「東海道五十三次」をアレンジしたら、箱根と三島で驚きの出会いが待っていた。

53杯のクラフトビールを飲みながら東京から徒歩で京都を目指す「クラフトビール 東海道五十三注ぎ」の旅前回の記事はこちら)。

スタート地点となる「日本橋」は、1603年に徳川幕府によって架けられ、五街道の起点として定められた。橋のたもとには、日本国道路元標が今も残っている。

銀座、新橋を通り1時間半ほど歩くと、最初の宿場、品川宿に到着。かつての品川宿は、江戸を発つ人との別れを惜しんで見送りにきた人や、江戸へやってきた旅人を迎え入れる人で、大いに賑わっていたという。

横浜のディープなお店で
記念すべき1杯目

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現在の北品川駅の近くに、本陣跡がある。本陣というのは、大名や旗本が休憩したり泊まったりした宿のこと。各宿場に本陣はいくつかあり、多くの場合、その町の名家や商家が本陣として使われた。せっかく東海道を歩くのであれば、説明の書かれた石碑を見逃さないように歩きたい。

品川宿から9kmほど歩き、江戸から2番目の宿、川崎宿を通過。川崎は、京へ向かう人にとっては昼の休憩地点、江戸へ向かう人にとっては最後の宿泊地だった。

初日のゴール地点は、横浜と決めていた。その横浜までラスト5kmの地点で、ビール醸造家の友人、袴田大輔くん(現在は岩手県遠野市でブルワリーを造るプロジェクトに参画)が現れた。「一緒に横浜まで歩いて、おすすめのクラフトビール店に連れていきたい」と、応援に駆けつけてくれたのだ。

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慣れない長距離の歩行に初日からかなり疲労していたが、友人と話しながら歩くと気持ちも和らいだ。この企画、ひとりでやるのは無謀だっただろうか。疲労や痛みだけではなく、孤独とも戦わなくてはいけない。

何はともあれ、日本橋から29kmを歩き、横浜に到着。旅の初日を乗り切った。足の指には早くも水ぶくれができていた。肩と腰も痛くて仕方ないが、もう後には引き返せない。

横浜で袴田くんに連れていってもらったのは、クラフトビールファンに愛されるディープなお店「THRASH ZONE」。小さなお店だが、ここでしか飲めないビールが多数あるという。

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記念すべきこの旅1杯目のクラフトビールは、人気の「SPEED KILLS」。独特の苦味、そしてホップがとても効いている。うまい!歩いたあとのクラフトビールは最高だ。

しかし、疲れているため余計に酔いが回りやすい。毎晩ブログで日記を書くと決めていたのだが、飲み過ぎると後で大変になることを学んだ。意識が朦朧として書くどころではなかった。

東海道最大の難所
「箱根」を越える

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横浜を出て、2日目は茅ヶ崎まで29km、3日目は小田原まで26kmを歩いた。宿場の名前で言えば、保土ヶ谷宿、戸塚宿、藤沢宿、平塚宿、大磯宿、小田原宿となる。お気付きの方も多いと思うが、これは箱根駅伝のコースと重なる。戸塚中継所、平塚中継所、小田原中継所と聞けばピンとくるだろう。

そして旅の4日目。小田原から続くのは、東海道最大の難所、箱根の山登り。箱根湯本からは駅伝のコースを逸れて、旧街道を歩くことになる。江戸時代から残る石畳の道もあり、実に風情があった。

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途中、箱根湯本と元箱根(芦ノ湖)の中間地点にあたる「畑宿」という場所がある。ここのバス停で待っていると、到着したバスから2名、降りてきた。

「やあやあやあ」

両親だった。

74歳になる父が『東海道五十三次』の大ファンだと知ったのは、ぼくが歩き始めるほんの10日前のことだった。実家に帰省した際、何気なしに「今度、東海道五十三次を歩くんだけど、何か本とか持ってない?」と聞いたところ、書斎から段ボールに収まりきらないほどの関連書籍を持ってきてくれた。

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「え!こんなにあるの!?」

これらの本のおかげで、ぼくは下調べをすることができた。父は何年も前から古本を買い集めてきたそうだが、調べるのが主で、実際に歩いたことはない。「せっかくの機会だから、一日だけでも歩いてみたい」と、横須賀から鉄道とバスを乗り継いで母とともにやってきた。

