「最愛の夫を亡くして学んだこと」。Facebook女性役員のスピーチが胸を打つ・・・

米Facebook社のCOO(Chief Operating Officer)シェリル・サンドバーグさんが、UCバークレー校の卒業生に贈ったスピーチを紹介します。1年前に最愛の夫を亡くすという突然の不幸に見舞われた彼女が学んだこと、そして卒業を迎える若者たちに伝えたいこととはーー。

惹きこまれるスピーチ動画の内容を、全文紹介します。

「ロザリンド・ナス」という
一人の女性の話

今日、この素晴らしいバークレー校から旅立っていく卒業生のみなさん、おめでとうございます。

多くのノーベル賞やチューリング賞受賞者、宇宙飛行士、米国議員、オリンピックの金メダル受賞者を生み出したこのバークレー校にいられるのは、とても光栄なことです。ちなみに、いま私が挙げたのは、すべて女性です。

つねに時代の先を行くバークレーは、1960年代にフリースピーチ・ムーブメントを起こしました。当時は、長い髪の男の子たちを見て「男か女かわからない」なんて言う人ばかりでしたが、今ならマンバンを見れば男性だってわかりますよね。

バークレー校は初期より、男女ともにあらゆる生徒を受け入れていました。キャンパス開校当時、1987年度には167名の男子生徒に222人もの女子生徒がいました。私の出身校ではその後90年ものあいだ、一人の女性も学位を取ることがなかったというのに! 

かつて自分の可能性を見つけるために、ロザリンド・ナスという女性がここバークレー校にやってきました。ロズは当時、ブルックリンの下宿に住み込みで床掃除をする毎日を過ごしていました。家族を支えるためにと、ロズの両親は彼女を高校から中退させました。

そんな中、一人の教師がロズを復学させるべく両親を説得し、1937年、今みなさんのいる席に座り、学位を取得。彼女は、私が影響された祖母のことです。

私は、彼女の可能性を見出してくれたバークレー校に心の底から感謝しています。今日ここには「家族のなかで初めて大学を卒業する」という人もいるでしょう。そんなみなさんには、このお祝いの言葉を送りたいと思います。

なんとも素晴らしいことを成し遂げましたね!

伝えたいのは
「死」を通して学んだこと

今日は、いまこの瞬間へと導いた努力を祝う日です。

今日は、ここまで辿り着くために、あなたを育み、教え、励まし、涙を拭ってくれた人々へ感謝する日です。パーティーで寝落ちしたあなたの顔にラクガキしないでいてくれた人にもね。 

今日は、あなたの人生の一幕を終えて振り返る、新しいスタートをきる日。

卒業式での祝辞とは、若さと経験がともにダンスをするようなものであるべきです。あなた達には若さがあり、経験のある誰かがここに立つのです。その誰かというのが、今日の私が持っている役割です。

ここで今までの人生から学んだことを話し、皆さんは帽子を投げ、家族と記念写真を撮り、Instagramにアップして笑顔で家に帰るーー。 今日はちょっとだけ違います。

もちろん帽子投げと写真撮影はやりますが、私がここで話すのは「生きていて学んだこと」ではありません。死から学んだこと、それを伝えたいと思います。

胸いっぱいに広がる
喪失感と虚しさ

今まで、公の場でこの話をしたことはありません。簡単にはできないのです。この美しいバークレーのローブで鼻をかんだりしないよう、出来る限りの努力はするつもりです。

1年と13日前、私は夫のデイブを亡くしました。彼の死はあまりにも突然で、まったくもって予期せぬ出来事でした。私たち夫婦は、友人の50歳の誕生日を祝うためメキシコにいました。私が昼寝をしている間、デイブは一汗かきにジムへ行きました。

その後、床に倒れた夫を見つけ、家に帰り子供たちに父親が亡くなったと伝え、夫の棺が地中へ埋葬されるのを見ました。どれも予想なんてできないことでした。

それから何か月も、私は深い悲しみにくれていました。胸いっぱいに広がる喪失感で、考えること以前に、呼吸すらまともにできなくなっていました。  

夫の死は、私を根本から変えました。私は人が亡くなることの残酷さと悲しみの深さを知ると同時に、何が起きても、人は地面を蹴り、水面に顔を出して、また再び息をするのだと学びました。どんな壁に直面した時でも、喜びや意義を見出せるものなのです。

私が、夫の死を通してしか学べなかったことを、今日は新しい一歩を踏み出すみなさんに知ってほしいと思いました。希望、強さ、そして私たちの中に輝き続ける光について。

これから直面する
深刻な逆境を
どう乗り越えていくのか

カリフォルニア大学を卒業する人ならば、何らかの挫折を経験したことがあるでしょう。

たとえば成績がよくなかったとき。実際、Aマイナスでも怒っていたでしょうね。それに、Facebookでのインターンシップに応募したのに、Googleでのインターンシップしかもらえなかったとか。大好きな彼女だったのに振られてしまったこともあるかもsれません。

テレビの『ゲーム・オブ・スローンズ』が、原作から完全に離れてしまったときなんて、わざわざ4,352ページある内容を読みかえしたのでは?

