服の製造プロセスでは、環境に大きな負担をかけていたり、製造工程にいる人々の労働環境が劣悪だったりと、実は見えないところで問題は多い。その問題に配慮した服作りをするのが、エシカルファッションだ。エシカルとは「倫理的」「道徳的」という意味で、現在ではこの単語だけでも「環境や社会に配慮している/いい影響を与えている」という意味で使われる。

たとえば、環境への負担が少ないオーガニック素材を使ったり、フェアトレードによって服に携わる人々が適切な対価を受け取れるようにしたりするなど、服の材料選びから流通まで、その配慮の形は様々。そんな製造プロセスに配慮したファッションは、その優しいイメージ通り、淡い色のアースカラーが使われたり、どこかふわふわとした雰囲気の服が多い。

しかし、岡田さんは、そんなイメージなんてどこ吹く風。口紅を塗り直し、彼女のお気に入りのラム酒ディプロマティコのロックを注文し、それを片手にINHEELSについて話しだした。

はじまりは
「私には似合わない
エシカルファッション」

160321_beinspired-inheels_04Photo by inheels

INHEELSは「Who said Ethical is not Sexy?(エシカルがセクシーじゃないなんて誰が言ったの?)」がコンセプト。デザインされる服は背中が大胆にあいたものや、女性の体のラインが美しく出るようなものなど、どれも女性らしくセクシーだ。ウェブサイトのデザインやモデルの写真も挑発的で、”環境や社会に優しい”と聞いて多くの人が思い浮かべるものとは一線を画している。

160321_beinspired-inheels_05 Photo by inheels

もともとフェアトレードなどに興味があったという岡田さん。その中で、いつしかエシカルファッションにも関心を持つようになった。しかし、どこのエシカルファッションブランドを見ても、優しい色使いのふんわりとした服ばかり。

「環境を配慮している服だとしても、デザインが格好良くないなら、私は買いたくない。自分のキャラクターに合わないものは嫌だし」セクシーでクールな服が好きな岡田さんが、欲しいと思えるものは見つからなかった。

もともと起業には全く興味がなく、むしろ消極的だったタイプ。しかし、「欲しい服がないなら、私がつくるしかない。そう思ったんですよ」。岡田さんは、一念発起で起業を決心した。

異議あり!
エシカル=いい子ちゃん160321_beinspired-inheels_06

Photo by Shiro Miyake

新しいファッションブランドを立ち上げるにあたって、一つの指針を決めた。それは「“ありのまま”でいくこと。私たちは『ありのままブランディング』っていってるんですけどね」と笑う。その指針には、いくつかの意味が込められている。

一つは、信頼できるブランドになるために。変に気取らず、自然体の姿を見せることでお客さんも信頼してくれるし、自分もその方が楽だと考えた。もう一つは、今までのエシカルへの挑戦。とにかくクリーンで健全なイメージを周囲に与えることの多いエコ志向の人々への挑戦なのだ。

しかし、岡田さんはこう言う。

「普段から環境のことを考えて生活しているような人だって、時には夜遊びしちゃったり、いい子ちゃんをやめてもっと欲望をむき出しに振る舞ってもいいんじゃない?」。

こうしてINHEELSは産声をあげた。

160321_beinspired-inheels_07Photo by Shiro Miyake

そして起業してから間もなく、彼女とINHEELSを変える転機が訪れる。代表として奮闘しすぎるあまり身体が悲鳴をあげ、うつ病を患ったのだ。人との待ち合わせ時間が迫っていることは分かるのに、身体が動かず支度をすることができない。お腹が空いても、どうしたらいいのか分からない。頭と身体が上手く動いてくれず、今までなんとも思わずにできていたことが、まるでできなくなった。

「もともと完璧主義だったんですけど、うつ病になったことでなんでも完璧にこなせるというわけにもいかなくなったんです。これがきっかけで、私の完璧主義はガラガラと崩れていきましたね」。

