耳の聞こえない人との対話で、僕たちはもっと豊かになれる。

1998年にドイツで開催されて以来、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国で開催され、これまでに世界100万人が体験した 「ダイアログ・イン・サイレンス(静けさの中の対話)」。

参加者は、音を遮断するヘッドセットを装着し、静寂の中で、集中力、観察力、表現力を高めていき、言葉の壁を超えるコミュニケーションを体験する。

そんな新しいエンターテインメントが、8月1日〜20日で実施された。国内初開催となった同イベントについて、総合プロデューサーである志村 季世恵さんに話を伺った。

志村 季世恵(しむら きよえ)

1962年生まれ。人間の誕生から臨終までを見つめたセラピーを行うバースセラピストとして、述べ4万人を超えるカウンセリングを実施。音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテインメント「ダイアログ・イン・サイレンス」を主催。この活動を通じて、多様性への理解と対話の必要性を伝えている。

耳の不自由な人との出会いで
新しい文化を知ることができる

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ーー何を目的として、このイベントをはじめられたのですか?

志村 私の本業はセラピストなのですが、心が病んでしまうと感じる力が衰えてしまうこともあります。「今日は天気がいいな」とか「ご飯が美味しいな」とか、そんなことも感じにくくなる。

今やっていることと考えていることが一致しなくなってくる傾向が強くなり、例えば、ご飯を食べているときに「美味しいな」って感じるところを、全く違うことを考えてしまったり。お風呂に入って「気持ちよいな」と感じることより、昨日のことを悩んでしまったり…。行動と考えが乖離してきて、感じる力が衰えてくる。それって、よい状態ではないのです。
 
ーーなるほど。

志村 一方で、癌の末期の方と出会うと、今を感じることを大事にしていると気づくんですよ。「今、ご飯が食べられているな」「美味しく感じられているな」とか「今日、生きているな」とか。それってすごく大事なんです。今日「おやすみ」といったり、明日「おはよう」と言える。そういうことがだんだん尊くなってくる。そうやって命と向き合うことによって、乖離していた行動と考えが、再び重なりあっていく

ーー不思議ですね。

志村 患者さんの多くは「病気になってはじめて行動と考えが一致できた」って言うんですけど、同時に「残念だな。もっと元気な時に気がつけたらな」って後悔もしてしまう。でも、私は、それを後悔で終わらせたくないと思っているのです。そこで、もっと多くの人に伝えたいという想いで本を書いたり、ワークショップを開いたりしているのです。

そんな時に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に出会うことになったんです。暗闇の中で対話を試みるプログラムなんですが、暗闇なので歩くことさえ大変。でも、そこには多くの気づきがあるんです。「自分の1歩1歩ってすごく大事なんだ」とか「電車の中で人にぶつかると嫌なんだけど、暗闇でぶつかるとそれが温かくて、人の存在感が感じられてハッピーだ」という声もたくさんあって。

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ーーそれは面白い。

志村 もっと面白い話があって、ある日、イベントの発案者が聴覚障害者の方と出会った時に「あなたはドイツ南部の方だね」って言われたそうなのです。なぜ分かるのかと聞いたところ、口の動きで分かったと言われてびっくりしたそうです。

目が見えない人には独自の文化があるんですけど、耳の聞こえない人も特別な文化があるんだってことに気づいたそうです。私たちは文化をお互いが伝え合うことを大事にしているんです。暗闇でも静寂でも。普段出会わない目の見えない人とか、耳の聞こえない人と出会うことで新しい文化を知ることができる。

ーー新しい体験ですね。

志村 はい。自分の中の扉が開くような感覚です。その扉が開くとまた自分も違うところに行ける。それは、知らない世界へ旅に出かけるような感覚。そういう感じがいいなと思って。口を閉ざして耳が聞こえない状態で対話をするという試みを日本でもやってみたいと思ったのがきっかけなんです。

日本で1番ハグが多かった場所

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ーー20日間の日本初開催を終えて、体験者の方にはどんな変化が見られましたか?

