「僕の原動力は、学歴がないこと」クリエイティブをつくる方法とは? 菱川勢一

映像、デザイン、写真、ワークショップなど、さまざまな手法でモノ・コトを生み出すクリエイター集団「DRAWING AND MANUAL」。その代表である菱川勢一氏とTABI LABO共同代表の成瀬勇輝が語り合う、会社のコト、アイデアのコト、これからの時代に必要なコトとは?

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001.
学歴がないことが原動力。
目の前のことを必死にやる

成瀬 僕は個人的に菱川さんの手掛けた映像作品やCMが大好きで・・・。今日は何から伺っていいか悩むところですが、まずは学生時代のお話からお聞きしたいです。

菱川 僕の原動力みたいなものがあるとすれば、それは「学歴がないこと」なんです。

成瀬 おっ、意外ですね(笑)。

菱川  普通、大学ってその先の就職を見据えて選ぶじゃないですか?でも、僕はそれが嫌だったんです・・・というと聞こえはいいんですが、選べなかったんですよね(笑)。それで高校卒業後、レコード会社に入社しました。その時「もうこれで、普通のレールには乗ってないな」って開き直った。それで「片っ端から何でもやろう」って決めたんです。

成瀬 レコード会社を選んだ理由はなんだったんですか?

菱川 シンプルに音楽が好きだったから。それとレコード会社って音楽だけじゃなくて、イベントや出版、通販、さらにはキャラクタービジネスまで、かなり幅広いビジネスをやっていて、おもしろいな〜って。それで、働いているうちに欲が出てきて、NYヘ渡ったんです。

成瀬 突然、NY(笑)。

菱川 これまたシンプルで、理由は「行ってみたかったから」。あとは、ビリー・ジョエルとか好きなミュージシャンがNY出身だったっていうのも理由ですね。

成瀬 具体的な目標はあったんですか。「NYでこういうことをやりたい!」みたいな。

菱川 ミュージックビデオ(MV)を作りたかったんです。で、いざ向こうで撮影現場を体験するとすごく発見があって。ほら、アメリカ人って毎日をエンジョイしているようなイメージがあるじゃないですか?そういう先入観を持っていたけど、実際は全然違った。彼らはすっごく働いて、ガツンと休む。余裕で2〜3週間ぐらい休む。で、またMVを撮る。メリハリがすごいんです。

成瀬 僕もアメリカの大学に行っていたので、想像できますね。

菱川 本当にすごいですよね、リアルなアメリカは。さらに衝撃だったのが、スタッフの1/3ぐらいが不法滞在の人だったこと。彼らは、お金が欲しいから、めちゃくちゃ働くんです。給料も月給とかじゃなくて、その日の分はその日に支払われるシステム。だからみんな目の前のことに必死なんですよ。

成瀬 そういった経験って、今菱川さんが代表を務めているデザイン会社DRAWING AND MANUALにも影響していますか?

菱川 そうかもしれない。DRAWING AND MANUALには事業計画がないんですよ。それどころかレギュラーの仕事もない(笑)。

成瀬 え!?プロジェクトごとに動くというイメージですか?

菱川 エネルギーを目の前のことに集中させるやり方ですね。それはNYで出会った彼らからの影響だと思う。うちのスタッフはみんな個人レベルでやりたいことがあって、きちんと目標を持っている。個人のやる気に、会社が頼っているんですよ。
よく「会社とは人である」なんて言いますけど、うちはリアルにそれを実践しています。完全に一人ひとりが独立していて、僕がコントロールはしない。テレビの仕事なんかも、もうオンエアされてから、僕が「テレビ見たよ」とか。全然、把握していない(笑)。

002.
意識していないところで出会う
アイデアこそ、大切にしたい

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成瀬 同じ経営者として、菱川さんのスタンスはすごく衝撃的です(笑)。だけど、経営者がコントロールしなくても、会社が成り立っているのって、ちゃんと個人が生み出すデザインが、周囲から認められている証拠だとも思うんです。

菱川 うん。クリエイティブの仕事のいいところは、何をやっていても仕事になることなんです。例えば机に向かっていなくても、くわえ煙草でパチンコをしていても、仕事になる。ひと言「アイデアを持っています」と言えば、問題ない。

成瀬 なるほど。

菱川 そのかわり、どんなに時間をかけて考えても「アイデアが出ませんでした」ってこともあるわけです。僕はアイデアをそれぐらい奇跡的なものだと考えています。顔をしかめて考えていればいいんじゃなくて、遊んでいるなかで「いいかも!」って閃く。多分、成瀬さんもそういう経験はあるんじゃないですか?

成瀬 じつはTABI LABOがそうだったんです。ちょうど3年ぐらい前、キリマンジャロを登山中にスマホを見たらネットがつながっていて・・・その時に「僕は今、世界にいる」と強く感じたんです。その感覚をたくさんの人に伝えたくてTABI LABOをつくったんですよ。

菱川 そういった意識していないところで出会うアイデアが、クリエイティブには必要だと思うんです。計算できたり、予測できたりするものなんて、全然おもしろくない!そういった意味で、旅っていうのはアイデアに出会える確率が高いかもしれない。

成瀬 そんな旅で出会った「何か」を、自分の仕事に活かしていくのって、何かコツがあるんでしょうか?

