【安藤美冬×白木夏子 vol.2】旅をしながらキャリアをつくる「ワーク・ライフブレンド」って?

これまで50ケ国以上を旅しながらフリーランサーとして取材、執筆、講演活動を行う安藤美冬さんと、シンガポールにも会社を設立し、各地の鉱山と直接取引きをしながらエシカルジュエリーHASUNAを展開する白木夏子さん。

「旅をしながら仕事をしている」という共通点を持つ2人は、プライベートでも一緒に海外旅行をするほどの仲。そんなお2人の対談、2回目となる今回は「旅と仕事の関係」と「旅をする理由」について伺いました。(vol.1はこちら)

旅は心のボーダーを外し
良い意味でKYになれるもの

白木 海外のまったく違う文化で過ごしてみると、日本にいるときと感覚が変わりますよね。私は海外に出るまでは内向的だったけれど、皆がどんどん発言して主張するロンドンに留学をしたら、「自己主張しないと無の存在になってしまうんだ」と気づいて、自分の意見を大切にするようになりました。

安藤 そうですね。私もオランダでの留学生活で「言葉にしないでもある程度分かり合えるのは日本の中でだけ。理解し合うために、ちゃんと気持ちを言葉にしよう」って痛感しました。また、2015年の初夏に旅行代理店とコラボしてブータンへのツアーを企画したのですが、現地で政府高官や教師たちと話をする中で、ブータン人の心のあり方にすごく感動したんです。敬虔な仏教徒であることもおおいに関係していると思うのだけれど、瞑想を学校のカリキュラムに取り入れ、「幸せ」を第一の指標として、自分の心の内側を深め、同時に相手の心にも共感する力を養っているあり方が素晴らしかったんです。夏子さんの言うように、自分の意見を大事にする姿勢を持ちながら、相手を敬うということですね。

白木 そう。旅によって心のボーダーが溶けていくことは多いですよね。

安藤 今年の1月半ばから3月頭まで、内閣府からオファーをいただいて、インド、スリランカ、シンガポールを船でまわってきたんです。内閣府が招聘した外国青年と日本青年合計240人を「にっぽん丸」という船に乗せて、船内や寄港地でリーダーシップ研修を行うという「世界青年の船」という事業。

私は船内での議論を盛り上げるファシリテーターとして乗船したのですが、そこで、ちょっとした出来事が起きたんです。船がスリランカに到着した日、船内で盛大なウェルカムパーティーが開催されるので、私はスタッフの一員として入り口に立って、衛生管理のために手指消毒剤を来場者に擦り込む担当をしたんです。

ただ、そこで思わぬことが起きたんです。おそらく手指消毒剤を使う習慣がないから、スリランカ人の中には、この消毒液を顔に塗ったり、あやうく飲み込みそうになる人まで出てきたの!手指にシュッと吹きかけることを、何かの宗教的な儀式だと思ったのかな?こんな些細な出来事からも、自分にとって当たり前のことが相手にとっては当たり前ではないことがわかりますよね。

白木 たしかに。旅をすると価値観を再構築させられる感覚がありますよね。私もインドに行ったときに、日本だったら初対面では聞かれないような「結婚しているのか」とか「お父さん、お母さんは何をしている人なのか」というようなことを開口一番にグイグイ聞かれるから、その発想にビックリしてしまって。

子供達が泥遊びをしているなと思ってよくよく見たら、泥じゃなくて牛糞だったことも!そのまま私にペタペタ触ってきて(笑)。でも子供はかわいいからそのまま抱きしめたり。ドロドロになりながら遊んでいました。

毎回、旅に出るたびに思いもよらないことが起こって、価値観が再構築されていく。そんな中で自分自身が作られていく感覚があるかな。いい意味でKYになれるというか、相手の反応を気にしてくよくよすることがなくなったなと思います。

旅によって
「自分」が作られる

白木 美冬さんと初めて話したときに、「この人は自分の道を自分で切り開いて生きてきた人なんだな」って思ったんです。それは世界を旅してきたからでしょう?

安藤 ありがとうございます。よく人生と旅は同じものとして例えられることがあるけれど、私は旅をするように生きてきたと思っています。ある時は明快なテーマを持って、目的地に向かって一歩一歩力強く進んだ旅もあれば、あえてテーマも目的も決めずに、ただただ偶然に身を任せて放浪した旅もあって。振り返ってみれば、随分と色々な道を歩いてきたな。

オランダに留学をしていた2001年、留学中にアメリカの同時多発テロ事件が起きたんですね。みんなと立場を越えて議論する中で、自分の価値観や好きなことを深く考えることになりました。

白木 私もアメリカ行きの飛行機に乗っているときに米同時多発テロが起きて、飛行機がアメリカの空港に着陸できなくなったから日本に戻って、ロンドンに留学することになったという経験をしているんです。

日本にいると、「同時多発テロ事件はイスラム教徒が起こした」という一面的なイメージしか持てなかったけど、ロンドンにはヒジャブをかぶったイスラム教徒の女の子がいて、アメリカを批判するヨーロッパ人がいて、そのヨーロッパ人に反論するアメリカ人もいて。

