「この世にはまだかっこいいふんどしがないんですよ!」——ふんどし部、愛と自由を叫んだ夜

最近メディアへの露出も増えてきたので、ご存知の方も多いかもしれないが、ふんどし部という団体(正しくは会社)がある。

私が彼らに初めて会ったのは、今年の7月。渋谷・100BANCHのオープニングパーティーでのことだった。

100BANCHは、パナソニックの創業100周年を記念して構想された施設だ。ここでは若い世代を中心としたプロジェクトチームが募集されており、採用されたプロジェクトには、各分野の著名人がメンターとしてあてがわれる。1プロジェクトの期限は3ヶ月で、事前に提出した活動スケジュールにのっとり、目標達成を目指す。

2階のフロア「GARAGE」の壁に張り出された各プロジェクトの目標とスケジュール

「100年後の未来を豊かにする」というコンセプトのもと、食、観光、ビジネス、日本文化などさまざまなジャンルのプロジェクトが集った100BANCH。そんななか、異様な人だかりができていたブースがあった。その中心にいたのは……。

半裸の男...!?

彼こそがふんどし部のリーダー、星野雄三さんだ(ちなみに星野さんは通称「ふんどし筋肉マン」)。

彼らのプロジェクト「伝統下着"ふんどし"を『表現者のためのファッションウェア』として未来に伝える」は、かの落合陽一をメンターにつけ、「多様性」がコンセプトのファッションショーを開催する、という目標を据えた。プロジェクト期間中は、ファッションショーの企画立案、材料調達、空間作成などをこなしながら、同時にクラウドファンデングサイトMakuakeでもサポーターを募集。目標金額180万円に対して206万円が集まり、見事成功した。

ファッションショーのために用意された、ルックのスケッチ

そして10月29日、100BANCHにて、念願のふんどしファッションショー「FFF」が行われたのである。

ただ、今だから言おう。
私はその日まで、彼らについて、実はさっぱりわけがわからなかったのである。笑えばいいの? 引くのが正解なの? 真面目にやろうとしているのだろうけど、笑わせにかかっているようにも見えるし。だって、

これとか、

これとか。

100BANCHのプロジェクトブースで会った人たちは、そのほとんどがわかりやすく秀才っぽくて、真面目で、論理的だった。けれど、ふんどし部はなんか違う。でもプロジェクト概要読んだら東大卒って書いてるし。わけわからん!

というわけで、そのときは「TABI LABOさん、なんかおもしろいことやりましょうよ!」と堂々たるふんどし姿(そして鍛え上げられた肉体)で迫ってくる彼に、「あ、は、はい…」とコミュ障ばりの返答しかできなかったのである。

ふんどし部に対して、そして彼らが広めようとしているふんどしという文化に対して、私はどう折り合いをつければいいのかわからないまま、ファッションショーの開催地・100BANCHへと向かった。

ランウェイが
ふんどし!!

19:00、ふんどしを模した赤いランウェイに、和太鼓が鳴り響く。シリアスな面持ちで腕を組み、仁王立ちする代表・星野さん、そして、プロジェクトメンバーであり「ふんどしやさしいマン」の異名をもつ野田貴志さん。会場は、まるで決戦前のような気迫に包まれる——いや、「ような」ではなく、これは戦いなのだろう。でも、何の?

そして、ファッションショーが始まった。
まず登場したのは、私たちが「ふんどし」と聞いて思い浮かぶような、和風なルック。はっぴや甚平とミックスされ、おちょぼ口のリップメイクや、フォックス・マスクといった小道具で、ふんどしが引き立てられている。

この序盤に出てきたスタンダードなイメージに、もしかすると「あ、予想通りだわ」と思った人もいたかもしれない(実際私がそうだった)。しかしこれは、ここをゼロ起点とすることで、その後のルックへの衝撃を増幅させる仕掛けにすぎなかった。

6人のモデルが舞台袖にはけた後、登場したのはなんと——!?

