グラミー3部門受賞。突如メインストリームに躍り出た「Boygenius」について語りたい

現地時間2月4日に開催された第66回「グラミー賞」授賞式において、Boygeniusが最優秀オルタナティブ・ミュージックアルバム部門をはじめ、計3部門を受賞した。

Phoebe Bridgers、Lucy Dacus、Julian BakerによるバンドBoygeniusは、昨年3月にデビュー・アルバム『The Record』をリリース。英アルバム・チャート1位、全米アルバム・チャート初登場トップ5入りの快挙を達成した彼らは、2020年代USインディから生まれ、結晶のような眩い輝きを放つ存在となり高く評価された。

と、ここまでは情報に敏感な方ならば、既に何度も目にしたであろうニュース。

しかし、今回筆者が紹介したいのは功績うんぬんという話ではなく(無論それについても語りたいが)、彼らが受賞した隠れざる名誉な賞「ユニバーサルミュージック×REVERBアンプリファイア賞」について。

音楽を通じて
社会に「ポジティブ」な変化を

©フェンダーミュージック株式会社

聞き馴染みないこの賞、実は「ユニバーサル ミュージック」と大手環境非営利団体である「REVERB」がタッグを組み、去年のグラミーで初めて導入されたもの。

ライブやオンラインなどでのファンとの直接的な関わりを通じて、社会問題や環境負荷を削減するための測定可能なアクションと非営利目的への支援への取り組み、さらにはその達成をもっともよく体現したアーティストを表彰するものだという。

ちなみに、初代受賞者に選ばれたのは、あのビリー・アイリッシュ。自身のプラットフォームを利用して世界中の非営利団体の取り組みを拡大し、ファンや音楽業界を有意義な気候変動対策への参加を促したことが受賞につながったのだそう。

一例を挙げるとすれば、完全菜食主義を貫いているビリーは、一昨年日本でも行われた「Happier Than Ever World tour」にて、徹底した環境プロジェクトを実施。筆者も参加した同ライブでは、来日公演ではなかなか見る機会のない「キュウリの一本漬け」を販売しており、これが煮えたぎる真夏のライブにめちゃくちゃ好相性。

脱線したが、今回受賞したBoygeniusは3人ともクィア(Queer)を公言しており、「女性というだけで比較され、ライバル視する音楽業界やメディアに嫌気がさしていた」とのことからフロントウーマンは存在せず、バックバンドやバックミュージシャンも全員女性に。

単なるアーティスト同士の集まりというにはあまりにも完成度が高く、調和が取れた彼らのメッセージは、Z世代にもちゃんと届いている。ニューアルバムを引っ提げたツアーは軒並みSOLD OUT、Spotifyの月間リスナーは今や580万人を突破している(2024年2月現在)ことからも、注目の高さがうかがえる。

そんな彼らが今回の受賞に繋がったきっかけは、間違いなく「LGBTQ」に関わることだろう。

「差別化させないことを
ずっと重視してきた」

Boygeniusは音楽というフィルターを通し、彼らなりのアプローチを全世界に発信し続けてきた。

記憶に新しいのは、Julianの故郷でもあるテネシー州で行われた「Re:SET Festival」にて、同州がドラァグパフォーマンス禁止法案を掲げているにもかかわらず、3人とも恐れることなくドラァグ姿で登場したこと。

その際に「テネシー平等プロジェクト」の資金集めと称して発売された限定Tシャツは大きな反響を呼び、すぐさま即完に至ったそうだ。

ここまでの情報だとLGBTQを大々的に発信しているバンドという捉え方をしてしまいがちだが、本人らは「女性でありながら」成功を収めたという表現に違和感を抱いており、自分らの曲の評価に不要な基準が持ち込まれてしまうことを忌避している。

「互いに高め合うこと、
それが私たちのアプローチ」

© Boygenius/Instagram

boygeniusを愛する理由の一つとして挙げたいのは、バンドのInstagramだ。

『Rolling Stone』のロングインタビューで「メンバーが全員クィアの女性であることを殊更に強調するよりも、バンドのライブ写真やアルバムのクレジットを見せた方がいい」とjulianが述べているように、ライブ写真だけではなく、リスペクトが詰まったオマージュ写真を度々公開する彼ら。

同誌の表紙では1994年1月号のNirvanaを完コピしていたり、昨年のコーチェラでは人気ドラマ『Better Call Saul』を再現したポスターを所々に散りばめたりなど、そこに彼女らのメッセージはなくとも、毎度ファンを沸かせまくっていた。

こうして、音楽以外の方法でも私たちに「LGBTQ」という大きな社会問題について無意識に考えさせてくれる彼らの工夫が凝らされたアプローチが、今回の受賞に繋がったのではなかろうか。

今年で2回目となる本賞の受賞を受け、3人は共通してコンサートや音楽の制作環境にて経験したトラウマを持っていることから、自分たちの手で理不尽な社会を塗り替えていくことを明言。

加えてPhoebeは「いつか誰もがこの賞を受賞できるようになり、誰もこの賞を貰えなくなることを祈っている」と述べており、強気ながらも説得力のある彼女のメッセージに、筆者はまた惚れ直してしまった。

今後のBoygeniusの活躍に目が離せない……!と締めたいところだが、2月1日にロサンゼルスで行われたショーを最後に、グループは無期限の活動休止に突入。

突然PhoebeやLucyのInstagramの投稿がすべて消えてしまう騒動に、筆者を含むファンは驚きを隠せなかったが、彼女らは再び戻ってくることを約束。

もう心配する必要はない。いつかバンドのInstagramに新たな画像がポストされたとき、彼らの音楽は再び鳴り始めるのだから。

Top image: © Robert Gauthier / Los Angeles Times via Getty Images
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