夜の散歩で街と人の深みにはまる。長野・渋温泉で、夜そぞろ

あてもなくぶらぶらと歩き回ること。

それを“そぞろ歩き”と言い、温泉街のお散歩を意味して使われたりもします。

 

旅の舞台は長野県、渋温泉。日暮れを待って、夜のそぞろ歩きに繰り出しましょう。渋温泉は、外湯が22時まで入れたり、おみやげ屋さんや射的屋さんも21時過ぎまでやっていたりと、夜そぞろには持ってこいの温泉街。

 

夜は、街の深みが一層増していく時。

湯冷めしないように寒さ対策も万全に。そこにしかない夜景を見に行き、そこにしかない美味しいものを食べ、そこにしかいない人に会いに行く。そんな楽しみ方をご提案します。いざ、渋温泉の夜そぞろ。

長野・渋温泉
©2018 ETSU MORIYAMA

渋の夜景をメルヘンに
千と千尋と苔ランプ

おすすめその1:「金具屋のライトアップ」

長野・渋温泉
©2018 ETSU MORIYAMA

渋温泉で見るべき夜景の一つ目は、歴史の宿・金具屋。ジブリ映画『千と千尋の神隠し』に出てくる湯屋のモデルになったとも言われていて、多くのお客さんが、ここの前で足を止め、記念撮影をしています。外観は毎日19時半頃から22時頃までライトアップされ、あたりは幻想的な雰囲気に包まれるのですが、実は、日が暮れてからライトアップが始まるちょっと前までの、「夕暮れ時」の景色もおすすめ。ロマンチックな雰囲気と、建物の輪郭やディテールまで楽しめます。

長野・渋温泉
©2018 ETSU MORIYAMA

歴史の宿 金具屋

住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏2202
TEL:0269-33-3131
公式HP:http://www.kanaguya.com/
公式SNS:FacebookInstagram

おすすめその2:「松屋の苔ランプ」

長野・渋温泉 芝ランプ
©2018 ETSU MORIYAMA

そして、金具屋と合わせて見てほしい夜景がこちら。洗心館 松屋の外壁に飾られた「苔ランプ」です。

いろんなモチーフと一緒に本物の苔が入ったこの作品は、実は千葉県に住んでいる松屋の常連客・森蔵さんが作ったもの。森蔵さんはもともと趣味で苔盆栽を作っていたのですが、ある時、ツーリングがてら来ていた渋温泉周辺が標高が高く、湿度と温度の条件もよくて苔が豊富なことに気がついたそうです。で、試しに作ったのがトトロを入れた苔ランプなのですが、これの評判がすごくよかったんだそう。それに、苔が最も綺麗な瞬間を迎える6月は、奇しくも渋温泉の閑散期。なら、この苔ランプを使ってお客さんを呼べないか? そんなことを、松屋の女将さんと最初は冗談混じりに話していて、徐々に数が増えていったんだとか。

長野・渋温泉 芝ランプ
©2018 ETSU MORIYAMA

作品を見ると、サルがキツネの前で脇の下を見せていたり、何か叫んでいるようなサルがいたり、それぞれどんな意味があるのかとても気になってくるのですが、森蔵さんは、解釈は見る人に任せていると言います。湯けむり号の作品を見たスタッフが「渋温泉に来る時、これに乗ってきましたよー。元ロマンスカーの車両ですよね!」と言うと、そんな風に自分の中の何かと結びつけて思い思いに楽しんでもらえると嬉しいです、と言って笑顔を見せました。

長野・渋温泉 芝ランプ
©2018 ETSU MORIYAMA

作品は約一ヶ月おきにリニューアルしているそうで、これまでは、渋温泉までの足である長野電鉄の電車シリーズや、志賀高原を代表するキャラクターであるサルのシリーズ、ジブリや仏像シリーズなどが登場し、お客さんを楽しませてきました。最初はまさかこんなにたくさんのお客さんに見てもらえるようになるとは思わなかったけど、せっかくなら楽しんでほしいからと、次回作の構想も着々と膨らませているそうですよ。

