迷える人生の突破口は、この秋、尾道で見つかる

今度のアートフェスは何かが違う。

会場となるのは、猫の街としても有名な広島県・尾道から、福山にかけての島々を含むエリア。海と山が近接し、行き交う船や島々、そこにある古くからの営み、さらに日本の近代化の光景までもが見られる、ノスタルジー溢れるこの地域。そこを回廊のように巡る新たなアートフェス、それが「海と山のアート回廊」だ。懐かしいと新しい、その両方の風景が入り混じるこの地で、歴史ある建物(旧)と現代アート(新)が混じり合い、響き合う様から得られるもの、それはきっと、日常で忘れがちなとっても大切なこと。

聖徳太子創建のお寺
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金属の積み木

榎忠《RPM-1200》/高野山開創1200年特別企画展「いのちの交響」高野山総本山金剛峯寺(奥殿)2015 ©Chu Enoki
Photo by 阪田隆治
700年余りもの歴史がある中国地方屈指の古刹、「浄土寺」。飛鳥の時代に聖徳太子が創建したと言われているこの歴史的建造物が、一つ目の会場だ。
 
未来都市? ここに展示されている榎忠さんの作品は、「身の回りに潜む危機や不穏要因」がテーマ。金属部分を丹念に磨き上げ、積み木のようにつみ上げたインスタレーションは、浄土寺と先鋭的なアートが共鳴するこの空間で、神秘的な光を放つ。その光は、ここでしか感じることができない唯一無二のもの。通常の美術館で見るような感覚とは、ひと味もふた味も違う魅力があるはずだ。

廃校のプール
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黒いオイル

原口典之《物性 1》/ART BASE 百島
吸い込まれそうに真っ黒なプール。二つ目の会場は、「ART BASE 百島」。2000年に閉校になった尾道市百島の旧中学校舎を再活用し、アーティスト柳幸典さんと恊働者達による創作活動を通して、離島の創造的な再生を試みるアートセンターだ。
 
ここでの注目はまず、プールに黒いオイルを張った原口典之さんの作品。鉄製の水盤に廃油というシンプルな二つの物質によって構成されており、漆黒の鏡面に反転した像を映し出すため、床下にもうひとつの世界が広がるような錯覚に陥ってしまう。
 
また、様々な常設作品に加えて、「ひろしま」との対話を記録している写真家、石内都さんらの作品も公開している。広島の被爆の惨劇の跡が残る遺品に、その所有者が生きていた証の美を見出し、一点一点語りかけるようにシャッターを切って撮られた作品。原爆、それは広島の地を訪れる時に忘れてはならないテーマだ。
石内都《ひろしま#9 Dress》 2007 ©Ishiuchi Miyako
Photo by Donor: Ogawa, R.

パン人間とヤヨイちゃんも
やって来る 

まだまだ。他にも注目の展示がたくさん。その一部をご紹介しよう。

折元立身
『Bread Men in Yame』

折元立身《Bread Men in Yame》2004 ©Tatsumi Orimoto, Art Mama Foundation

国内外で活躍する、アーティスト折元立身さんを代表するパフォーマンス作品。今回は、地域住民参加型イベントとして行われる。参加者はフランスパンを頭にくくりつけて街を練り歩くのだが、視界はパンの隙間だけ。そこからは一体どんな景色が見えるのか、是非参加者に聞いてみたい。

草間彌生
『ハーイ、コンニチワ! ヤヨイちゃん』
『ハーイ、コンニチワ! ポチ』
草間彌生《ハーイ、コンニチワ! ヤヨイちゃん》《ハーイ、コンニチワ! ポチ》©YAYOI KUSAMA
Photo by Mie MORIMOTO
尾道市立美術館の最初の部屋では、世界的芸術家・草間彌生さんの作品が来館者を出迎えてくれる。ヤヨイちゃんとポチ、他の美術館で展示した際には長蛇の列が出来るほど人気のあったこの作品、なんと本展では自由に撮影することができる。
山本 基
『百島内五右衛門風呂の家「乙1731」滞在制作』
山本基 《迷宮》 2010 ©Motoi Yamamoto,
Photo by Stefan Worring
塩のインスタレーション作家、山本基さんによる滞在制作。床一面に描かれた絵は、塩のみで描かれている。亡くした妹や妻との小さな記憶を一つ一つ取り出して紡ぐように制作し、展覧会最終日には、作品で使用された塩をもといた場所、海に還すプロジェクトも実施するそう。
山口 晃
『當おばか合戦ーおばか軍本陣圖』(部分)
山口晃《當卋おばか合戦─おばか軍本陣圖》部分 2001 ©︎YAMAGUCHI Akira
Photo by Keizo KIOKU, Courtesy Mizuma Art Gallery
卓越した画力で高い人気を誇る作家、山口晃さん。彼の作品は、現実の歴史と空想を混在させ新たな見方を提案する。歴史は串の刺し方で違うものに見えてくると言う通説を体現したような本作品は、緻密で細かく、いろいろなところに遊び心がある。すっかり馬に見えていた左手前の乗り物も、よく見たらバイクだったりするのだ。

アート回廊で気づくこと

海と山。新しいものと歴史あるもの。観光客とそこに住む人々。「海と山のアート回廊」は、一見相反するものが、作品を通して巡り会い、交わりあう場だ。そんな空間を体感することは、日常の中で見過ごしてきた、多様な価値観や感じ方、ひらめきや可能性、突破口に気がつくきっかけになるかもしれない。

このアートフェスを通して、猫の街・尾道に、新たな価値が創造される予感がする。

会期:2017年9月16日(土)〜11月12日(日)
 ※会場により会期が異なります。
 
開催時間:10:00〜17:00
 ※尾道市立美術館は午前9時から。
 
会場(連携会場)尾道市立美術館、浄土寺、西國時、尾道本通り商店街 yumenemi ギャラリー、旧絵のまち館、アートベース百島、鞆の津ミュージアム
Top Photo by 阪田隆治
Licensed material used with permission by 海と山のアート回廊
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。