元エンジニアが営む!常識破りの定食屋「未来食堂」に行ってみたい
元エンジニアが、たった一人で切り盛りする東京・神保町の食堂が話題を呼んでいる。ここが、行列の絶えない人気店かといえば、さにあらず。ところが、昼時のピークには12席が4回転する賑わいだとか。
秘密は、エンジニア出身者ならではの、確立したフレームワーク。そして、飲食業界の型にはまらない、独自の経営手法があった。
飲食業界の定説を覆す
独創的なビジネスモデル
『未来食堂』を経営する小林せかいさんは、大学卒業後日本IBM、クックパッドで計6年間エンジニアとしてのキャリアを積み重ねてきた人物。エンジニアから食堂経営への転身は、ワークスタイル多様化の時代とは言え、異色のキャリアチェンジであることに違いない。だが彼女には、飲食業界でどうしても挑戦してみたいことがあった。
毎回同じメニューを提供するのではなく、自分の食べたいものをオーダーできる店。たくさんのメニューから選ぶのではなく、来店するお客の気分や体調にあったおかずをあつらえる。一人ひとりが思っている“ふつう”を再現する店。それが「あなたの“ふつう”をあつらえる」ことをコンセプトに掲げる『未来食堂』だ。
気分、体調に合わせた
“オンリーワン感”で勝負
未来食堂のランチは日替わり一種類のみ(900円)。そこに、小鉢を“あつらえ”ることができる。壁に記載している食材(2品まで)から選んだら、「温かいものが食べたい」「ちょっと喉が痛い」「今日は良いことがあった」など、気分や体調を伝えてリクエスト。それぞれのお客にお“あつらえ”な小鉢をオーダーメイドできる仕組みだ。
たった一人で切り盛りするのに、オーダーメイドなんて非効率ではないか?じつは、ここにこそ、エンジニア出身者ならではの捉え方とロジックがある。ロスを生まないフレームワークだ。
「固定されたメニューにすると、1個食材が足りないだけで買い出しに行く必要があったり、どこかで必ず破棄がでます。でも、“あつらえ”は、今日の冷蔵庫の中身を壁や紙に書き出せばメニューが完成する。その日ある食材で作るから、売り切れのメニューもなく、在庫もゼロ。残った食材は次の日のおかずにも使えます」
現に未来食堂のロス率は、ほぼゼロに近いと小林さん。日替わり一種類に絞ることで、オーダーを聞く手間を省き、食器や調理器具も必要なものだけを効率よく回すことができる。お客には「自分だけの特別感」を提供し、店側は「徹底した効率化」を図るカラクリを、小林さんは「PR Table」に解説している。
50分働いてくれたらタダ
本当の“まかない”
飲食店が、従業員のために振る舞う「食事」としての意味合いが強い“まかない”。だが、未来食堂のそれは一味違う。この店では、50分のお手伝い(労働)の対価として、1食を無料で提供している。
ランチのピーク時でも、小林さんひとり。皿洗いや配膳、接客、閉店後の片付けなど、運営のお手伝いをするとこで、900円の定食にありつけるのだ。基本的には誰もが可能。近隣のビジネスマンから、外国人、小学生まで“まかない”に参加し、お金ではない価値を得ているという。
「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所でありたい。一度来てくれたお客さんが、たとえ一文無しになったとしても、縁を切りたくないんです」
未来食堂は、誰かのセーフティーネットとしてもワークしている。小林さんのその思いが“まかない”という、誰もを受け入れるシステムを生んだ。
初めての人でも戸惑わないよう、簡単な作業マニュアルを用意した。誰もが即戦力となり、人件費も抑えることができる。コストは食材の原価のみだが、コアなお客さんが増え、料金で支払う代わりに手伝いをするという選択肢も可能だという。
見知らぬ誰かの代金を支払う新システム“ただめし”導入
店とお客、従来型の飲食店の概念を超え、革新的なチャレンジを続ける未来食堂。次なる一手は、お客のアイデアから生まれた“ただめし”制度だ。“まかない”で得た一食分の権利を誰かに譲るというもの。これは、お客さんの声から挙がってきた発想なんだそう。
店内入り口(わざとちょっとだけ見えにくい場所)に貼られた「ただめし券」は、誰でも利用ができる。“まかない”をした誰かが、自分が食べる代わりに置いていった一食。本当に困っている人に誰かの善意が届く…。
「“ただめし”のヒントになった」と小林さんがブログに綴っている、見知らぬ誰かのために事前に代金を支払い、その権利をポストイットで壁に貼る米フィラデルフィアのピザショップの取り組み。以前、TABI LABOで紹介した記事だ。
だが、彼女は壁を埋め尽くすような善意は不要と考えている。「大切なのは、必要としている人にちゃんと届くこと」。それが彼女の信念だから。
「“ただめし券”っていうアホっぽいネーミングで、なんとなくノリで使う人がいてもいい。99人がノリでも、本当に困っているたった1人が救われたなら。いつかその人が元気になって、“まかない”しにきてくれたらいいですね」
誰もが主役のサードプレイス
徹底的な透明性にこだわり、WEBサイト上では事業計画書の全文公開まで実施する未来食堂。“あつらえ”や“まかない”、そして彼女が体現する「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい」場所づくり。元エンジニアが切り盛りする未来食堂は、誰もが主役になれる、サードプレイス的な役割を果たしているのではないだろうか。