出会い系サイト「Tinder」に英キャメロン首相が突然現れた理由

EU離脱か残留か、その賛否を問うイギリス国民投票に全世界が固唾を飲んで見守った2016年6月23日。結果は周知の通り。

多くの報道でも伝えられているように、今回の投票の鍵を握っていたのは政治に関心が低い若者の投票率。残留派のリーダーで、すでに辞意を表明したデーヴィッド・キャメロン首相も、そこを見誤っていたわけではない。

時間を遡ること約1ヶ月前、デジタルマーケティング誌「The Drum」は、キャメロン首相の異例とも思えるこんな行動を報じていた。

「投票にいきましょう!」
関心の低い若者層を取り込む
あの手この手の舞台裏

かなりの接戦が予想された国民投票を前に、若年層の支持をいかに集めるかが、勝敗の焦点になると踏んだキャメロン首相率いる残留派は、ミレニアル世代のリーチが高いSNSやアプリを通じて投票を呼びかける戦略に打って出た。

5月中頃、マッチングアプリ「Tinder」のフィードに突然、一国の首相が登場したものだから、ユーザーたちは大騒ぎ。「キャメロン、Tinderに現る」そのニュースは瞬く間にネットで広まり、保守系の「The Times」までがこれを取り上げ大きく報じるほど。

もちろん、狙いは若者への投票呼びかけにあったことは言うまでもない。35歳以下のミレニアル世代にEU残留を支持する声が多いことは、先に実施された世論調査の結果からも明らか。是が非でも、彼らの票を獲得したい陣営は、首相のFacebookやTwitterアカウントを利用し、ここに攻勢をかけていった訳だ。

Tinder画面上で、EUにおけるイギリスの立場をクイズ形式で紹介する内容などで、投票への関心を高めてもらおうという意図があったのだろう。しかし、Tinderユーザーからしてみれば、投票促進キャンペーンが逆にユーザーインターフェースを下げる結果となり、キャメロン陣営の戦略は空振りに終わった印象だ、と「RT」は否定的な見方をしている。

ほかにも、1,200万Facebookユーザーが登録する、英娯楽系情報サイト「Lad Bible」でも、EU残留を呼びかけ、投票を促すキャンペーンを実施していたようだ。

EU残留を望みはすれど
有権者登録していない若者も

でも、そもそもなぜこうまでしてキャメロン陣営は、ウェブ戦略で若者層の投票促進キャンペーンに力を入れたのか?

じつは、世論調査の結果が示す通りEU残留を望む若者たちの声はあるものの、とくに18歳から24歳までのおよそ3割近くが、今回のような重要な投票にもかかわらず、有権者登録締め切り(6月7日)間近になっても、有権者登録すらしていない状態だったそう。また、皮肉にも保守政権によって制定された選挙制度の変更があだとなり、数パーセントが有権者名簿から漏れていることが発覚。

陣営はこの政治に関心があまりない若者層を抑えることで、残留に向けての足場固めを図っていたに違いない。

選挙カーよりもSNS戦略?
次世代型選挙のあり方とは

国の将来を左右するEU離脱の賛否とあり、熱の入れようもハンパなものではなかったはず。だが結果として、残留を望む彼らの声がどれだけ票につながったか、それも今となっては無用の討論なのだろう。それでも離脱51.9%、残留48.1%という僅差の結果だけに、ロビー活動ならぬモバイル上の“スワイプ活動”いかんでは、反対の結果が待っていたことだって十分あり得る話。

日本でもSNSをはじめネットでの選挙運動が解禁となり、数日後に控えた参院選に向け、各党アピール合戦が続いている。が、残念ながらいまだピンポイントで有権者に訴えかけてくるだけの戦略は乏しいと言わざるを得ない。それでも、今回のイギリスで実施されたような若者層へのアプローチが、いつ実施されたとしても驚けないだろう。

Top Photo by Andrew Parsons/Getty Images News/Getty Images
Reference:The Drum, The Times, RT
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