選び、並べるということ。ブックディレクター ー 幅允孝  

本と本棚の力に魅了された幅允孝さん。すべての本に丸をつけたい。この感覚を伝えるために、氏は自ら本を選びそれを並べる。数えきれないタイトルからこころの琴線に触れる本へ出会う。そんな人と本の距離を近づける力の秘密に TABI LABO 共同代表の成瀬勇輝が迫る。

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001.
モノゴトとの距離感を掴むことで
僕は語る言葉を増やした 

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成瀬 世界中から本を集めている幅さんですが、選ぶだけではなく、それを伝えるところまでデザインされている。本のキュレーターになるそもそもの原体験をお伺いしたいです。

幅 難しいですね。本は、やはり好きで読んでいました。僕は「本だけお小遣い別」という自由気ままに選べる幼少時代にたくさんの本に触れ合っていたんですよ。よく行ったのは愛知県津島市の小さな駅前の本屋さんだったんだけど、雑誌だろうが漫画だろうが何でも良かったんです。 あらゆる本を平然と並列に見ることは若い頃からの癖ですね。

成瀬 それが本を語るきっかけになったということですか。

幅 いえ、当時あまり本について誰かに語ることは少なかったです。3 歳から 18 歳まで水泳やバレーボール、ボーイスカウトなんかをやったりと、どんどん外に出て行くタイプの人間でした。一人で本を読みふけるインドア派的な性格ではなかったので、逆に本を読んでいることを誰かに言うのがちょっと恥ずかしかったんです。
例えば中学生の頃はなぜか近代文学にハマっていたんです。川端康成の『片腕』とか今でも好きで、ある男が綺麗な女性の腕を一晩借りるっていうかなり摩訶不思議な話なのですが、ちょっとエロティックで良いなってね。でも中 2 とかって、朝学校行って教室で「昨日の夜、腕を付け替える小説読んだんだ」て言ったら、「こいつ大丈夫か?」と思われそうじゃないですか。

成瀬 まあ言えないですよね。

幅 そういう、良いものを読もうというよりは、人間の奥に沈んでいるどす黒い部分とかが面白くて読んでましたね。ただ読んではいたんですけど、本を語る言葉をもっていなかったんです。

成瀬 なるほど。ですが、それでも最初は本屋さんで働いた。何が幅さんを本のキュレーターになることへ導いたのでしょう?

幅 実は僕も大学を卒業したあと、旅行に出まして。そのときの経験が、本を自分の言葉で誰かに語る背中を押してくれたと思っています。 当時、僕は夜勤のバイトをしながら稼いだお金でとりあえず英語だけは勉強しておこうって思って、カナダのオタワにあった大学へ短期留学にいきました。そのあと余ったお金と時間を使って、「幅的お祭りを巡るツアー」っていう、独自の旅を勝手に企画をしたんですよ。(笑)

成瀬 テーマのある旅ですね。それにしても、かなり思い切ったのではないでしょうか?

幅 はい。この目で見てみたいと思ったものを観に行きました。ツールド・フランスとかその前はカナダ・モントリオールのジャズフェス。工事中のスペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館に行ったり、アアルト建築を見にフィンランド行ったりとか、色々です。ただ、意外にも現場に行ってみると案外肩すかしみたいなものがありまして。

成瀬 確かにありますね。建物が意外にちっちゃかった、とか。

幅 でも、そんなのがすごく重要で。実物を見てみて初めて、僕は自分とそのものの対象との距離感が計れたと思っています。距離感が測れるってどういうことかというと、自分の言葉に変えられるってこと。 つまり血肉化した中の言葉みたいな物が誰かに向かって話せるようになるんです。そうしてやっと人にものをおすすめ出来る立場になった、伝えるってこういうことなんだって分かってきたというような感じです。

002.
許せるものが増えると
世の中はハッピーになると思うんです

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成瀬 旅の経験が伝える手段をもつきっかけになった。きっとそれが最初の書店勤務時にも活きてきたのですね。

幅 僕は青山ブックセンターの建築デザイン担当が最初だったのですが、すごく恵まれた環境でした。言われたものをただ売るというより、企画を立てたら自分の目で見て選んだものを本棚の中で編集する。そのとき、本棚は自分の思っていることや好きなことを伝えるメディアになるんだって思いました。

成瀬 本を並べる中で、やはり当時の流行を意識していましたか?

