インディアンネームを手に入れに行った「無謀な旅」が俺に教えてくれたこと -Vol.2-

goro'sのフェザーリングを眺めていると蘇ってくる旅がある。

30代前半、過労死寸前になった自分を再生させるためにネイティブ・アメリカンの聖地へ向かった。今から15年ほど前の話だ。目的は、ただ1つ。インディアンネームを手に入れること。まさに無謀と形容される旅だったけど、何も怖くなかった。当時の俺は、1度、死んだようなものだったから。

救急車の中で
「人生のリスト」を思い出す

競合プレゼンへの準備によって、俺の疲労はピークに達していた。約1ヶ月ほど、寝られない日々が続いていたからだ。何とか気合いでプレゼンを乗り切ったが、数日後、俺は病院に運ばれる救急車の中で横たわっていた。

朦朧とした意識の中で、このまま死ぬかもしれないと感じた。人生ではじめてのことだったが、不思議と恐怖は感じなかった。でも、自分の中から大きな疑問が湧いてきた。「俺は、後悔しないような人生を送ってきたのか?」と。

その数ヶ月前、ロバート・ハリスの『ワイルドサイドを歩け』のプロローグにあった「人生の100のリスト」にインスピレーションを得て、俺も、死ぬまでにやりたい100のリストを書き上げていた。そして、サイレンの音を聞きながらストレッチャーの上で思い出したのは、何故か「インディアンになる」という項目だったのだ。

10代のガキの頃、goro'sのゴローさんにインディアンネームを授かった物語を聞いてから、心に決めていた。しかし、いつかは、と思っていながらも、気づけば10年以上が過ぎて去っていた。

「旅立つなら、今だ」
自分の中から、澄んだ声が聞こえてきた。ネイティブ・アメリカンに仲間だと認められて、インディンアンネームを授かるのだ。そのためには、このまま死んではならない。その強い気持ちが功を奏したのだろう。俺は担ぎ込まれた病院で、一命をとりとめたのだった。

様々な検査をした後、医師に言い渡された診断結果は、過労とストレスだった。

ネイティブ・アメリカンの
聖地へ

その直後、休養のために向かったのは九州だった。当時、福岡の「WING ROCK」というインディアン・ジュエリー・ショップで働きはじめた不良仲間のヒデに会いに行ったのだ。アトリエに足を踏み入れた途端、1冊の本が目に飛び込んできた。それは、ナンシー・ウッドの『今日は死ぬにはもってこいの日』だった。

「Today is a very good day to die.」本の原題となるこの言葉は、俺の背中を強く押してくれた。

その3日後、俺はL.A.の空港に降り立っていた。何の計画も、何の用意もしていない。ただ、インディアンになるんだという決意だけで、渡米したのだ。けど、考えてみれば一体、どんな計画や用意ができるのだろうか。

この世に「インディアンネームの授かり方」なんてマニュアル本があるわけでもない。iPhoneもなく、今ほど、インターネットのコンテンツも充実していない。結局は、自分自身でアクションを起こすしかなかったのだ。

旅の初日から、俺は出会う人々に尋ねていった。そして、会話した内容を基に、次に向かう場所を決めていったのだった。数日後、レンタカーでL.A.から、グランドキャニオンを抜けて、フェニックスにあるハードミュージアムに辿り着いた。このミュージアムに立ち寄ったのは、ネイティブ・アメリカンに関する資料が豊富だと聞いたからだ。

大きな収穫は、ネイティブ・アメリカンの部族ごとのテリトリーが記された地図だった。それを購入して、本格的にルートを決めた。フェニックスから、フラッグスタッフ、ウィンズロー、ペトリファイドフォレストと内陸部へ進むたびにネイティブ・アメリカンの姿も増えてくる。レストランや観光スポットで彼らを見かける度に、積極的に話しかけていった。

「インディアンネームを手に入れたい」

そう切り出す俺に対しての反応は様々だった。笑われたり、相手にしてもらえなかったり、馬鹿なことはやめろと呟かれたりといったネガティブなものから、お前は素晴らしいことをやろうしている、といったポジティブなものまであった。

俺は、会話をしたすべての人に運命を感じた。そして、最終的には、アリゾナ州とニューメキシコ州の境界線近くにあるウィンドウ・ロックを目指すことに決めたのだ。そこは、ナバホ族の首都であり、ナバホ政府がある場所だ。

ネイティブ・アメリカンの住むインディアン居留地は、アメリカ合衆国でありながら、それぞれの部族が統治しているという事情がある。俺の個人的な印象かも知れないが、そのエリアでは、白人たちは肩身が狭そうで、例え警官でもどこか遠慮しているように見えた。

ニューメキシコ州に入った頃には、2週間近くが過ぎていた。俺は、ギャラップという街にあるモーテルにレンタカーをすべり込ませた。チェックインして、ロング・ドライブの疲れを癒そうとバーで飲んでいると、隣に大柄なネイティブ・アメリカンの男が座ってきた。話をすると、ナバホ族とホピ族のハーフとのことだった。男の名前は、テリー。人懐っこそうな笑顔が印象的だった。

酒の勢いも手伝ってか、俺は、旅の目的と経緯をすべて話した。テリーは、真剣に話を聞いてくれた。そして、その場でナバホ政府の中で働く友人に手紙を書いてくれたのだった。 

インディアンネームと
生きる歓びを手に入れた日

翌朝、目覚めた瞬間、俺は「Today is a very good day to die.」と呟いた。

この旅で、自分自身に言い聞かせるように、何度も、この言葉を口にしてきた。インディアン・ネームを手に入れるという意志は揺らぐことはなかった。日本での忙殺された生活の中で、自分が何者なのか、自分にとって大切な何かを失っていた。しかし、大きな大地とたくさんの人たちとの会話によって、次第に自分自身を取り戻していったのだ。

モーテルを出発して、窓を全開にすると乾いた風が流れ込んでくる。空は快晴だ。イーグルが気持ちよさそうにはばたいている姿が目に入った。めいいっぱいにアクセルを吹かすと、俺は眩しい光の中へ吸い込まれていった。

「Today is a very good day to die.」

ウィンドウ・ロックにあるナバホ政府の建物から出た時、俺の手には正式に発行されたクオリフィケーションが握られていた。自分の思いのたけをすべて話し、俺は、インディアンネームを授けられることになったのだ。名前は、Ashkii Bizaad tani。日本語で「たくさんの言葉を操る少年」という意味だ。

今、振り返れば、日本で1度死にかけたことがきっかけでこの旅はスタートした。だから、俺は、怖れるものなど何もなかった。大袈裟なようだが、死ぬ覚悟もできていた。しかし、「いつ死んでも後悔しなように、1日1日を過ごそう」という気持ちは、結果的に、再び生きる歓びを手に入れることにつながったのだ。

「Today is a very good day to die.」

この言葉に出会わなかったら、インディアンネームを手に入れることなどできなかったように想う。たった、1ラインの言葉が、人生を大きく変えることがあることを俺は実感した。旅をする途中でナンシー・ウッドの言葉は、俺自身の言葉に変換されていた。

「今日は、死ぬにはいい日だ。」それは、裏返せばもう1つの意味を持つのだ。

「今日は、もう一度生まれるにはいい日だ。」

あの旅は、大切なことを俺に教えてくれた。人生は1度だ。今日も1度だ。そして、この瞬間も1度しかない。だから、他人に何を言われようと、どう思われようと、自分自身が本当にやりたいことであれば、やり遂げるべきなのだ、と。(つづく)

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