【TABI LABO×旅する鈴木】新しい生き方を提案できる人が、21世紀のクリエーター

鈴木陵生/Ryosei Suzuki

1979年生まれ。劇団での芝居経験を経て、映像業界へ。カナダに2年滞在し映画スタッフなどを経験した後、2008年Drawing and Manualに入社。2011年より、「旅する鈴木」と題し、妻聡子と共に世界一周をスタート。サイト旅する鈴木にて映像発表を続ける。メルセデス・ベンツwebsite「mb!」にてコラム連載中。

世界一周の旅を映像とともに配信する人気ブログ「旅する鈴木」。その主人公は、映像作家の鈴木陵生氏とヨガインストラクターの聡子氏だ。そして、この秋からは、TABI LABO×旅する鈴木で新たなプロジェクトも始動!

「この世界に生まれ、歩き見て触れられることは、最高の幸せ」と語る生粋のトラベラーである鈴木氏に、旅について話を伺った。

001.
結婚で決意した世界一周旅行、夫婦でつくる「旅する鈴木」

こちらは、まるで天国のような、ウユニ塩湖の映像。

成瀬 僕にとって鈴木さんは、TABI LABOのコンセプトである「世界とつながる」を体現している人だなぁと思ってます。拙著『自分の仕事をつくる旅』でもインタビューを掲載させていただきましたが、ここではあらためて、鈴木さんがなぜ旅に出たのか、そこからお話を伺わせてください。

鈴木 そうですね〜。20歳頃から、旅をしながら映像を撮っていく、今の活動の原形みたいなことにハマっていたんですよ。映像を撮りながらカナダ・トロントをはじめ、数カ国をまわったりして。

成瀬 奥さんともその頃から?

鈴木 ええ、付き合っていました。で、2010年には結婚をするんですが、同時に僕は「世界一周を実現する」という決意をして・・・めちゃくちゃでしょ?

成瀬 ですね(笑)。普通の結婚感だと「落ち着こう」だと思います。

鈴木 そして、これまためちゃくちゃなことに、彼女は一緒に旅をする決断をしたわけです(笑)。2人で約一年間お金を貯め、2011年10月に世界一周へ。僕が35kg、嫁が約25kgにもなる荷物を前と後ろ両方にかけて・・・。

成瀬 それが、人気ブログ「旅する鈴木」のはじまりですね。毎日映像をアップしながら旅をする。まるで修行みたいですよね。

鈴木 そう!ひと言でいうなら「映像制作の修行」ですね。だからこそ「映像作品を毎日1本つくり、サイトにアップする」と決めたんです。映像作家として、毎日作品をアウトプットすることで、引き出しを増やしたかった。

成瀬 すでにかなりの数の作品がアップされていますが、どれも素敵ですよね。いくつかの作品には、奥さんも「ヨガする嫁」として出演していますが、これも当初からのコンセプトですか?

鈴木 カッコ良く言えば、嫁を旅のストーリーテーラーに起用したわけですが、じつは単純に「毎日、嫁を撮っているヤツってちょっとキモくない!?」と、他人目線でおもしろがっているだけだったり(笑)。

002.
とにかく継続すること。旅の目的、スタイルは無数にあるのだから

成瀬 初めて日本を飛び出した頃から、世界一周にチャレンジしようと考えていたのですか?

鈴木 意志はありましたね。でもそれ以前に、やりたいというのが大きくて、やらんと損じゃない! と思っていました。日本は比較的、他国に出やすい環境だし、百年前だったらそんな世界一周なんて考えられない時代。でも今はやりたいと思えばできる環境や国にいて、やらない理由がなかったんです。

成瀬 僕もそう思います。

鈴木 そうですよね。この感じは旅をすればするほど膨らんでいっています。

成瀬 約2年間、どのような行程で世界一周をしたのですか?

鈴木 中南米をまわり、ヨーロッパへ。ヨーロッパからモロッコ、南下して南アフリカへ入り、アフリカ大陸の東側を北上しました。エチオピアのダナキル砂漠まで到達したとき、スーダンとエジプトの情勢が不安定だったこともあり、ロンドンへ。ロンドンを選んだのは知り合いがいたことと、実はお金が尽きちゃったのもあって(苦笑)、 1ヶ月ほど過ごし、帰国を果たしたのがまさに今。またお金を貯めている最中なんですよ。

成瀬 “1日一つ映像をつくり、サイトにアップする”という決まりごとはありつつも自由度の高い旅、いいですね。自ずと成長できた?

鈴木 「絶対にこう撮るぞ」みたいなものを強く意識したことはありませんでした。ただひたすら毎日、千本ノックみたいに録り続けていると、型が形成された頃にはその型を壊し、また次の型へと向かっているというか。旅をしながら進化を繰り返し、僕なりの新しい見せ方というか、撮影の仕方は生まれていっていたと思います。やっぱり継続は力なりっていうのがありますよね。

成瀬 わかります!型なしと、型破りって全然違いますよね。型がある状態で、それを破り続ける。毎日、今日よりも良い明日をつくること、昨日の自分を否定していくこと。そこに成長がありますよね。「旅をする」と「型を破る」ことは、すごくリンクしているんですよね。国や地域ごとに、目まぐるしくラディカルに変わっていく状況に身をおく旅だからこそ、自分自身が変わり、表現方法も変わっていく。それこそ修行というか、移動の醍醐味だったり。

鈴木 一方で映像を毎日撮るということは、ときにくだらないものも存在してしまうんですよ。必ずしも面白い出来事が毎日おこるわけでもないし、その場所や風景が常にフォトジェニックということもありませんから……。でも、そんな嘘のない日々にこそ臨場感や本物が存在するというか、ドキュメンタリーとしてカタチになっていくんです。とにかく続けることからはじまっています。アフリカ大陸など、ネット環境の悪い地域だったり、ほかの仕事で少し籠ったりというのもあるので、結論からいうとサイトアップはほぼ毎日くらいですけどね(笑)

003.
僕たちはもう世界にいる。「地球国・日本県」の感覚で生きていきたい

鈴木 あえていいますが、僕は日本があまり好きじゃないというか、少し苦手だったんです。

成瀬 それはなぜ?