みなさんはきっと、もっと深刻な逆境にいくつも直面するでしょう。仕事がうまくいかなかったり、一瞬で何もかもを変えてしまう病気や事故に遭ったり、チャンスを逃す時があるでしょう。

偏見に突き刺され、自分自身の尊厳を失うことや、修復不可能になってしまった恋人との関係など、愛を失うこともあるでしょう。そして、命を失うことだってあり得ます。 

みなさんの中には、そういった不幸や困難を経験した人もいるかもしれません。昨年、成績優秀者に贈られるメダルを授与されたラディカ(Radhika Kannan)は、自分の母親の突然死について素晴らしいスピーチをしました。

「デイブに会いたい」
と泣いてしまいました

こういった不幸や困難が自分の身にも起こり得るかどうか、考えるまでもありません。必ず起きます。今日話したいのは、困難が起こったときにどうするか、ということ。逆境がいつどんな形であっても、それを乗り越えるために何ができるのか。

「楽な時間」というのは、そのまま楽に過ぎていきます。問題は、試練や過酷な時間です。それがあなたを作ります。自分がどんな人間か。それは成し遂げたことではなく、どうやって乗り越えたかによって決まっていくものです。

夫が亡くなって数週間が経った頃、彼がいないとできない、父と子で行うアクティビティについて友人と話していました。必要なときには、夫の替わりを立てることにしました。が、私は「デイブに会いたい」と泣いてしまいました。 友人は私を抱き寄せてこう言いました。

「オプションAはもう無いんだ。だからオプションBをとことん楽しもうじゃないか」。 

私たちは皆、Bを選ばなければいけない状況を経験します。その時にどうするかが大切です。

苦境から立ち直るための
「3つのP」

シリコンバレーを代表して、ぜひみなさんに知ってもらいたいことは、私たちには色々なことを学べるデータがあるということ。

数十年以上に渡って、人がどのように挫折と向きあうのかを研究してきた、心理学者のマーティン・セリグマンは、人々が苦境から立ち直る際の課題に「3つのP」が存在していると発見しました。

・Personalization(個人で抱えてしまう)
・Pervasiveness(すべてに影響すると信じ込む)
・Permanence(永遠に続くものだと考える)

それぞれ負の出来事を乗り越えていくにつれて、私たちには「回復する力」が備わっていきます。

悲劇が起きたのは
あなたのせいではない

まず1つめの「P」、Personalization(個人で抱えてしまうこと)について私が学んだのは、すべてのできごとが、自分のせいで起きているのではないということ。

夫のデイブを失ったとき、私は自分を責めました。ごく一般的です。彼は不整脈により、一瞬で死んでしまいました。私は医療記録をくまなく読みかえし、自分にできたことや、しておくべきことが何だったのかを探しました。

私は夫の死について、3つのPを知るまで“どうすることもできなかった”という事実が受け止められずにいました。夫の主治医たちですら、この冠動脈疾患を見抜けなかったというのに。経済学を専攻していた私には、到底見抜けるはずがありません。

研究では、こうして事実を受け止めることで人は強くなる、とわかっています。失敗のあとに良い結果が出ると分かっていた教師が、教え子への指導方法を変えただけで成果が出たという例も。

思わしくない結果が残った水泳選手は、より速く泳げるようになると信じて良い成果を出します。失敗を個人的に受け止めないことにより、立ち直って成長できるのです。

人生はひどいこと
ばかりじゃない

2つ目の「P」は、Pervasiveness(すべてにおいて影響する)。つまり、あるできごとが、人生のあらゆる側面に影響を与えると信じこむこと。

Everything is awesome (すべては最高!)」という歌を知っていますか?逆を言えばこうです。「Everythingis awful(全ては最低!)」。すべてを飲み込んでしまう悲しみからは、逃げる場所も、隠れる場所もありません。

私が相談した小児心理学者は、できるだけすぐに子供たちを元の生活リズムに戻すようにと勧めました。デイブの死後10日ほどで、子供たちは学校へ、私は仕事へと戻りました。

