私たちは本当に「生き方」を選べる? ——松陰神社前、味噌、そして人生の話。

このテキストは、Airbnb「体験」レポートでお世話になった、カネサオーガニック味噌工房の安部美佐さんへのインタビューだ。

美佐さんは9月1日、Airbnb「体験」の「お味噌作りワークショップ」を行った松陰会館から徒歩4分のところに、初の実店舗『カネサオーガニック味噌工房 松陰神社前』をオープンした。ここでは宮城県の実家で手作りしている発酵食品、お米・大豆、加工食品を販売している。

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当初は、Airbnb「体験」のレポートのみの予定だった。しかし、ワークショップのあとでお店を案内してもらい、話を聞くうちに、私はこれを記事にしようと心に決めた。理由は、Misaさんが今、私たちが「選択」の時代にいることを体現していたからだ。

マリエさんにインタビューさせてもらったときも、日本初のボタニカルブランデー作りをしているmitosayaに取材でうかがったときも、彼らは口をそろえて、生き方を「選択」することについて語っていた。どこで生きていくのか、何をして生きていくのか。インターネットさえあれば都心にいる必要はないこの時代に、自分の価値観がフィットする「居場所」を探していたのだ。


しかし、時代の移りかわりを実感する一方で、私には釈然としない部分もあった。彼らはすでに有名だったり、社会的に成功を収めていたりしている。私のようなサラリーマンを含め、いわゆる一般人が、同じように生き方を選択するのはまだハードルが高いのではないか。本当にそれは、リアルなことなのか。

そんななかで出会ったのが美佐さんだった。美佐さんはかつて広告代理店に勤めていたが、自分の仕事に対して疑問をもつことがあり、実家へ戻った。そこから、家業の農業にとりくんだり、発酵食品を製品化したりするようになった。自分が納得できる生き方を「選択」したのだ。しかしそこにはまだ迷いもある。確証のないなか、ひたむきに生活を営む姿がある。

私はそこに、今この時代のドキュメンタリーがある、そしてそれを残すことに意義があると思ったのである。

前置きが長くなったが、そういうわけで、急遽インタビューを記事化させてもらった。

「農家が製造から販売まで
 全部やることがベース。
 そこから離れすぎてしまうと
 いけないと思ってるんです」

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——「お味噌作りワークショップ」、楽しかったです。ありがとうございました。

美佐:こちらこそありがとうございました。

——美佐さんは、ご実家は宮城で、ご家族で農業をしていらっしゃいますよね。どういう感じで東京と宮城を行き来しているんですか?

美佐:お店を開く前は月の半分くらいは実家に帰って、糀やお味噌を作ったりしていたんですけど——。

——お店をオープンすると、そこのバランスをとるのがなかなか大変そうですね。

美佐:そうですね。でも、農産物を作っている農家が製造から販売まで全部やる、というのがうちの特徴だから、私が作るところから離れすぎてしまうといけないと思っているんです。そこは忘れないようにしたくて。

——なるほど。ワークショップでは最初に1時間の座学があって、大豆や発酵について「理解する」部分を大切にされてますよね。その姿勢は、その気持ちによるところが大きいですか?

美佐:はい。うちは昔から伝わる伝統的な味噌蔵ではなくて、お米と大豆を有機農業で作っているところが切り離せないベースにあるので、ちゃんと農業の部分を伝えたいなと思っていて。単にお味噌だけを切りとって「発酵食品って体にいいですよね」っていう話だけじゃなくて、もっと、お米の根本的な話、今問題となっていることも話したいなと——なかなか、ワークショップでどこまで話してもいいのか悩むんですけどね。

——9月1日には初の実店舗『カネサオーガニック味噌工房 松陰神社前』をオープンされました。その経緯を聞いてもいいですか?

美佐:オープンする前は、どういうかたちが今、私たち家族でやっていることの魅力が一番伝わるかを考えていたんです。物販のお店になるのか、飲食店になるのか——物件の条件次第かなと思っていたなかで、松陰神社前にたどり着いて。

——古いお店もたくさんあって、風情ある商店街ですよね。どうして松陰神社前に?

美佐:東京にはおしゃれな場所がいろいろありますけど、そもそも私は東京にルーツがないので……「長く続けられるお店を持ちたい」と思った時に、「なんで私この土地に突然お店を出すんだろう?」ってどこもピンとこないことが続いて。そんなときに、駒沢大学で広告代理店時代の先輩がビーガンレストランのmiqueというお店をやっているんですが、その方に相談したんです。そしたら、お店の場所を探していたときに松陰神社前も候補だったと教えてくれて。

——なるほど。そこで松陰神社前が候補に。

美佐:松陰神社商店街に『マルショウ アリク』っていう居酒屋があるんですけど、そこにふらっと入って、店主と常連のおじさんに「実は私、お店を出そうか悩んでて」という話をしたんです。そしたら「いいんじゃない?」って。

——後押ししてくださったんですね。

美佐:はい。常連のおじさんが、「もしこの街でお店をやろうと考えてるなら、会ったほうがいい、おもしろい人たくさんいるよ。よし、2軒目行くぞ!」って、そこから3軒くらいはしごして(笑)。

——ははは。そうやって繋いでくれたんですね。

「今の農業を続けていけるのか。
 そういう不安は、家族にもある」

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——ちなみに、宮城のご実家と松陰神社前って、何か共通点があったりします?