志村 90分のセッションが終わったあと口角が3ミリくらい上がっているんですよ。ひたすら笑っていたり、表情を使っているからだと思うんですけど。でも、1番の変化は、耳が聞こえない人(アテンドのスタッフたち)と出会ったことでしょうね。知らない世界の人と出会っているわけじゃないですか。

ーーそうですね。

志村 あまり行かないような国があって、そこに行ってはじめて旅をすると感動しますよね。それと似ているんだろうなって感じたんですよね。同じ日本人なんだけれども全くもって異なるコミュニケーションを試みる。参加者の多くは、そういう人と出会う喜びが強かったんじゃないかと思います。だから、ハグも多かったんです。

ーーハグですか?

志村 90分のセッションが終わると参加者とアテンド役の聴覚障害者がハグをして、気持ちを伝え合うシーンがとても多く見られました。アテンドの1人が言っていたのですが、「ここは日本中で1番ハグが多い場所だったんじゃないか」って(笑)。

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ーー20日間で3,500人もの来場者があったようですが、どうしてこんなに多くの人が集まったんだと思いますか?

志村 単純に、喋らない、聞こえないという想像がつかない体験をしてみたかった人が多かったからなんじゃないかと思います。あとは、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をやっていたことによって、比較的、コンセプトが分かりやすかったのかもしれません。ダイアログ・イン・ザ・ダークを通して、ダイアログ・イン・サイレンスを体験した方もかなり多かったはず。全体的には対話をしたいという人が増えてきたんじゃないかという気がします。

ーー対話をしたい人が増えたのは、この時代、対話自体が希薄になってきている背景があるからでしょうか?

志村 そうかもしれないですね。通じ合わないとか、伝えても伝わらないとか、なかなか聞いても相手のことが理解できないとか。その傾向が、だんだん強くなってきてるんじゃないかと思います。だから、本当の意味で対話してみたい人が増えているんじゃないですかね。

ーー本当の意味での対話ですか?

志村 人間って、便利さを求めれば求めるほど、不便さを感じたい生き物なんですよね。飽食の時代にファスティングが流行るとか。こんなにモノが溢れているのに断捨離したいとか。SNSやコミュニケーションツールは増えたのだけど、そうじゃない形での対話をしてみたいというか。目の前の人とリアルに話したいという根本的な欲求があるんじゃないかと思います。

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ーー定員を12人にしている理由はあるのでしょうか?

志村 この数字には意味があります。というのは、目で把握できる最大人数が12人くらいなんです。誰も見落とすことがない数なんですよね。それは、このイベントが開催されている海外でも共通の人数なんです。

ーー志村さんご自身が感動したエピソードを教えてください。

志村 アテンドたちの変化には驚きました。最初は、聞こえないことって大変だし、それを伝えるイベントだったと思っていたようなんです。でも、そうじゃないって説明したんです。ここでは、福祉じゃなくてエンターテインメントとして活動してほしいと。なので、参加者と一緒に楽しんでくださいと伝えました。最初は随分戸惑っていた感じでしたが、実際にアテンドをやっていただいた後、「エンターテインメントとしていかに必要なものかがわかりました」という言葉を聞いて、ああよかったなって。

また、参加者の中には「手話を習いたくなった」って方もいました。この人と話がしたい。だから、手話を覚えたいって。英会話と同じような感覚で手話を習いたいって。手話というのは、どちらかというと不便なものを不便にしない1つの手段だって思っていた人が、言語だったんだって気づかれたようなんです。

ーーそれは興味深い話ですね。

志村 そうなんです。決して聴こえない人と喋らなきゃいけないっていうのではなくて、この人と喋りたいからという気持ちから手話を身につけたいと。英語を学ぶきっかけが、たまたま好きになった人が英語圏の人だったからとか、気に入った曲の意味を知りたいから英語を覚えたいっていう動機と同じなんですよね。

ーーそれは面白いですよね。手話を自分の世界を拡げる新しいツールだと思ったということですよね?