Facebookのミーティングで、悲しみに包まれながらイスに座っていたことを覚えています。頭の中ではこう考えていました。

「ぜんぶ、どうでもいい」。

でも、やがて話し合いに引き込まれていて、気づくほんの一瞬だけ、夫の死のことを忘れていました。

この一瞬が、人生はひどいことばかりじゃないという事実を教えてくれました。子供たちも私も健康です。友人や家族が深い愛情をもって支えてくれました。ときには文字通り、体を支えてくれることだって。 

配偶者を亡くすことは、ときとして経済的ダメージにもなり得ます。とくに女性であればなおのこと…。厳しい生活に苦労し、子供たちと十分な時間を過ごせないまま、仕事をしなければいけない片親が、たくさんいます。

幸い、私には経済的な安定もあるし、必要に応じて休めます。自分の信じている仕事があります。1日中Facebookを見ていてもいいのですから。子供たちは徐々に夜も眠れるようになり、泣かなくなり、遊ぶ時間が増えていきました。

悲しみは
永遠に続くものではない

乗り越えるべき3つめの「P」はPermanence(永遠に続くものだと考える)です。悲しみは永遠に続くと勘違いしてしまうこと。何ヶ月もの間、どんなことをしていても、押しつぶされそうでした。

私たちは、漠然とその時の感情をあらわにしては、そこから派生する新たな感情に戸惑うことがしばしばあります。不安な気持ちがさらなる不安を呼びます。悲しみも同じです。

そんなときに、感情を受け入れつつ、それが永遠に続かないと知るのが大切です。私のラビは、「時間が傷を癒してくれるけれど、とりあえず今は悲しみに寄り添ってみて」とアドバイスしてくれました。すごくためになりましたが、私の言うところの「Lean In(一歩を踏み出して)」とは違いますね。

※ラビは、ユダヤ教において宗教的指導者であり、学者のような存在。
※Lean In (リーン・イン)女性、仕事、リーダーへの意欲。

4つ目の「P」は言うまでもなく、ピザの「P」。なんて冗談はさておき、私もみなさんくらいの頃に、この3つの「P」について知っていれば、どんなに助かったことでしょう。

体に免疫があるように
脳にも心理的な
免疫があるのです

大学を卒業して初めて就いた仕事で、「Lotus 1-2-3」へのデータ入力方法を知らないということが、上司にバレてしまいました。スプレッドシートのことで、あなたたちのご両親の世代ならわかるはず。

口をあんぐりと開けた上司は「そんなことも知らずにこの仕事に就いたなんて、信じられない」と言い放ち、部屋から出ていってしまいました。私は絶対にクビになると思いながら帰宅しました。

自分は本当に何も出来ないんだと頭を抱えましたが、じつのところ、私が苦手なのはスプレッドシートだけ。あの時点で「Pervasiveness(すべてにおいて影響する)」を理解していれば、あの1週間の心配がどれだけ楽になったことでしょう。

彼氏と別れたときにも「Permanence(永遠に続く)」を知っていたらよかった。あの気持ちがずっと続くものではない、と知っていたらどんなに楽だったか。正直、どの恋も永遠ではありませんでしたが…。

そして、恋人にフラれた時も、「Personalization(個人的に受け止める)」を知っていればよかった。悪いのはわたしだけではないことに気づきました。だって、シャワーを浴びないだなんて…! 

20代の時、初めて離婚することになったとき、3つの「P」がまとまってやってきたかのようでした。当時の私は、何をやり遂げても、ただの負け犬のような思いでいました。

3つの「P」は、私たちのキャリア、私生活、人間関係で起こる多くのことに対する一般的な心の反応なのです。いまこの瞬間、皆さんも自分の人生の何かに対して、この気持ちを抱いているでしょう。

でも、これを知っていれば、きっと自分自身を救えます。体に免疫があるように、脳にも心理的な免疫が備わっているのです。これを活用できます。

寝る前に
その日の「3つの幸せ」を
思い浮かべてみる

友人の心理学者アダム・グラントはある日、はこう言いました。

「夫の死が、さらに悪い事態を呼んでいたかもしれないと考えてみては?」。

元の生活に戻るにはポジティブなことを考えなければと思っていたので、まったく逆の発想でした。

私のリアクションはこうでした。もっと悪く?冗談でしょ。これ以下なんて、ありえない。でも、彼の返答が胸に刺さりました。

「もしかしたら、子供たちを車に乗せていたときに、発作を起こしていたかもしれない」。

驚きました。この言葉を聞いた瞬間、残りの家族全員が元気に生きていることがとてもありがたく感じました。その感謝の気持ちが、悲しみを和らげてくれたのです。

感謝の気持ちを見つけること。それこそが回復へのカギなのです。ありがとうという気持ちを持てる人は、より幸せで、より健康な人。自分の幸運を数えれば、実際に運気は上がります。

今年の抱負は、毎晩寝る前にその日嬉しかった瞬間を3つ書き留めること。ちょっとしたことですが、私の人生は変わりました。その日どんなことが起きても、寝るときに楽しいことを考えているから。

ぜひ、楽しいことがたくさんある今晩から始めてみてください。とはいえ、今日はキップス(Kip’s)に行く前、まだ記憶のあるうちに書き留めておくといいかもしれませんね。  

※Kip'sは大学の近くにあるレストラン

もし自分に「あと11日」しか
残されていなかったら?