私は中立な立場で物事を考えたいと思っていたけど、何が中立かもわからなくなったし、中立な立場で発言することがいいことなのかもわからなくなったんです。そういう多様な視点を知ることを通して、一面から物事を見ていてはわからなかった「自分」を見つけました。

安藤 それに夏子さんはイギリスで途上国のことを学び、実際にインドの村を見てHASUNA創業に繋がる想いを育んでいったでしょう?私はオランダで大学の勉強以外にも、同性同士のカップルで養子を迎えて家族を形成している人たちや、大学院進学や出産、起業準備など自分のライフステージに合わせて柔軟な働き方ができる「ワークシェアリング」を実践している人たちの話を聞き、交流を持てたことで今の自分の生き方、働き方の基礎ができたと思っています。

白木 今はネットやテレビで情報が簡単に得られる時代だけど、実際に見てみないと本当にはわからないことって多いと思うんです。美冬さんの場合は同性同士のカップルやワークシェアリングを見たり、私の場合は国連がどう機能しているかを見たりして感じたことがあったからこそ、今の私たちがあるんでしょうね。

内面を見つめて
自分と対話することも
「旅」なのだ

白木 ジャック・アタリの『21世紀の歴史』という本に、自分の心のなかを旅する「インナーノマド」と呼ばれる状態が書いてあるんですけど、美冬さんも私も、幼い頃はインナーノマドだったんですよね。それも私たちの共通項じゃないですか?

安藤 その本は私も前職の上司に勧められて読んで、大いに影響を受けた本です。「ノマド」(遊牧民)というキーワードが21世紀を象徴すると書かれていますよね。21世紀には「移動」が主流となり、例えば「二拠点生活」のように、都心と田舎を行き来しながら理想的な暮らしを手にいれる人もでてくれば、もっと大きな枠では「生まれた場所」「学ぶ場所」「働く場所」「住む場所」「子育てをする場所」「終の住処となる場所」がそれぞれ変わる可能性もある。いまは、すべてひとつの場所で完結している日本人が多いけれど。

でもこれらの移動の醍醐味って、単に身体を動かすだけじゃなくて、移動して景色や食べるもの、つきあう人すべてを変えることによる外部の刺激から、自分の内面が変容していくことにあるんですよね。まさに「インナーノマド」を育むためにある。自分の内面に飼っている「内なる放浪者」を発見していく。

もともと私は引っ込み思案で、三島由紀夫や太宰治とか、たくさんの文学を読んで、黙って自分と対話するような時間がたくさんあったんです。

白木 私は一人っ子だったから、人と話すよりも古代生物の図鑑や宇宙の本を読んだり、洋服を作ったりひとりで黙々と遊ぶことが好きでした。そのなかで培われた世界観が今の仕事に大きな影響を与えているんじゃないかな。

こうやって内面的に旅するのも、物理的に旅するのも本質的なところは同じもの。自分を見つめ、行動を起こすことにつながると思います。

旅にワクワクするのは
本能的なものだから

白木 先日、京都大学でおもしろい研究をしている記事を読んだんだけど、60年に渡ってショウジョウバエを暗闇で繁殖させて、その「暗闇バエ」と普通のショウジョウバエを比較したんだって。60年といったら蝿は1300世代も生まれ変わっている。それだけの世代生まれ変わっても、光に向かっていくという生きるために根源的な能力はそのまま残っていたんだって。

安藤 待って!60年も暗闇で飼っていたのをついに開けたんでしょう?うっかり開け損なっちゃって「あー、ハエがどこかに逃げちゃった!」「60年の成果が台無しだ〜!!」なんてことにならなくて良かった(笑)。

白木 本当そうだね!(笑)。何が言いたかったかというと、この結果を1世代25年として人間に置き換えてみると、1300世代は3万年以上前ということになるでしょう?3万年前の人類って、狩猟生活をしながら、生きるために移動を繰り返していた旧石器時代。ということは、私たちには「旅をする」ということが本能的にDNAに組み込まれているのかもしれないと思って。

だから旅は本能的にワクワクするし、生きるために欠かせないものなんじゃないかなと。

安藤 それはすごくいい話。それを聞いて「ワンダーフォーゲル」というドイツ発祥のアクティビティを思い出しました。ワンダーフォーゲルとは「山歩き」。ひたむきに山頂を目指す山登りに対して、ワンダーフォーゲルは道中を楽しむもの。山歩きをしながら自分自身と対話して、自分を発見することに目的があるんだそうです。山頂にいち早く達しようとはせず、山を感じながら、その過程を楽しむというもの。

同じように、私たちはみんな壮大な道の途中を楽しむことに人生の意味があるのだと思うんです。

白木 山登りではなく、山歩きを楽しもう。

安藤 もちろん、頂上を目指さないワンダーフォーゲルだって、山道で迷わないように地図やコンパスを使います。それと同じように、私たちの本やオンラインサロンが役立ったら嬉しいです。究極の目的は、自分自身との対話。それが「Life is journey」と言われる理由なんでしょうね。旅することは生きることなんだと思う。

旅も生活も仕事も分けない
「ワーク・ライフブレンド」

白木 私は鉱山に行ったり、シンガポールでオーガニックフードの会社に関わったりして仕事で旅に出ることが多いんだけど、プライベートで旅に出ても「これ、かわいいな。こんなジュエリーにしたらどうかな」とか、仕事のことを考えることが多いんです。本当に心から好きで楽しいことを仕事にしているから、そうなっちゃうんだろうけど。美冬さんはどうですか?