幅 当時はグラフィティアートが非常に流行っていました。そんな中、好きになったのが、建築家のレべウス・ウッズというペーパーアーキテクト。つまり、突拍子もない建築ゆえに紙上でしか表現できない建築家だったのですが、そんな彼の建築本をグラフィティコーナーに置いたというのが僕の記念すべき本棚編集の第一歩でした。

成瀬 なんだか実験を通してすごい化学反応が生まれたような感じですね。

幅 たとえ同じ商品でも、その周辺環境の整え方によって相手への伝わり方も変わってくる。おぼろげながらもそんな感触をあそこでは見つけましたね。

成瀬 なるほど。幅さんご自身がそうした本を選んで、並べることを通じて人に与えたいことってありますか。

幅 僕は、人がある 1 冊を読み始めるうえで、その本を手に取るまでのオポチュニティを日常生活に点在させたいなって思ってます。
まあ、今は検索型の世の中なので、なるべく未知なる本に出会ってもらい、愉しく読んでもらえるのがいいと思っています。それに、僕は本に批評的なマルバツをあまり付けたくないんですよ。 許せるものが増えていくと世の中はハッピーになると思うんです。

003.
どんな情報も人生をおもしろおかしく生きるために使いたい

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成瀬 ここまでお話をお伺いして、本を選ぶことは web におけるキュレーションと同じようなところがあると思うのですが、幅さんはどうお考えですか。

幅 Webも紙もやはりそれぞれの利点があるので、上手く生かして両輪を走らせるのがいいと思います。ただ、情報を仕入れる道筋が慣習化すると、どうしてもそれ以外のものに関して不感症になっていく。だから欲しいもの以外の存在やそれを探す方法論を少なくともまず覚えておくということ、認めてあげることがすごく重要ではないかと思います。

成瀬 とても同感です。自分で検索して欲しい情報を得ることは webではやりやすい。 ただ本屋さんに行くと違うものに触れられたり、意図してないものに出会ったりするのがwebの世界ではなかなか無いのではないかなって思っています。だからこそ、現実の世界で実際に旅に出て、知らないことを目にすることで、web での検索ワードを増やしていくことは大切だと思います。

幅 僕は電子書籍で買って良かったものは紙で買い直すんですよ。紙の本はただそこにあるだけで不思議と何か機能を果たすんじゃないかって個人的に思っています。本が日常の視界に入ると、忘れていた何かが再生するイズムみたいなのがあるんですよね。 でも本当に重要なのは、それを紙で読もうが webで読もうが、読み手が情報を血肉化して、人生をおもしろおかしく生きていくために使うことだと思います。人間が主体となって情報を使いこなすことです。

成瀬 僕ら TABI LABO も毎回記事の文章の最後に「世界とつながる、MOVE する」という言葉を入れています。どんな視点でもいいから新しい発見がそのコンテンツにはあり、その記事をもとに人それぞれが MOVE するということを大事にしていきたいです。

004.
基準なんて無い
自分に寄り添っている本を選べばいい

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成瀬  最後に、人生をかけてというと大きくなってしまいますが、幅さんが実現したいことはありますか。

幅 実は、あまり無いです。(笑) でも人生をかけて「良い暇つぶし」をしたい。その中で、本を通じて分からないことを楽しく探求できる自分でありたいです。

成瀬 知的好奇心をくすぐるとか、ある 1 冊をきっかけに 1 つ考えるきっかけをスタートするということですね。

幅 僕は分からないということが根本的にはポジティブなことだと思っています。でも、分かり得ないみたいな諦めまでいかない良いバランスで探究したい。もっと言うなら答えだと思っていた本が、次の疑問を生んでいくという感覚かなあ。

成瀬 本を選ぶ基準はあるのですか?

幅 強いて言えば直感です。身体で選んでます。

成瀬 自分が好きか嫌いかということでしょうか。

幅 ようは自分に合うかどうかだと思いますね。ちょっと食べ物的な感じ?つまり今夜はどうしてもお肉が食べたいよ、とか、今日は胃の調子が良くないからお豆腐にみょうがとネギをたくさんかけて、出汁醤油でいいかな、とか。
今の自分が考えてる事や、それこそ気分だけじゃなくて体調とかにぴったり合致するというような寄り添っている本を選んでいると思います。そういった本に出会いながら、答えを求めて探求しつづけていく・・・。

成瀬 面白い!僕の好きな言葉があるんですが、イギリスの作家が残した言葉で、「我々は探求をやめてはならない。そして、我々のすべての探求の最後は、はじめにいた場所に戻ることであり、その場所を初めて知ることである。 - トーマス・エリオット」
旅とかもそうですが、探求をやめなかった所で最後に気付いたら最初の場所が 1 番良かったとかに気づくときがあるかもしれませんね。

幅 そうかもしれませんね。

成瀬 あ、最後に!TABI LABO読者にオススメの本、ありますか?

幅 旅ですね。アラン・ド ボトンの「旅する哲学」。これが良いなって思います。

成瀬 ありがとうございます!

幅 允孝 Yoshitaka/Haba

1976年愛知県津島市生まれ。BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館『SOUVENIR FROM TOKYO』や『Brooklyn Parlor』、伊勢丹新宿店『ビューティアポセカリー』、『CIBONE』、『la kagu』など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』、『幅書店の88冊』、『つかう本』。『本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事』(著・高瀬毅/文藝春秋)も刊行中。愛知県立芸術大学非常勤講師。www.bach-inc.com

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