鈴木 ほら、よく「日本サイコー」って声高に発信したり、思い過ぎていることが多いというか。僕は、20歳の頃から旅をはじめて、みんなの価値観っていうか、潜在意識は万国共通で「食う・寝る・排泄・エッチする」(笑)。世界はどこも変わらないなぁと強く感じたんです。恋愛、子どもは大切な存在だし、そんな人間の根本みたいなものを前提に、地球国日本県の住人くらいの感覚を持って生きていきたいなと。「旅する鈴木」を通して、そんな問題定義的なことも発信したいと思っているんですよ。押しつけにならない程度、ふんわりと感じてもらえたらいいなって。

成瀬 地球国日本県、いいですね。TABI LABOもその感覚に近いです、もう「世界にいる」という。ちなみに、世界をまわりながら仕事をされていますが、「旅する鈴木」というメディアの運営はどのようにおこなっているのですか?

鈴木 メディア自体では、収益はあげていません。ただ、撮った映像はカタチとして残っていき、作品であり、商品にもなります。撮りためたものが、企業の方々に響いたり、お金につながっていく場合もありますね。あとは、映像を応用して、別のものを生み出すことも可能になったり、ということもあります。

成瀬 例えば、現地にいるときに「このようなのものを作ってください」と依頼されてオンタイムで作ることもあるんですか?

鈴木 それはこれからですね。ただ、旅が主軸でありたいところもありますね。ある程度、前情報は得てから旅をしますが、撮影のためにすべてを決めて動いてしまうと、想定内というか、そこだけで撮ることになってしまう。偶然出会う景色や題材には、やっぱりかなわないんですよね。

成瀬 旅の中で、世界中の人や刺激的なことに出会いながら、リアルタイムで発信をする。僕もそのスタイルの旅が好きで、最近は「遊行」と呼んでいるんですよ。

鈴木 ゆぎょう? 遊行、はじめて聞きました。

成瀬 仏教の言葉なんですが、日本という国が「全てだと思われていた」頃、お坊さんが各地をまわって、文化を伝えて歩き回りながら、都に戻って「世界ではこんなことが起きているんだよ」と伝えていたんです。それが遊行。
ただし、今はネット環境の発達により、一瞬でその情報をリアルタイムに届けることができる。だから「旅する鈴木」は現代版の遊行だと思います。

鈴木 そう言ってもらえるとうれしいです。正直、僕らは多くを決めずにはじめて、旅をしていくうちにだんだん伝えたいこと、自分なりの世界とか、解釈とかが固まってきたんです。僕らが旅する理由は、出来るだけ多くの土地や人に出会い、見て感じてもらえるチャンスを得るためでもありますから。

004.
1分後、あなたもきっと旅に出たくなる

鈴木 今は「1 minutes journey」という旅で出会った景色を1分で切り取る、という新しいプロジェクトもはじめています。

成瀬 見てますよ。とても印象的な映像が多いですよね。手軽に旅する感覚が味わえる! ただ見ていると旅への衝動が高まって辛い(笑)。

鈴木 (笑)。もともと旅のワンシーンなど、一瞬を切り取ったものが理想だったんです。そしてもっと美しいものを録りたいという衝動にぴったりと合った手法がタイムラプスでした。タイムラプスは、一定の間隔で撮影した静止画をつなげて動画のように見せる技術です。
「旅する鈴木」よりさらに短く、1分に凝縮されている分、よりリアルは生まれているのかも。たとえば通勤や通学の合間に、その1秒でアフリカにいるような感覚、そしてアフリカに行きたいと思わせるような、そんな匂いのするものを目指して作っているんですよ。今秋からの旅でも、「1 minutes journey」はたくさん撮っていこうと思っています。

005.
旅と暮らしの、境界線が消えるとき

成瀬 さて、これから鈴木さんの旅は、TABI LABOでも配信していく予定です。

鈴木 成瀬さんがいうような遊行とともに、今までにない映像世界はもちろんのこと、新しい暮らし方みたいなものも見せていきたい。

成瀬 旅と暮らしの境界線みたいなものはもっともっと消滅していくでしょうし、これからは旅するように暮らすことが新しいスタンダードになるように思います。
高城剛さんがおっしゃっているのですが、「クリエイターが次に提言しないといけないのは、もしかしたら新しい作品以上に、生き様や生き方みたいなところじゃないか」と。僕が大切にしているジャック・ケルアック『路上』も、時代は違いますがアンディ・ウォーホールも、社会のイシューを捉えて生き方でそのイシューに挑んでいました。個々の生き様みたいなものに、価値や生きるヒントみたいなものが見いだされ、貴重になっていくんじゃないかと思ってます。

TABI LABO×旅する鈴木では、そういったメッセージを伝えられるといいですね!

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。