しかし、うつ病と付き合う日々は辛いことも当然多かったが、悪いことばかりではなかった。自分の限界を知ることができ、次第に周りに助けを求めることができるようになったという。

今までなんでも1人でこなしてきたが、周りに手助けしてもらうことで自分1人の能力以上のことをこなせることに気がついた。気張らず、周りに助けもどんどん借りながら前に進んでいく。そうする中で、少しずつ快方へと向かっていった。

「自然体」を目指しながらも、今までどこか力が入っていた自分がいた。それが、これを機に一気に肩の力が抜けたという。

「結果的にうつ病になって良かった。きっと前より良い人になってる」と、目尻を下げて笑った。うつ病の時に出会ったこのスタイルは、今もなお岡田さんを形づくる大切なものになっている。

こうして、現在の“本当”に「ありのまま」の自分を大切にするINHEELSへと変わっていった。

「いつもの自分に
ちょっぴりのエシカル」
こそ世界を変える

160321_beinspired-inheels_08Photo by Shiro Miyake

岡田さん自身も「ありのまま」の自分で、エシカルを楽しんでいる。エシカルファッションに携わり、環境にいいとか、サステナビリティとか日々考え実践する一方で、大好きなお酒も飲むし、時には二日酔いにもなる。素敵な服なら、たとえ100%環境に優しい服じゃなくてもやっぱり好きだ。それが、岡田さんのいう、まさに「ありのまま」なのだ。この「ありのまま」とエシカルの気張らないバランスこそがINHEELS、そして岡田さんのもっとも大切にしていることだ。

そのバランスを両立させるために、岡田さんが実践していることがある。それは「アンゴラを使った服と、新品のファストファッションは買わない」こと。アンゴラとは、アンゴラウサギの毛のこと。その毛の採集の仕方はウサギに強烈な苦痛を強いるもので残酷極まりない。

「たまたま見た映像を見ちゃったんですけどね、見ていられなくて、それからやめました」。

ファストファッションも製造プロセスに携わる人々の劣悪な労働環境の問題や、環境への悪影響など、安い価格の裏にある犠牲は大きい。この背景から、他の服は買っても良いけどこの服だけは買わないようにしようと、ルールを決めた。

「少数の人が100%環境や社会に配慮した生活をするより、たくさんの人が30%そういうことを考えて生活する方が大きなインパクトがあるし、無理がなくてサステナブルだと思う」。

好きなものを着て食べ、そして遊ぶ。そんな“ありのままの自分”で毎日を楽しみながらも、自分のやれる範囲でちょこっと環境や社会のことも考えて、やれることは実践してみる。これこそが、INHEELS流エシカルなのだ。

最終目標は
「INHEELSを潰すこと」160321_beinspired-inheels_09

Photo by Shiro Miyake

最後に、INHEELSのこれからについて聞いてみた。

「まずはファッションブランドとして、みんなが着たい!身につけたい!と思う良いものを提供し続けること」。“環境に優しい服”を掲げてはいるが、やはりファッションブランドとしてのプライドがある。環境への配慮はもちろん、ファッションとしても魅力的な服をこれからも追求していくという。

「あと、最終目標は会社を潰すこと!エシカルが当たり前になれば、エシカルを特徴にしたブランドもいらなくなるでしょ」と、なんとも大胆な目標をいたずらっ子のような笑みを浮かべて付け足した。

インタビューが終わり、バーを出る。

「まだ10時だし、これから踊りに行こうかな!」

岡田さんはそういって不敵に笑い、エシカルファッションをまとって六本木の街に消えていった。

160321_beinspired-inheels_10Photo by Shiro Miyake

なんとなくストイックな感じのするエシカルと、自分の素直な欲望。一見、つながりそうもない二つの間の壁は、実は意外と低かったようだ。みんなが“ありのまま”に好きなことをしながら、環境や社会のこともできる範囲で考える。そんな岡田さんの描く未来、そして、“会社を潰せる日”が来たとき、世界はどうなっているのだろう。

INHEELSがなくなるその日まで見届けていきたい。

Top photo by Shiro Miyake
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