ということで、畑宿から元箱根まで、旧街道を一緒に登山した。かなり急な上り坂だったが、元気に頑張っていた。気温は0℃ほどで、雪の残る道もあった。本当に寒かった。

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「しかし昔の人は、よく登ったよなあ」

と父が言った。江戸時代にウォーキングシューズなんて当然ないのである。その大変さは、実際に歩いてみるから想像することができる。知識は本で得られるが、実感は自分でやらないと得られない。これは大切な学びだった。

そして2時間後、ようやく眼下に芦ノ湖が見えてきた。箱根駅伝の選手たちの凄さもよくわかった。あのスピードで走って登るなんて、超人的だ。

芦ノ湖付近にクラフトビールを飲めるようなレストランはなかったが、コンビニには「早稲田ビール」や「東洋大学ビール」など、箱根駅伝にちなんだビールが売っていた。

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湖畔のカフェで一服し、両親は満足して帰っていった。

「じゃあ、京都まで気を付けて頑張れよ」

思いもよらぬ
三島での出会い

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歌川広重『東海道五拾三次之内 三島 朝霧』 静岡市東海道広重美術館蔵

5日目。登りは大変だが、下りは楽だ。静岡県に突入し、箱根を下ると三島に着いた。

途中、東海道の反対側から歩いてくるご夫妻に声をかけられた。

「あんた、どこから?」

「日本橋です」

「うちらは、京都から」

「えー!」

「もちろん、歩いて戻って歩いて戻ってよ。今日はもう少し歩いたらバスで帰る。あんたは?」

「日本橋から京都まで、一気に歩きます」

「一発で行くんか!そりゃあすごい!頑張ってな!」

握手をして別れた。

彼らのように、定年退職後に数年かけて東海道五十三次の完歩を目指す方々と、この旅で何人も会った。しかし、ぼくのように一気に歩き切ろうとする人は、そんなに多くはなかった。

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また、思いもよらぬ出会いもあった。広重の浮世絵にも描かれる三嶋大社でお参りをし、沼津へと向かっている途中、突然、見知らぬ男性に呼び止められたのだ。

「すいません、中村さんですよね?」

「え?」

「ブログで中村さんのことを知り、どうしてもお会いしたくて、車で東海道を走りながら、探していました」

「えー!? どうしてまた」

「実は、ぼくのおばあちゃんが難病を患っていて、『もし元気だったら何がしたい?』と聞いたら、『東海道五十三次を歩きたい』って言ったんです。だから、ぼくが代わりに東海道五十三次を歩いて、写真を見せてあげたら、少しでも行ったような気持ちになれるんじゃないかと思って。それで今朝、Twitterで『東海道五十三次』と検索したら、中村さんのブログにたどり着きました。ちょうど今日箱根を出られて、お昼に三嶋大社の写真を上げられていたので、そろそろこの辺りを通るんじゃないかと思って、やってきました。握手してください!あと、少しだけ一緒に歩いてもいいですか?」

「…もちろん!」

こんな好き勝手やっている旅が、まさか誰かのためになっているなんて。数百メートルだけだったが、話しながら一緒に歩いた。

「実際に歩いている人に会えて、お話を聞けて、本当に良かったです!ぼくも東海道を歩けるように頑張ります!これ、ビールばかりじゃ辛いと思って、富士山の水を買ってきました!ぜひ飲んでください!」

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涙が出そうになった。この思い出は、きっと一生忘れないだろう。

江戸から13番目の宿場、原では旧東海道沿いに建つ元同僚の実家に泊めていただいた。本人は不在だったのだが、この企画のためにサプライズで「沼津ベアード・ブルーイング」のクラフトビールを4種類も用意してくれていた。ご家族とおいしくいただいた。これでスタートから16杯目。なかなか良いペースだ。

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藤沢あたりから遥か遠くに見えた富士山は、もう目の前に迫っていた。少しずつではあるが、しかし確実に、ぼくは京都に近づいていた。

(つづく)

Licensed material used with permission by 中村洋太, (Facebook), (Twitter), (Instagram)
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