夫の命日がやってくる少し前、私はこんなことを言いながら友人の前で泣き崩れてしまいました。

「1年前のこの日、彼には11日しか残されていなかった。そんなこと、誰も知らなかった」。

私たちは、もし自分に11日しか残されていなかったとしたら、どう生きるかを話しました。自分自身に聞いてみてください。すべて忘れてパーティーで大騒ぎして、ということではありませんよ。たしかに今日の夜だけは特別ですけどね。

私が言いたいのは、毎日がどれだけ大切なものなのかを理解して生きて欲しいということ。毎日がどんなに尊いものかをわかって生きてください。

悲しみは、まだ
今ここにあります

数年前、私の母が腰の手術をしました。若い頃は痛みもなく歩けましたが、腰が弱っていくにつれて、一歩進むたびに痛むようになりました。

手術から11年経ったいま、母は「痛みを感じずに歩ける一歩がとてもありがたい」と言っています。こんな感謝の気持ちは、手術をしなければ生まれなかったものです。

私にとって人生最悪の日から1年経ったいま、今日ここに立って言えることは2つあります。私の中にはつねに大きな悲しみがあります。これほどまでに、人はいつでも泣けるものだなんて、私は知りませんでした。

でも、私は痛みなく歩けることを知っています。人生で初めて、一つひとつの呼吸がありがたいと感じています。命というものに感謝しています。今まで私は、自分の誕生日は5年に一度、友人の誕生日はたまにしか祝っていませんでした。でも今は、つねにお祝いをしています。過去の私は、その日失敗したことの心配をしながら寝ていました。今は、その日の嬉しいと感じた瞬間のことだけを考えるようにしています。

毎日の一歩一歩に
感謝できるように

最愛の夫を亡くすことで、より深い感謝の気持ちに気づくというのは、本当に皮肉なこと。今では友人たちの優しさ、家族の愛情、そして子供たちの笑い声、すべてに感謝しています。

みなさんが、その気持ちを見つけられるようにと強く願います。今日のような素晴らしい日に見つける感謝の気持ちだけでなく、「つらい日々」のなかにも見いだせますように。

幸せな瞬間は、周りに溢れています。ずっと行きたかった旅行。本当に好きな人とのファーストキス。心から好きなことを仕事にできる日。スタンフォードに勝つ瞬間(ベアーズ頑張れ!)。その一つひとつを楽しんでください。

大切な毎日を、喜びや意義を見つけて過ごせますように。痛みなく歩けますように。そして、一歩一歩に感謝できますように。

困難に出くわしたとき、皆さんの心の奥深くには、学んで、成長する力があります。生まれた時から回復力があるわけではありません。それはまるで筋肉のように、増やせて、必要な時に引き出せるもの。その過程で、本当の自分について知り、最高の自分になれるかもしれません。

自分が思う以上に
傷つきやすく、
また強いのです

卒業生のみなさん、バークレー校を去るにあたり、今日お話した「立ち直る力」を身につけてください。

不幸や失望に出会った時、みなさんには「どんなことでも乗り越えられる力がある」ということを知っていてください。絶対にあるのです。よく聞く言葉ですが、私たちは自分が考えるよりはるかに傷つきやすくもあり、また、想像している以上に強いのです。 

そういう力のある組織を築きましょう。世界をより良くしたいと願うみなさんならできるはず。そのための努力は惜しまないでください。私は、職場にあるポスターがすきです。こう書かれています。

Facebook上にあるもので、自分に関係ないものなんてない」。

壊れたものを見つけたら、直しましょう。私たちは、生きる希望や愛する力、人間性を、人との繋がりに見出します。ハートの絵文字を付けたメッセージだけでなく、実際に家族や友人の側にいてあげてください。 

お互いを高めあい、オプションBをとことん楽しめるように。そして、嬉しい瞬間を祝うために、お互いに助け合ってください。皆さんの前には、"世界”が待っています。それ皆さんがどうしていくのか、見るのが待ち遠しいです。

ご卒業おめでとうございます、頑張れベアーズ!

Licensed material used with permission by UC Berkeley
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。