関西からならもっと近い!東京から5時間半かけて「極上の散歩」をしに行った

羽田空港を発ったのは定刻11時50分。

現地空港についたのは13時。乗り換えの間に駅で簡単な昼食と散歩を済ませ、たった1両の電車に乗って目的地に着いたのは、17時23分だった。

高知県安芸郡東洋町。この町に流れる川沿いを歩く野根川リバーウォークに参加するために、東京から来た。そう、片道5時間半かけて。

南四国に流れる
“最後の清流”を歩く

8月下旬のからりと晴れた朝。東洋町の「海の駅」にリバーウォークガイドさんと待ち合わせ、40分ほど専用バスで山間の道を辿りながら到着したのは、ちょうど高知県と徳島県の県境となる川の上流地点だった。

今回の舞台となる「野根川」をほとんどの人は知らないと思うが、サーフィンのメッカ・生見海岸に隣接する中規模の川。“最後の清流”と呼ばれるほど水質が良く、ダムを持たない川としてとても希少な存在でもあるそうだ。

重なり合っている巨岩は「牛ヶ石馬ヶ石」と呼ばれている。高知県と徳島県の県境を決めたとされる昔話に登場する。

リバーウォークと言っても、ライフジャケットを着て川の中を歩くものではない。歩くのは、川沿いの穏やかに舗装された道。

水の中を歩くレジャー感あふれる体験を想像していた私は「おっ、散歩…?」と拍子抜けしたのは事実。だがこの『野根川リバーウォーク』は、想像を越えた「最高の散歩道」だった。

“清流”とは、このことか

全長約13kmのコースには、全部で14の見どころがガイドされている。だけど番号も名称も与えられなくたって目を奪われるのは、その水の圧倒的な透明感。見下ろした川底に転がる石や、群れ泳ぐ魚が、肉眼でもよく見える。そしてなんといっても、青い。

やっぱり、青い。透き通っている。夏の空を映した水底の青が、とにかく美しいのだ。すると、同行してくれるガイドさんがこんなことを教えてくれた。

「野根川の水の青さが美しいのは、木々の緑や、苔むした石垣の緑の力もあると思うんだよね」と。

そう言われて見てみると、確かに水の流れが穏やかなところには、石垣に苔がむしている。そして、私たちの歩く道にも。

さっきまであんなにジリジリと暑かったのに、苔むした木陰を歩いている間は、まるで避暑地のようだった。都会では感じることができない風が、蒸した木綿のシャツの間を通り抜けていく。湧き水が流れるくぼみから吹く風には「これが風の通り道か!」と、ドキドキした。日向でも、心なしか日差しがゆるやかな気がするほどで、嘘のようだけど、カラダが喜んでいる!という感覚が確かにあった。

見たことない!上流ならではの
ダイナミックな川の姿

「わっ!これは!」

と思わず声を上げたのは、この「U字谷」の絶景だ。山って、川って、こんなに奥行きのある景色だったのかと、目が覚めるような思いだった。このパノラマをみてほしい。

リバーウォークをスタートさせるにあたり、このスポットのように無造作に立ち込めている雑木は整備しているそう。急に開けた視界に、きっとあなたも驚くと思う。

ゴツゴツした驚くほど大きな石、ダイナミックに蛇行する川……山奥の上流ならではの景色は、ここまで時間をかけて足を運んで良かったと、心から納得できた瞬間でもあった。

上流ほど巨石が多く、下流に行くほど小さく粒が揃ってくる。

いたる所で目にする、すずなりの葉が可愛らしい植物はマメヅタという名前らしい。ガイドさんは色々なことを教えてくれる。

野根川の鮎を
もう一度、日本一に

昼食では、野根川の鮎のバーベキューがオプションで楽しめる。

2時間ほどかけて4.5kmの道のりを歩くと、ちょうどお昼ご飯の時間に。ここでは野根川で釣れた鮎を、炭火焼きにして頂いた。鮮度が抜群で生臭さがなく、香りがやさしく鼻をくすぐるめちゃくちゃ美味しい鮎だった。「鮎の香りの良さは、エサとなる苔の良さがカギなんだよ」とガイドさん。苔と言えば、野根川の水の青を映えさせていた立役者でもある。苔って、スゴイ。

実はこの野根川の鮎は、かつて全国の河川が参加する鮎コンテストでグランプリを獲ったことがあるほどの鮎なのだ(※)。しかしえん堤の障害などにより遡上が出来なくなり、その生息量は一気に減少してしまったそう。

手前が整備された魚道。川の流れがゆるやかになり、魚の遡上を助けてくれる。

「野根川リバーウォーク」ガイドメンバーの水谷さんによると、こんなに美しい川ですら生態系の崩壊が進んでおり、日本各地の多くの川が同じような状況にあるのだという。

日本一の鮎を育てた川を再生しよう。東洋町がスタートさせた野根川とその生態系を守ろうとする動きは、やがて国家プロジェクトとなり、壊れたえん堤と魚道の整備に繋がった。その結果なんと、昨年よりも圧倒的に多くの鮎が遡上してきたのだそう!

「野根川の美しさを知るだけでなく、こうした自然と人間の関わり合いにも目を向けてもらえたら嬉しい。こんなに素晴らしい素材は、なかなかお目にかかれないからね」と語ってくれた水谷さん。本当に川を愛する人たちが案内してくれるリバーウォークは、学び多き散歩道でもありました。

※第四回「清流めぐり利き鮎会」グランプリ

山、川、海
そしてひとの暮らし

名留川地区の春日神社にある千年杉も、必見だ。植林された杉とは比べ物にならないほど立派な、堂々たる神木が拝める。

このあたりの沖積地には、野根川よって運ばれた豊かな養分が、たっぷりと溜まっているのだという。周囲には集落や田畑が現れ、ひとの暮らしが垣間見えるようになった。水田には、たわわな稲穂が頭を垂れはじめている。豊かな川を守る、ということは、私たちの暮らしを守るということと結びついているのを実感した。

自然とつながることは
とても豊かなことなのかもしれない

「コースに入れるか迷ってるんだけどね…」とオマケで案内して頂いた通称:ポンカン山から町を見下ろすと、生見海岸でサーファーが波を待っている姿が見えた。

都会で暮らしていると、これほどの自然とふれあうことはほとんど無い。だけど、こうやって自然とのつながりを感じられることって、めちゃくちゃ豊かなことなんだと思えた。

そんな最高の散歩道、関西方面からなら、もっと手軽に来られそうだ。瀬戸内の美しい海を眺めながら車を走らせるのも、きっと気持ちがいいだろうな。次の週末にわざわざ野根川へ、って、ありだと思うんです。