長野・渋温泉 芝ランプ
©2018 ETSU MORIYAMA

苔ランプ 森蔵

公式SNS:facebook

 

洗心館 松屋

住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏渋温泉大場前2222
TEL:0269-33-3181
公式ホームページ:http://eihachi.com/
公式SNS:Facebook

レアなササミと井筒ワイン
温泉旅行って、そういうことかぁ

おすすめその3:「やきとり もとや」

長野・渋温泉 やきとりもとや
©2018 ETSU MORIYAMA

夜の散歩というものは、得てしてちょっと一杯やりたくなるものです。渋温泉でそんな気分になった時、まず立ち寄るべきはここの居酒屋さん、やきとり もとや。焼き鳥を中心として、地鶏のタタキや日がわりで登場するメニューも人気のお店なのですが、店内に入ってしばらくいると、みんなある一品を必ずと言っていいほど頼むことに気がつきます。それは、謎の料理「チーズ焼き」。

長野・渋温泉 やきとりもとや
©2018 ETSU MORIYAMA

数種類のチーズを合わせて焼くという、一見シンプルなようでいてこれが不思議と奥深い味わい。まろやかさ、香ばしさ、色々なチーズの美味しさが畳みかけるように口の中に広がります。

それから、美味しくて思わず追加注文してしまったのが、鳥ささみのサビ焼き。中が少しだけレアで柔らかく、ささみ独特のパサつきは一切感じません。鶏肉は、鮮度を大切にしているそうです。渋温泉の近くで作っているというしいたけの丸焼きもジューシーでおすすめ。

長野・渋温泉 やきとりもとや
©2018 ETSU MORIYAMA

この辺りを注文しつつ、合わせてほしいのが、赤ワイン。もとやで出しているワインは井筒ワインといって、長野県の中央部、標高700メートルの桔梗ヶ原というところで作られている国産ワインです。もとやの料理によく合うなぁ、と思いながらいただいていたのですが、山本さん曰く、なぜこのワインかと聞かれれば「自分が美味しいと思ったワインだから」。潔いです(笑)。

そんなご主人好みのワインと美味しい料理をいただきながら、もうひとついいことを聞きました。「渋温泉には、最低二泊三日で来るべきですよ」と。合わせて、昔ながらのとっても乙な過ごし方も。

長野・渋温泉 やきとりもとや
©2018 ETSU MORIYAMA

「朝食におちょうしを2本つける、朝食をつまみにそれをキューッとやってから、敷きっぱなしにしてもらっていた布団にゴロンとなって昼ごろまで休憩」

 

これ、一泊のお客さんだったらチェックアウトの時間があるから慌ただしいのですが、もう一泊あればこそできる贅沢なのです。「温泉旅館の朝食って、量的にも内容的にも、確かにお酒のアテにピッタリでしょ」そんな風に言われてハッとしました。なぜ、もっと早くそのことに気がつかなかったのでしょう……。もともと温泉旅行は、“非日常”を楽しむもの。昔はこんな過ごし方をするお客さんも多かったそうで、山本さんは、渋温泉でもそういうのんびりとして贅沢な旅をしてほしいと言います。大人って、最高だなぁ。

長野・渋温泉 やきとりもとや
©2018 ETSU MORIYAMA

もとやは、メインストリートの坂をずんずんと上って行き、突き当たりを右に曲がってすぐのところにある、緑提灯が目印のお店です。

やきとり もとや

住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏2229
TEL:0269-33-3018 
営業時間:18:30〜売り切れ次第終了
定休日:不定休

