「農業は儲からない」なんて言わせない。跡取り息子の経営センス

厚真町で代々続く畑作・稲作農家の後継者、堀田昌意さん。

市場価格の落ち込みから町内では栽培する人が少なくなった原木しいたけを売り上げの主力作物へと育てるなど、農業経営センスをいかんなく発揮してきました。現在は北海道農協青年部協議会の役員もこなし、広い視点から町の農業を見つめます。電卓をたたいてはじき出した“本当に利益率の高い農業経営”とは——。

堀田さんの、厚真町農業に掛ける思いを伺いました。

売上が落ちた商品を、主力商品へ。

——堀田農場の主力作物は原木しいたけ栽培と伺いました。原木しいたけは、菌床しいたけと比べてどのような特長があるのでしょうか?
堀田:原木しいたけは歯ごたえが全く違います。菌床のものより水分量を抑えられるので、繊維質がしっかりしていて、軸まで食べられますし、石付きも汁物の出汁をとるのに使えます。それから日持ちが良いですね。しょう油やバターを落としてもいいですが、網で焼いただけでも抜群においしいです。

——どのように栽培するんですか?
堀田:毎年2月頃、厚真町内の山から仕入れたナラの原木にしいたけの菌を植え付けます(植菌)。そのほだ木をハウスの中に横積みし、水を掛けたり、温度を保ちながら菌を生育させます(活着)。そして、4〜5ヵ月経つと収穫できるようになります。収穫後はほだ木をいったん別のハウスに移し、冷たい水に浸してから空気にさらし、紫外線をカットした状態で1ヵ月ほど休んでもらう。それを再び収穫用のハウスに入れると、しいたけが生えてくる。これを12サイクルくらい繰り返します。

経営センスで「儲かる農業」を。

——北海道の冬は畑作業ができないから、その時期に仕事があるのはいいですね。
堀田:1年を通して農作業ができるということで、祖父が始めました。当時は500万円を投資すれば2,000万円の売り上げになったので、しいたけバブルだったんです(笑)。町内では30戸ほど生産していたみたいですが、今はうちを含めて原木栽培が2戸。菌床栽培を含めても10戸もいません。

菌床しいたけ栽培が伸びてきたことで原木しいたけの市場価格が下がり、1kg当たり700円を切った辺りでバタバタとやめていきました。残念ながら市場単価は今も戻っていませんが、うちはほだ木の本数を減らしながらも生産量を維持することで何とかずっと原木栽培を続けてきました。

——それだけ、原木しいたけ栽培は手間がかかるということですよね。
堀田:そうですね。ハウス内の温度や湿度の管理、ほだ木を並べ替えたりする大変さはあります。1日の生産量も菌床のほうが多いです。でも10年ほど前から差別化を図るために販売やPR方法を工夫したことで、消費者が違いを分かって原木しいたけを選んでくれるようになりました。また、僕らのしいたけ生産組合は販売ルートを変えることで販売量を確保してきました。これまでは、作ってとにかく市場に卸すという方法でしたが、今は仲買を通して注文量に応じる形にしています。そこでさばききれなかった分は他でも販売できるように、4本のルートを持っています。そうやって、最終的に生き残るのは原木しいたけじゃないかなと思っています。

——原木しいたけの他には何を作っているんですか?
堀田:大豆、南瓜、麦、米を田畑輪換(農地を数年ごとに水田と畑に交替利用する方式)で栽培しています。耕作面積は全部で32haくらいですね。田畑輪換のメリットは、連作障害を防いだり、田んぼから畑に戻した時や米から大豆にした時に、土壌に残っている栄養だけで作物が育つところ。稲わらや麦稈などの残渣物を土に戻すことで、微生物(根粒菌など)が良い働きをしてくれます。排水性を良くするなど圃場を整備する手間はありますが、慣行栽培より10a当たりの収量が高いし、化学肥料や農薬を減らすことができる。そういった工夫で、少しでもコストを削減しようと考えています。

 

このように、堀田さんは持ち前の経営センスで「儲かる農業」を実践。後編では、そんな堀田さんが農業にのめり込んでいった過程と、今後についてを紹介します。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。