美佐:実家は本当に田んぼしかないところで、街の特徴としては似ていないと思うんですよ。でも、人との距離感? みんなが自分の商売だけというより、街のこと、数軒隣のお店のことまで気にかけ合ってる。そういうあたたかいところは似てるのかなと思いますね。だから、人で決めたんです。。案内してもらったその日のうちに家族に電話したんですよ、「すごくいい街が見つかったよ」って。

——今おっしゃった「数軒隣の店まで考えてる」って、まさに美佐さんらしい価値の見出し方のように思います。

美佐:そうですかね?

——ワークショップでも、発酵食品がどうこうだけじゃなくてお米の問題、ただ「楽しい」だけじゃなくて理解するための座学っていう、まさに「隣の隣の人のことまで考える」人で。そこに価値を見出す人なんだなあと、今話を聞いていて思ったんですけど。

美佐:でも、そうかもしれない……。たまたまふらっとお店に入ってきた他人なのに、親身になってくれたことに感動して。しかも全然押し付けがましくて。「悩んでるなら案内するよ。でも興味がなければ全然いいよ〜」って。そういう人たちに最初に出会えたのが大きかったですね。

——そんなふうに、自分の価値観がフィットする場所に巡りあえて、お店を開くことになって。まだ始まったばかりですが、将来的な展望って何かありますか?

美佐:うーん……私はあまり「大きくしたい!」とかは思ってないんです。細くてもいいから、ちゃんと長くここの地元の人たちに愛され続けるお店になりたいなあと思ってて。

——うんうん。

美佐:とはいえ、家族で生産からやってることだから………頭を抱えちゃうのは、どうすれば農業をきちんと持続していくことができるのか、何十年も経って次の世代になったときに、お米と大豆を作ることが経済的な面も含めて続けていけるのか、ということ。ちゃんと自由に楽しく真剣に農業を続けて、それがきちんとお金にかわるかたちが理想ですが ……やっぱり、家族の中にも不安はあって。その突破口がどこかにあるのか——このお店がその答えだとは思ってないんですよ。

——お店も、ワークショップも、もちろん実家の農業も、総合的に活動していくなかでってことですよね。

美佐:私が実家に戻って農家として、っていうのじゃない関わり方で、「作るってこういうことだよ」っていうのを、そういうのが身近にない都会の人たちに伝えたいと……でも、まだよくわからないこともたくさんあるんです。モヤモヤしてて(笑)。

——お店開いたばっかりなのに(笑)。

美佐:それはそれ、これはこれかな(笑)。

——でも、わかる気がします。今の時代って、膨大なリソースをかけて大きなビジネスを成立させる以外の「成功」があるわけじゃないですか。自分が心地いいと思える生き方を「選択」するっていう。まだそれが可視化されてなくてモヤモヤする部分はあるけれど、時代として、その流れは確実にあるわけで。

美佐:そうですね……。利益のことを考えると、「このお店ってやる意味あるのかな?」というふうになるんですよ。細々と私の生計立てるだけならいいけれど……家族、特に父親は職人気質でずっと農業だけをやってきた人なので、このお店の役割を伝えるときに、難しかったりするんです。

——別に反対されてるわけじゃないけれど。

美佐:はい、そうですね。

——そういうとき、ご家族にはどういうふうに気持ちを伝えるんですか。

美佐:うーん……まずはやってみようっていうのがあるから。ワークショップやイベントを通じて、うちの商品を喜んでもらえるというのはわかったから、それで……。でも、5年後「これならみんなで農業やったほうがよくない?」って思うかもしれないし、お米と大豆以外の作物を作ろうかってなるかもしれない。

——でもそれは、美佐さんの性格的にやらない、できないんじゃないかなと私は思いますよ。

美佐:そうなんですよね(笑)。

——私もこういう仕事してて、お話聞いたり文章書いたりするんですけど、時々、結局お米作ってる人が一番偉いんじゃないかなって思うんです(笑)。

美佐:ははは。

——思うんだけど、でも、今美佐さんがこういう生き方をすること、それにトライすることで、お米では救われない何か・誰かが救われたりするんじゃないかと思うんです。そこにはやっぱり価値があると思う。

美佐:私は、こういうふうにお店をやったりするのは初めてなんです。前はシンガポール、東京の広告代理店に勤めていて、仕事内容としては楽しかったけれど、最後のほうで自分の仕事を「何のためにやってるんだろう」と思うことがあって——そのおかげで、すごく考えたんです。自分が納得いくもの、正しいと思うものでごはんを食べていきたいと思うようになったから。

——その納得のいく生き方というのが、美佐さんにとっては「隣の隣の人のことまで考える」生き方なんですよね。自分がやっていることが、自分のためだけじゃなく、この社会に生きている誰かのためになるっていう。

美佐:そういう意味では、この街には、おもしろい人たちがたくさんいるんです。有志で畑をやっている集まりがあって。

——畑の集団!?

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美佐:最近私も参加させてもらったんですけど、その人たちは、畑でできたものをどこかで売ってお金にしようとかじゃないんです。 自然とふれあうこと、作物を育てることを純粋に楽しんでいて、厳密なルールとかに縛られているんじゃなくてゆるい感じで、ただいいと思えるからやっている人たちが自然に集まってまわっている。その感じがすごくいいなあと思っていて。

——おもしろそうですね。

美佐:できるかわからないけれど、いつかはこの街で、大豆を植えて収穫するっていう「体験」もできたらいいなと考えています。

——Airbnbのプラットフォームって、美佐さんのような生き方・働き方をする方々も活用しやすそうでいいですよね。大豆のために定期的に集まって、長期プランのお味噌作りというのができると、本当におもしろそうです。

美佐:そうですね。楽しいと思います。

——これからの美佐さんの活躍、ぜひ追っていきたいと思います。

美佐:ありがとうございます。

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Photo by 高木亜麗
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