芸術家の溜まり場で、愛すべき
ちょい悪マスターに人生相談

おすすめその4:「居酒屋ちょっくん」

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

そしてこのお店も外せない、居酒屋ちょっくんです。常連のお客さんは、ちょっくんは、芸術家やちょっと変わった経歴の人をはじめ、なぜだか面白い人たちが集まってくる店だと言います。みんな、トオルさんに会いにくるのだと。トオルさんというのは、お店のご主人のこと。アウトローな雰囲気をプンプン漂わせながら、席に着いたお客さんに開口一番、「腹は減ってるかぁ〜?」と聞いてきます。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

そうでした。このお店、最初に大事なことを言っておかねばなりません。入店すると、壁にたくさんのメニューが貼ってあるのですが、実際にあるのはたった一つ、「なんか(300円〜)」だけ。お客さんの好みや空腹度に応じて(あとその日お店にある食材に応じて)、トオルさん特製の料理が出てくるシステムです。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

それから、ここではお客さんみんなが店員さんにもなります。伺った日も、居合わせた常連さんが、即席店員さんになってお酒を注いでくれました(笑)。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

しばらくすると、裏からトオルさんが「なんか」を持って登場します。この日はまず、鮭の白子とナスの油味噌。鮭の白子は初めてでしたが、唸りました。これはお酒が進んでしまう……。

おでんや馬刺し、大根の葉のおひたし、名物だという素ラーメン(この日は特別にお肉とネギ入り)までいただいて、お腹がいっぱいになりました。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA
長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA
長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

お店の柱には、世界中から来たお客さんの残したサイン、そしてポラロイド写真が飾ってあります。決してわかりやすい場所にあるとはいえないのに、このお店にこんなにたくさんの人が集まって来る理由を、常連さんは「トオルさんが“ちょっくん”だからでは」と話していました。ちょっくんというのは、地元の言葉で「適当」という意味。来る者拒まず、去る者追わず。だから、いろんな人が居やすいのだと。みんな仲良くして、ケンカしちゃいけないよっていうお店のコンセプトも、この居心地の良さを作っているのかも。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

この日は他にもスポーツの話、サルにけんめ(近所で採った国産のクルミ)をぶつけられた話、あだ名をつけるのが得意な話、マカロニマスティフという犬が飼いたいんだという話、いろんなことを話しました。それから、歳を重ねると、寂しさが増すという話も。その寂しさをぶつけて詠んだ渾身の短歌も見せてもらいました。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

聞き役と話し役のバランスが絶妙なトオルさん。お店にくる人の多くは、トオルさんに人生相談をしていくそうなのですが、だいたい、そういう時は、説教をするんだそうです。若ぇくせに何言ってんだバカタレって。でも、仕事を辞めて落ち込んでいた人も、生きていくのが辛いという若者も、トオルさんにしこたま説教されて、最終的には元気出たって言って帰って行くんだそう。

 

「俺を見ろっていうんだよ。ブラック企業で1ヶ月も休みないっていうけど、バカタレぃ、俺は5年間休んでねぇぞって」

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

人の言うことは聞かない。自分がこうと思うことは、曲げない。でも、女の子の言うことは聞く。そんなトオルさんに、こんな質問もしてみました。「一番大事にしているものはなんですか?」答えは、「仲間」だそうです。ここに集まって来る仲間。その仲間たちも、トオルさんを慕って夜な夜なここに集まって来ます。

 

「腹減ってるかぁ〜」

「よいよいだぁ〜」

 

トオルさんはきっと今日もちょっくんだけど、きっと今日行くお客さんも、その不思議な魅力と居心地の良さにどハマりしてしまうはずです。

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

ちなみに開店5周年記念Tシャツは2000円、お店で買えます。背中に注目!

長野・渋温泉 居酒屋ちょっくん
©2018 ETSU MORIYAMA

居酒屋ちょっくん

住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏2138
TEL:090-9666-2846
営業時間:18:00〜
定休日:なし
公式SNS:facebook

他にもたくさんのおすすめがありますが、今回はこの辺で。

楽しい渋温泉の夜になりますように。

Top image: © 2018 ETSU MORIYAMA
取材協力:渋温泉旅館組合