開発者としても嬉しい誤算だった「超高級テキーラ」

純金でできた特別仕様の化粧箱を開けると、ふんだんに琥珀が散りばめられた陶器製のボトルが。これに自慢のオーガニックテキーラが入って、1本300万円。

贅をつくした超高級品を5年前に限定販売し、一躍有名になったメキシコのテキーラメーカーがあります。ただし、これはあくまで創業15周年の限定品ゆえのお値段。

では、通常価格はいくらかといえば、これがまた結構なもの。テキーラメーカー「Clase Azul(クラセ・アスール)」の相場は、庶民の手が届くものでも1本70ドル(約8,000円)というんだから。

こちらのテキーラは、おなじみのショットであおる飲み方よりも、ワイングラスやシャンパングラスで香りや口当たりを楽しみながら味わう嗜好品だそうで、欧米の富裕層のあいだでちょっとした人気を呼んでいるのです。

それにしても、テキーラの高級志向はなぜ始まったんでしょう。

ブランディングのはずが…

1997年創業Clase Azulを経営するのは、あごひげを蓄えた写真の人物、Arturo Lomeliさん。当初はブランディングに苦労したそうで、本人も一から勉強し直し、ラグジュアリーブランディングの修士号を取得するまでに。

「真心込めてつくったテキーラを味わってくれる人たちの手に、どうすればベストなものを提供できるか」。考え抜いた結果、中身を飲み干しても手元に置いておきたくなるような磁器製ボトルを丁寧に手作りしてお酒をつめよう、ということに。

もちろん、こだわりのテキーラであることは言うまでもなく、ですけどね。

テキーラ業界にセンセーショナルなボトルが登場したのは2007年のこと。価格1,200ドル(約13万円)の超高級ボトルは、予想どうり話題になったものの、Lomeliさんにしてみてもあくまでこれは興味をを引くためのものだったはず。

ところが…これがまさかのバカ売れ。アメリカの富裕層からの需要が一気に拡大。よもや継続商品になろうとは、嬉しい誤算だったそうです。

国内でなく完全にアウトバウンド向けに徹したマーケティング戦略がどハマりしたかたち。アメリカ、欧米、さらには富裕層が集まるカンクン(メキシコ)を狙うあたりがニクい。

高級志向にこだわるワケ

お酒のボトルとしては珍しい陶磁器製、飲み干したあとはそのままボトルをコレクションするほか、花瓶やキャンドルホルダーとして活用する人が多いようですが、この手作り陶磁器、単なる希少性をあおるだけではありませんでした。

そこに、もうひとつの深い理由が。

Lomeliさんがこの価格帯にこだわり続けることで得た収益は、社員たちが安心して働ける環境づくりに役立てられていました。たとえば、工場に併設した託児所。

サッカークラブのスポンサーとなり、若者たちの将来への支援もサポート。

そして何より、この急成長を支えたオリジナルの陶磁器ボトル、そのインスピレーションの源泉となったメキシコ伝統陶器。Lomeliさんは、寄付というかたちではなく、職人たちに不可欠な道具や施設を用意したり、養成学校を設けることで、自分たちのルーツにある焼き物が後世に伝承されるために心血を注いでいるんだそうです。

初めこそ“話題づくり”だったかもしれない。それが今、地域への貢献として大きなコミュニティへと輪が広がっていることも紹介しておきます。

Licensed material used with permission by Clase Azul
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。