ブリティッシュ・ロック調!?
赤いタータンチェックやデニム素材でできたふんどしは、ニットセーターやカジュアルなTシャツ、コンバースやサングラスとコーディネートされている。生意気で反抗的なルックは、最高にロックなファッションとして確立している。オーディエンスはモデルが登場するたびに、前のめってランウェイに見入る。

ふんどしの固定概念を、完全に壊しにきている、この人たち。それは戦い以外の何ものでもない。あの冒頭の気迫に、今さら納得してみたりする。

息をつく間もなく、次のテーマへ。

ゴージャスでセクシーな、セレブリティ・ルックが登場! トップスとセットでデザインされたふんどしは、正直、ふんどしだと言われないと気づかないレベル。

あ、今「じゃあふんどしじゃなくていいじゃん」って思いました? ふんどし部は何も、ふんどしでどんちゃん騒ぎしたい団体ではない。ふんどしそのもののメリット(通気性がよく、通常のパンツのように肌を締めつけないため、健康によいのだそうです。ふんどし部情報!)が前提にあって、だからこそ、この素晴らしきふんどし文化を広めたい、と奮闘しているのだ。

セクシーなルックのあとには、こんなトラッドなルックも登場。

ふんどしファッションショーへの期待値は、登場したルックの数に比例して、どんどん上がっていく。

お次は、レーシーな素材をまとったドレス風のルックが登場。

長いレースの裾をたなびかせ、ヴィクトリアズ・シークレットのエンジェルさながらのウォーキングでオーディエンスを魅了するモデルたち。ふんどし単体で見ると、腰骨のあたりでリボン結びされたひもや、愛らしいレースの素材がすごくかわいい。

私たちの「こんなものだろう」という思い込みに、どんどん切り込んでくるふんどし部。そういえば星野さん、前会ったときに「2020年までにパンツを駆逐する」って豪語してたもんな。

全体的にドーリーでロマンチックなイメージのルックが終わり、次のテーマへ。会場のBGMがスペーシーなものに変わった瞬間、現れたのは……!?

なんだこのサイバーなルック!!!!

このふんどし界のアレキサンダー・マックイーンともいうべきチャレンジ精神と独創性。こういうぶっ飛んだところがあると、ファッションショーっておもしろい。だって、ショーだし。オーディエンスをエンターテインする、ということがわかっているからこの構成にしたのだろう。

なんだか、少しずつふんどし部のことがわかってきた。

もちろん、真面目であることも、勤勉であることも重要だ。でも、誰にも知られなければ、どんなに素晴らしい活動も、結局芽が出ず終わってしまう。ふんどし部は、本当にふんどしを愛し、広めたいからこそ、エンターテインメント的要素を自ら押し出し、一見くだらないこと、シュールなことも意図的にやってみせているのである。100BANCHで彼らが異色だったのは、そんな戦略をすでに考えていたからだろう。

でも、表向きをおもしろおかしく仕上げている分、それを単なるバカ騒ぎで終わらせないためには相当な努力が必要なんだろう。だから彼らは、本当は人一倍真面目なのだと思う。100BANCHのオープニングパーティーで引いてしまってごめんなさい。今は大好きです。

そんなこんなで、全30ルックがすべてが登場し終わった。
最後はモデルが全員出てきて、もう一度ふんどしルックを披露。

そして、星野さんと野田さんが現れる。

このプロジェクトを牽引してきたリーダー、星野さんが挨拶を述べる。

「この世には、まだかっこいいと思えるふんどしがないんですよ。だから、世界に出していける、かっこいいふんどしを作りたい。そしてパンツを駆逐したいんです」

星野さんは、写真だとふんどしのせいか(おかげか?)肉食系に見えるのだが、喋り方も物腰も、とても柔らかい人だ。そんな星野さんのその言葉はなぜかとても切実で、それは会場全体のオーディエンスに伝わったのか、みんな聞き入っていた。

そして、「パンツを駆逐する」という、もはやパワーワードともいえる言葉が、私にはそのとき少し違う意味に聞こえた。だって、冷静に考えて、2020年に全世界からパンツが消えるわけはないのだ。じゃあ、彼らは何を伝えようとしたのか。

彼らが駆逐したいのは、パンツではなく、「パンツを駆逐するなんてできっこない」という固定概念なのではないか。それは、ある人には「こんな夢叶えられっこない」という思い込みであり、ある人には「こんなタスク達成できっこない」という諦めなのかもしれない。そうして自らリミットをかけてしまうことで、私たちはきっと「100年後の豊かさ」を、知らず知らずのうちに失ってしまうのだ。

彼らにとってふんどしとは、あらゆる固定概念への挑戦状であり、そして、精神的な豊かさの象徴なのではないか。私はふんどしファッションショーを観て、そんなことを考えて、そしてちょっと感動した。

もしあなたがマジョリティの力に負けそうになって、大切なものを失いそうになったときは、ぜひ思い出してみてほしい。このふんどし姿の男たちの勇姿を。そして、こっそりと自室でふんどしをはいてみるといいかもしれない(持っていない人はこちらで買えますのでぜひ)。鏡に映った自分の姿に、勇気づけられる……かも?

Licensed material used with permission by 株式会社ふんどし部
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。