安藤 私はいま、旅を通じてやっていること、発信していることがそのまま仕事になっています。フィリピンの英語留学体験が本になったり、ワークシェアリングに興味を持って働き方を工夫していたら、KLMオランダ航空のウェブムービーの撮影でアムステルダムのコワーキングスペースを訪れることが実現したり。だから、旅と生活と仕事をまったく切り分けられない状態に生きているんです。私はこれを「ワーク・ライフブレンド」って呼んでいて、旅が必要な私には、これがベストなライフスタイル。

白木 「旅が仕事に役立つ」とか、「旅を目的に仕事をする」ということではなく、国境を意識せずに旅を当たり前のように捉えて、やりたいことをやっている感じですよね。すごく共感。

軽装で出かけ、メモを取り、
五感をフルに使おう!

白木 旅上手な美冬さんに、「旅をフルに楽しむためのコツ」を教わりたい人も多いんじゃないかな。

 

安藤 2つあるんだけど、1つめは「荷物を極力少なくすること」。具体的には「45リットルのバックパック1つか、機内に持ち込める小さめのスーツケースで行く」こと。ミニマリストの観点からいうと、荷物が多い人は人生の荷物も多い人だと思う。旅に行くときには、ぜひそのレッスンだと思って持ち物を減らしてみてほしいです。足りなければ現地調達すればいいのだから。

もう1つは「メモをとること」。旅に出ると、見るもの聞くもの味わうものすべてが変わって、外側からの刺激によっていつもなら思いつかないようなアイデアがひらめいたり、新しいことを始めたくなったりする。それを「フリーズドライ」するために、忘れないようにメモを取るんです。今だったら、日記を書いたり、ブログやTwitterなどで発信するのもいいかもしれません。夏子さんのおすすめは?

 

白木 目の前のものを全力で味わう、ということかな。旅先で「次の旅はどこに行こう?」なんて思ってしまうのはもったいないです。五感を使って、その場その場を体験してきてほしいです。動画などバーチャルな体験が発展すればするほど、その場に行かなければわからないような土地のエネルギーを感じたり、匂いや手触りを感じたりするリアルな体験に価値が出てくると思うから。

安藤 その通り!最後にちょっと宣伝させてください。私たちが一緒に主宰しているオンラインサロン《Wonderland》は開始2ヶ月でメンバーが100人を超えて、10月には初めての海外イベントとしてハワイツアーを企画しています。その他、日々の投稿や毎週日曜日の質問コーナーに加えて、毎月私たちと一緒に食事をするメンバー限定懇親会、不定期に開催するイベントなど様々なコンテンツが目白押しです。

6月5日には伊勢谷友介さん、龜石太夏匡さんの主宰するオンラインサロン「松下村塾リバースプロジェクト」と合同イベントも行いますので、私たちと交流したい人、仕事や人生の相談をしたい人、一緒に各地を旅したい人など、どんな人でもウェルカムなのでぜひサロンを覗いてみてください。

安藤美冬/Mifuyu Ando

1980年生まれ、東京育ち。フリーランサー。慶應義塾大学在学中にオランダのアムステルダム大学に交換派遣留学。卒業後、(株)集英社を経て独立。ソーシャルメディアでの発信を駆使し、肩書や専門領域にとらわれずに多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイルを実践中。書籍やコラム執筆、商品企画、コメンテーターやイベント出演など、幅広く活動している。これまで世界54ヶ国を旅した経験を生かし、海外取材、内閣府「世界青年の船」ファシリテーター、ピースボート水先案内人なども行う。著書に『冒険に出よう』、『会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術』などがあり、6月には最新刊『ビジネスパーソンのためのセブ英語留学(仮)』を刊行予定。公式サイト:http://andomifuyu.com/

白木夏子/Natsuko Shiraki

1981年鹿児島県生まれ、愛知県育ち。起業家、株式会社HASUNA 代表。 英ロンドン大学卒業後、国際機関、金融業界を経て2009年4月に株式会社HASUNAを設立。人、社会、自然環境に配慮したエシカルジュエリーブランドを日本で初めて手掛け注目を浴びる。世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加、内閣府「選択する未来」委員会メンバーを務めるなど、国内外で活躍。Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に選出。日経ウーマンオブザイヤー2011受賞、世界経済フォーラムGSCメンバー、JVA2012中小機構理事長賞受賞。最新刊に『自分のために生きる勇気』(ダイヤモンド社)がある。公式サイト:http://www.hasuna.co.jp/

安藤さん、白木さんと「キャリア」「旅」「ライフスタイル」などを切り口に直接交流できる会員制コミュニティ『安藤美冬×白木夏子オンラインサロン Wonderland」はコチラから。

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