志村 そうなんです。それを参加者とアテンドの皆さんが互いに分かりあえたということは、すごく素敵なことだと思うんです。それに、「ダイアログ・イン・サイレンス」のイベントが終了しても、いまだにFacebookに対する想いが発信され続けられているんです。普通、1、2日くらいで終わってしまうものなのですが、どんどん書き込みが増えているんですよね。

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ーーすごくコミュニケーションを楽しんだんでしょうね。決して義務などではなく、お互いを知ることは権利なんだというポジティブな意識が働いている気がします。

志村 その通りです。通じ合える喜びがあったんだと思います。

ーー「ダイアログ・イン・サイレンス」は、子どもも参加ができますよね。

志村 海外では、学校教育にもなっているんです。多様性を知るには1番いい授業なんですよ。人とのつながりを感じてもらうことにもなるし、異なる文化を持つ人たちと出会えることにもつながる。そういう実体験を子どものうちから体験できると、とても豊かなんですよ。日本でも学校教育の一環として常設になればいいと考えています。

ーーとても意義があることです。ぜひ、常設になればいいですね。子どもと大人の反応の違いはありましたか?

志村 子どもたちは、とても理解が早いですよ。大人が察知するまでに1分かかるとしたら、子どもは1秒で分かってしまう。びっくりするくらいに早かった。だから、表現も豊かで自分の顔を崩して相手に伝えたり、相手の表情を読みとって理解することに長けていましたね。大袈裟かもしれないけれど、日本の国を変えて欲しいなって思います。そんな理由で、小学生から参加できるようにしたんですよ。

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ーーそんな子どもが増えると、どのような社会的変化が起きると思いますか?

志村 マイノリティとマジョリティというのは、やはり、マイノリティの人たちの方が弱者に思われがちですよね。本当は、そうじゃないんだけど、多数の意見の方が通りやすいんです。そういったことがいじめになっていってしまったり…。それは歴史の中でも繰り返されています。でも、決してそうじゃないんだってことを伝えたいんです。

いろんな人がいていいんだなって。人の存在を肯定できて、いろんな人たちの文化をすごく素敵に感じられる。そういう関係の中でお互いを知り合えると新しいものが生み出せるんじゃないかって思うんです。つまり、聴覚障害者の文化だけでは凝り固まってしまうだろうし、健常者だけでもダメ。いろんな人たちの文化を交換することによって次の世界が見つかったらもっと楽しくて、平和になるんだろうなって信じているんです。

諦めなければ、想いは伝わる

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ーーこのプロジェクトを通じて、志村さんご自身の中でどんな変化がありましたか?

志村 「ダイアログ・イン・サイレンス」を通じて、伝えることを諦めちゃいけないんだなって。今回、3,500人の参加者の中で、途中で伝えることを辞めた方はいなかったんですよ。もう無理とか、リタイアする人が1人もいなかった。ずっと伝え続けることを諦めずにやりきってた。伝える側も、聞く側も諦めなかった。すると、諦めなければ伝わるんですよね。すごい発見でした。

ーー最後になりますが、TABI LABOの読者に伝えたいメッセージはありますか?

志村 私には2人の20代の娘と息子がいるのですが、今の若い人たちって、世の中を冷静に見てる気もするし、私たちの時代と違って、もっと現実的に物事を考えているんですよね。でも、もっとワクワクしていいし、もっとノビノビしていいと思います。そういう社会を一緒になって作っていきたいと感じています。

また、もっと自分を出していいんじゃないかって。今回、ボランティアスタッフとして協力してくれたある方が、じつは聴覚障害者で。最後に「耳が聞こえないことを言わないようにしていた」って話されたんです。その方は、保育士だったらしいんですが、耳が聞こえなくなってしまって、最近、仕事を辞められたそうなんです。でも、このイベントを通じて「耳が聞こえなくてもいいんだ」「自分が本当のことを言ってもいいんだ」ってことに気づいたって言うんです。

ーーなるほど。

志村 その方が「次はボランティアじゃなくて、アテンドになるためにここに来ます」って言ってくれたんです。そんな風にもっと自分を出していいし、いっぱい失敗してもいいと思います。それを伝えるためにこのイベントを続けていきたいと思っています。

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