撮影期間1年。「五体投地」でラサへの巡礼の旅を描いた傑作

はるか2,400kmの道のり。日本人の感覚からいえば、その距離を歩くだけでも信じられない。

しかし、本作品『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』では、チベット人たちが「五体投地」で気の遠くなるような長い距離を黙々と歩き続けるのだ。2,400kmをだ。その姿を目の当たりしている間、言葉が出てこなかった。

ドキュメンタリーのような物語

五体投地とは、両手・両膝・額の五体を地面に投げ伏して祈る行為。仏教で最も丁寧な礼拝法だ。しゃくとり虫のように進むといわれるそのスピードは、当然、スローである。フィクションといいながらも、出演しているのはチベット人。そして、1年もの時間をかけて巡礼の旅を撮影をした本作は、ドキュメンタリーのようでもある。 

この映画は、昨年、世界に先駆けて日本で先行公開された。そして、その1年後、今年6月に中国で公開されると空前の大ヒットを記録。300万人を動員して、約17億円の興行収入を叩き出したという。これは、チベット語映画としては、中国で過去最高の興収にあたるようだ。

ダライ・ラマ亡命後、チベットと中国は微妙な関係にある中、これほどまでに中国人の心を捉えた映画は奇跡とも言えるだろう。

 忙しすぎる現代人への気づき

祈る。歩く。眠る。笑う。全編に渡って描かれるのは、ほぼこれだけ。正直なところ、はじめは、その抑揚のない展開に退屈気味だった。しかし、彼らのひたむきに祈る姿や、シンプルな生き様を眺めていると次第にのめり込んでいった。

僕たちは、絶え間なく忙しい毎日を過ごしている。まるで、複雑で、忙しいことこそが美徳でもあるかのように。でも、彼らがシンプルに巡礼する姿を追っていると、いかに現代人があくせくと生き急いでるかを振り返ることができる。人生は長い。そんなに焦らなくたっていいじゃないか。五体投地を繰り返す姿からは、そんなメッセージが聞こえてくる。

実際、中国でこれだけ受け入れられているのも、その要因が大きいという。近年の異常とも言える経済発展によって、中国人が失ったものは大きいはず。きっと、この映画は、多忙な毎日で忘れかけていた大切なものを思い出させてくれたのだろう。

心がととのう
ポジティブなバイブレーション

旅を続ける11人の中には、屈強な男だけではなく、老人も、妊婦も、幼い少女もいる。しかし、道中で、不慮の事故があったり、お金がなくなったり、出産したりしても、巡礼の旅を止める気配は微塵もない。

何があっても、ラサへ巡礼に行く。この一途なまでの信仰心には、誰もが、驚かされるはずだ。が、それ以上に、印象的だったのは、過酷とも思える旅においての彼らの楽しげな様子だった。

人生で起こり得るあらゆる災難をも、ありのままに受け止めていく。そして、どんなことがあっても諦めずに、前に進み、仲間を助けて、最後に共にゴールする。

そのポジティブなバイブレーションは、観る人の心にダイレクトに伝わるはず。同時に、誰もが、心がととのうような気持ちになれるだろう。 

今回、中国での大ヒットを記念して、アンコールロードショーとなった『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』。きっと、人生の歩き方に向き合うきっかけになるはずだ。

『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』
2017年12月23(土)より、イメージフォーラムほかアンコールロードショー。公式サイトは、コチラ

Licensed material used with permission by ラサへの歩き方〜祈りの2400km
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。