「東海道五十三次」をアレンジしたら、静岡でミラクル連発(vol.03)

53杯のクラフトビールを飲みながら東京から徒歩で京都を目指す、「クラフトビール 東海道五十三注ぎ」の旅、vol.03。(vol.01vol.2はこちら)

東京を出てから7日目で、静岡市に到着した。ここでも驚きの出来事があった。

静岡で働く友人と会うまで時間があったので、「クラフトビアステーション」というお店にひとりで入った。お店の方に「今こういう企画で旅をしていて」と話していたら、カウンターで飲んでいたお客さんが突然口を開いた。

「あ、クラフトビール飲みながら東海道五十三次歩いている方!?」 

「え、どうして知っているんですか!?」

実は、ぼくがこの旅をスタートした際、あるクラフトビールメディアが偶然ぼくのブログを見てくれたようで、「ユニークな企画だ」とFacebookで紹介してくれたのだ。

「あー! 五十三次さんだ!」

この企画のために友人の春日井智奈さんが描いてくれたイラストもインパクトがあり、たくさんの方が投稿をシェアしてくれた。

この方は、その投稿を見たらしい。

「まさか、その本人に静岡で出会えるとは! 応援していますんで、ご馳走させてください!」

なんと夕食をご馳走してくださった。さらに、静岡のクラフトビール好きのお仲間たちを招集してくださり、途端にお店が賑やかになった。そこで、クラフトビールまでご馳走になってしまった。反射炉ビヤ(伊豆の国市)の「太郎左衛門ペールエール」

話しているうち、静岡にはクラフトビールのお店がたくさんあると知った。ぼくは静岡に2泊したため、翌日もまた出会った方々がおすすめのお店に連れ回してくれた。

「BEER GARAGE」という静岡で一番有名なクラフトビールのお店へ入った途端、店員の方が叫んだ。

「あー!五十三次さんだ!」

お客さんが一斉にぼくのほうを見てきた。「あ~、彼がそうなのか」という声が小さく聞こえた。

「中村くん、あんたもう有名人だな(笑)」

地方都市におけるクラフトビールファンの世界は狭く、一夜にして噂が広まったらしい。まったく馴染みのなかった土地で、年齢関係なくたくさんの友人ができた。

ここではAOI BREWINGの「Zen-Infused OCHA ALE」(お茶エール!)など、静岡らしいクラフトビールも飲むことができた。ほのかにお茶の香りがした。

「またいつでも静岡に遊びに来いよ!」

静岡が好きな街になった。

今も残る
広重が描いた「丁子屋」

「中村さん!」

翌日、静岡市の市街地を抜けたところで、ぼくを呼び止める人がいた。見知らぬ方かと思いきや、見覚えのある顔。

静岡のテレビ局に勤める仲田くんだった。6年前、ぼくがダイヤモンド社で講演をしたとき、彼はそこで学生記者としてインターンをしていた。当時はまだ大学1年生だったけど、「将来記者になりたい」と言っていた彼の目はとても澄んでいて、尊敬する後輩のひとりになった。しかしもう何年も会っていなかった。

「車で走っていたら、橋を渡っている中村さんの姿が見えたので、先回りして待っていました。これ、差し入れです」

立派に記者になった彼との、奇跡の再会だった。

「頑張ってください!」

歌川広重『東海道五拾三次之内 鞠子 名物茶店』 静岡市東海道広重美術館蔵

そこから2時間ほど歩くと、江戸から20番目の宿場、鞠子(丸子)宿に到着した。

この広重の絵に描かれている「丁子屋(ちょうじや)」は、今も鞠子に残っていて、外観・内装ともに風情たっぷり。

名物の「とろろ汁」をいただける大きな部屋には、広重の『東海道五十三次』の全55点が飾られていた。

日本橋から京都三条まで、こうして一連で眺めるとやはり壮観。

通ってきた宿場と、これから通る宿場。自分の現在地点を把握し、絶対に京都まで行こうと気合いを入れ直した。

浜松で待ち受けていたのは…

旅の10日目は、掛川から浜松への28km。浜松で思い出すのは、2010年7月のこと。

当時ぼくは、大学4年生。翌月に控えるヨーロッパ自転車旅の実現のために、協賛集めに奔走していた。

ある日、大阪の自転車会社の社長さんから、「中村さんの夢を応援したい」と、ロードバイクを提供していただけることになった。

それで大阪まで夜行バスで向かい、自転車を受け取り、そのまま自転車に乗って大阪から横須賀まで、5日間かけて帰ってきた。

その途中、浜松に立ち寄った。理由は、当時ぼくのブログを読んで、その旅に協賛してくださった中島さんという方が浜松でカレー屋さんをやっていて、「良かったら店に寄ってください」とTwitterで声をかけてくださったからだ。そしたら中島さんが、おいしいカレーをご馳走してくださり、とても応援してくださった。

歩きながらそのときのことを思い出し、ふとお店に電話をかけてみた。7年も前のことだ。向こうも忘れているかもしれないが、直感には従うことにしている。

「もしもし、中島さんですか?」

「はい」

「あの、ぼく中村洋太と言いますが、昔、自転車旅の際にお世話になりました…」

「…あー!」

覚えていてくださった。

「え? 今度は歩いてるの? 今夜浜松に? どこ泊まるの? ネットカフェ? うち泊まっていきなよ」

人とのご縁とは素晴らしいものだ。しかも中島さん、数年前からクラフトビールの大ファンだという。そしてその日は週に一度の定休日でもあり、今日は空いているという。本当に偶然なのか…?

「いやー、嬉しいなあ。行きつけのクラフトビールの店があるから、一緒に行きましょう!」

そして、本当に再会できた。クラフトビール専門店「ティルナノーグ」で飲んだ「ゴールデンティルナ」は、このお店でしか飲めないもの。開店1周年記念として沼津ベアードビールに特注したものだ。うまい!

中島さんに電話をしなければ、ぼくはこのお店に来ることもなかったかもしれない。どこかでひとりでビールを飲んで、いつも通り、ネットカフェに泊まっていたかもしれない。

しかし、ふと思い立って電話したことがきっかけで、様々なことがつながり…。昔話に花が咲き、本当に偶然なのだろうかと思うほど素晴らしい夜になった。

12日目。東西に長い静岡県を越えて、ついに愛知県に入った。疲労は溜まってきたが、奇跡はなおも続いた。

(つづく)

Licensed material used with permission by 中村洋太, (Facebook), (Twitter), (Instagram)
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