菱川 僕は旅先では想像をしますね。例えば、台湾の田舎の村に行きます。そこでジーッと、おばあちゃんと孫が会話している様子を見たりして。「もしも僕がこの孫だったら、どういうふうに暮らしていたか?」なんて想像するんです。こういう小学校に通って、とかね。

成瀬 おもしろいですね。誰かの人生に入っていくって映画みたい。

菱川 実際、自分の写真展でも、そういうことをやりました。写真1枚1枚に脚本を書いて、映画のワンシーンに見立てるって試み。

成瀬 映像もやるし、文章もやるし、写真もやる。多才ですね(笑)。

003.
例えば、高齢化社会。
デザインが世界を変える

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成瀬 菱川さんの活動って、いわゆるデザインに限られてないと思うんですが、一方で僕は以前、別のインタビューで「デザインの役割はものすごく大きい」と発言していたのを見ました・・・。

菱川 僕は今の社会で、もっとデザイナーが活躍しないといけないと思っているんです。例えば、ハンディキャップのある人へのデザインは不足している。僕は、自分でも耳の不自由な人が楽しめるプロジェクションマッピングに挑戦しているんです。「ボディソニック」という振動によって、音楽をカラダで感じられるシステムを採用しているんですが、本当にそういうデザインって少ないんですよね。
高齢化と言われているわけだから、スポーツブランドなんかに、そのテクノロジーを活かして、シルバーラインとかやってもらいたい。当たり前のことだけど、ちゃんと世の中のニーズと歩調を合わせることが大事だと思う。

成瀬 そういったことを考えている菱川さんって、もはやデザイナーというくくりではないですね。デザインって、適材適所。どこに何をおくかが、ものすごく大事ですよね。かっこいいものをつくれば良いではなく、そこに本当に必要なものって何か?デザイナーこそ、実はマーケティングの要素をもつ必要があるとも強く感じています。

菱川 デザイナーがやらなきゃいけないこ とって、まだまだ世の中にたくさんあると思う。ちゃんと聞く耳を立てて、何をデザインすべきかを、敏感にキャッチしていきたいですね。

004.
議論やアクションを起こすクリエイティブが求められている

成瀬 ここで少し具体的に菱川さんの手掛けた作品について。僕はNTTドコモのCM「森の木琴」が大好きなんですが・・・。

菱川 あの作品には「日本の森を救え」という大きなテーマがもともとあったんですよ。そこでNTTドコモとシャープ、そしてNPO法人more treesの三社で木製の携帯電話を作ることになった。

成瀬 そして、その木製携帯電話のCMを作られたのが菱川さん。ものすごくインパクトのある作品でしたね。

菱川 当初は、間伐材でバイオリンやチェロを作って、森の中で演奏するという企画だったんですが、それじゃあただのリラックスした映像になってしまう。森を守るってメッセージを伝えるためには、インパクトも必要だなって。ロケハンだけで64ヶ所、編集も合成もなしだから、OKが出るまで50回も撮り直しました。

成瀬 すごい・・・。

菱川 でもね、このCMの一番大事なところは、企業のHPだけでなく、あえてYouTubeにアップしたことだと思うんです。なぜかと言うと、そこで視聴者には議論してもらいたかったから。実際、「CM自体が自然破壊だ」なんてネガティブな書き込みもあったし、林業関係者が「とてもうれしい」と書き込んでくれることもあった。それこそ言語も日本語だけじゃない。いろんな国の人の間で、CMに対して賛否両論があったんです。

成瀬 ただ映像として優れている以上の効果があったわけですね。

菱川 多分、国際的に評価されたのも、そういった背景があるからだと思います。

成瀬 現在は、SNSができたことで、コミュニケーションの場は増えたし、情報の拡散性も加速している。そのシステムみたいなものを上手く利用することで、クリエイティブがより効果的に広まっている。

菱川 そう、これからのクリエイティブは、作っておしまいじゃなくて、それについてちゃんと議論できるような場を持つことも大事だと思います。
TABI LABOのようなメディアもそう。一つの事象に対して、議論できたり、アクションを起こせたりするような仕組みを作っていくといいですね。

成瀬 はい。TABI LABOの「LABO」みたいなカタチで、活発な交流や意見交換ができたらいいかなって実は、考えてはいます。そこから新しいアイデアや、実際に行動する人たちが生まれてくる・・・身体性にまで触れられるメディアにしていきたいと思っています!

菱川勢一/Seiichi Hishikawa

映像作家、写真家、脚本家、作詞家、DRAWING AND MANUAL代表。1969年生まれ。レコード会社に入社後、渡米。映像業界へ転身。帰国後は、映像演出、舞台演出、空間演出、グラフィックデザイン、Webデザインなどの経験を積む。ニューヨークADC賞、カンヌ国際広告賞など、受賞歴も多数。

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