K-POPとも張り合える、日本の「最後の」音楽ジャンル【Gacha Pop】

いまやK-POPは世界のポピュラー音楽における中心と言えるほどまでに成長し、中国やタイ、フィリピンなど、アジア全体が韓国に率いられる形で追随している。

ところで、日本はどうだろう?

「日本のポピュラー音楽」と聞けば、誰もがJ-POPを意味するものと思うだろう。そして、西洋はおろか、他のアジア諸国にも敵わないオワコンになりつつある、という認識もセットのはずだ。

確かにJ-POPは死んだかも知れない。ただし、それは「日本の音楽が」死んだことを意味するわけではない。知らずのうちに日本が培っていた個性的な音楽に、世界が気づいただけのこと。

いち早く察知した「Spotify」が、昨年5月に新しい時代の到来を宣言した。これを基に、世界が知った“日本らしさ”の正体に耳を澄ませてみよう。

日本音楽の集大成にして最後の砦
「Gacha Pop」

80〜90年代にかけて「J-POP」が誕生した時、日本はアジアどころか世界でも最大級の音楽大国であった。50億ドルに上る市場規模を維持し、平成中期まで全盛期と呼べる好調は続く。

しかし、10年後には市場規模が半分近くまで落ち込み、かつて30倍も開いていた韓国との差は4倍に。さらに、海外への輸出力においては完敗しており、日本音楽の輸出力は「K-POPの30分の1にも満たない」とされるまで落ち込んだ。

絶体絶命に陥った日本の音楽シーン。衰退の一途を辿るように思えていたところに、異変は起きた。

2020年末に、1979年発表の松原みき『真夜中のドア〜stay with me』が、18週連続でSpotifyのグローバルバイラルチャートの首位を維持する事態が発生。さらに、アニメ主題歌の連続ヒットやAdoの登場、YOASOBIのデビュー(と『夜に駆ける』の大ヒット)等、“J-POPにおける異常”が同時多発的に起こったのだ。

そして、異変を悟ったSpotifyは、あるプレイリストを作成した──

© Spotify

その名も「Gacha Pop」。

これは、Spotifyが「日本のポップカルチャーを括る新しいワード」として定義したもの。

新たなプレイリストは驚くべき速さで拡散され、公開から1ヶ月経つ頃には、Spotifyの日本語曲プレイリストのトップ3にまで成長した(他の2つ「Tokyo Super Hits!」と「令和ポップス」はどちらも人気が出るまで何年もかかったとされる)。

音楽に詳しくない人にとって、このプレイリストはさほど斬新に見えず、興味深いものではないかもしれない。

なぜGacha Popは特別な注目を集めているのか?

答えはシンプル。ここに選ばれた楽曲たちは、世界が求める”日本的な魅力”を詰め込んだ、集大成のような存在だから。

世界への輸出という点において、Gacha Popは明確な「ポップスの未来」だ。K-POPに拮抗するような、日本の感性を世界に発信できる新しいジャンル……いや、スタイルなのだ。

選曲の基準は「日本的な感性」。
ジャンルを超越した新たな音楽シーン

プレイリスト内のアーティストを見てみると、Radwimpsやあいみょん、King Gnuといったヒットメーカーもいるが、何より目を引くのは、なとりやimase等の新興勢力、そしてYOASOBIやAdoといった“オタク系”出身のアーティストの数々だ。

一見するとランダムな国内アーティストの詰め合わせのようだが、このチョイスには明確なコンセプトがある。『RollingStone』の取材にて、Spotify Japanの芦澤紀子氏はGacha Popの選曲基準をこう語っている。

「時代も国境もジャンルも超えるというコンセプトが根底にあり、ガチャガチャのように間口は広くフレキシブルでありたいので、日本のポップカルチャーを世界に発信するという定義にハマっていれば、ある意味何でもありだと思っています。」

「Gacha」の名前の通り、このプレイリストではガチャガチャのような“何が出てくるかわからないワクワク感”が意識されているとのこと。

ここで、「海外から見た日本」を俯瞰してみよう。

アニメやゲームがジャパニーズ・カルチャーとして有名なのは言うまでもないし、シティポップもニッチな人気を持ち続けているのも周知の通り。

ただ、これまで盲点だった点がある。

それは、J-POPもシティポップも、アニソンやゲームBGMすらも、全て等しく「日本っぽい音楽」と認識されていることだ。

日本に住んでいれば全く違うものとして区別できるが、海外の人からすると、(日本文化に造詣が無ければ尚更)どれも日本らしさの中として一括りになるのだ。実際、筆者の周りにも「ふつうのJ-POPもアニメっぽさを感じる」と語っていた外国人の友人がいる。

芦澤氏はこれを“カリフォルニアロール現象”と呼び、以下のように表現している。

「日本の伝統的な食文化である寿司は、日本人からすると『寿司はこうあるべきだ』という固定概念があると思うんです。しかし、海外では日本のしきたりや伝統を一旦抜きにして、単純にサーモンやアボカドが寿司ネタとしておいしいという感覚で、日本とは違う形で受け入れられ、新しいカルチャーを形成しました。でも、そもそもは日本の寿司という文化から生まれたものです。ポップカルチャーにおいても、それに近いことが起きているのではないかと感じました」

そう、Spotifyが気づき、新たな日本ポップスのセールスポイントとして売り出したのは、この「幅広さ」だった。

それでは一体、それが今になって世界で注目されているのは何故なのか?

カリフォルニアロール現象に加え、現在の日本コンテンツは幅広い領域の間でシナジー効果が生じ、ジャンルを超えて交わり合っている……アニメのヒットが音楽トレンドにつながったり、ボカロ曲がVtuberにカバーされることで世界に広がったり、これらがSNSを通して更に拡散されたり。

これらはまず、日本がようやくストリーミング時代を迎え、海外に国内のコンテンツが「届く」ようになったことが大きいだろう。

発信ができればその次。いかにして、激動のストリーミング・トレンドの中でも印象に残るような「衝撃」を与えられるかだ。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。