家を建てる前に絶対知っておくべき、家とお金の「5つの関係」
私は依頼主の方が自分の家を手にいれる際に、お金に対する感情が大きく影響してきている姿を、これまでたくさん見てきました。家はとても大きな買い物です。自著『住む人が幸せになる家のつくり方』から、ぜひ知っておいていただきたい、お金が人と家におよぼす影響をご紹介したいと思います。
01.
夫婦間の金銭感覚のズレは
あとあと夫を苦しめる
お金に対する重圧感は、男性と女性では受け止め方に往々にして温度差があります。夫が30年間かけて住宅ローンを支払うことに対しての重圧がどれくらいあるか、妻が専業主婦だったりする場合には、なかなか理解しにくい部分です。
30年ローンを支払い続けることを考えると、男性によってはストレスのあまりうつになる人もいます。
それなのに、妻は簡単に「でもこれ、あと100万円出せばこういうふうになるのよ」などと口にすることも。
また、逆に、「自分は夫婦で稼ぎがないから」と完全に遠慮してしまい意見を全く言わず、でも家ができたら満足した顔をしないという場合も。
このような両極端なケースになるのは、「男性が人生をかけて住宅ローンを払っていくことに対しての気持ち」に本当に寄り添った状態の妻が意外と少ないからなのだと思います。
しかし、お互いがその金額に対してどんな思いを持っているかを夫婦で知っていればこの問題は解決できます。「ああ、この人はお金が動こうとしていることに対して、こういう感情が揺さぶられているんだ」とわかってくるのです。
同じ10万円の追加を切り出すとき、「たった10万円でこれだけできるんだから」などと言うのではなく、
「ここに癒し効果のある木を張るとあと10万円かかるんだけど、家の居心地を考えて、その価値はあるんじゃないかしら」というように、言い方も変わってくるはずです。
02.
お金は「心の安らぎ」を
得るために使うもの
Dさんご夫妻はともに70歳。70歳で家を建て替えると聞くと、多くの人がまず苦笑いをしたり、「そんなもったいないことを何で今更するの」と言われたりしたそうです。しかし、そのご夫妻から出てきた言葉はこのようなものでした。
「私たちはこれまでずっと一生懸命働いてきました。息子2人に残す分のお金は確保してあります。お墓にはお金を持っていけないから、残りのお金は自分たちが本当に楽しめるように使っていきたいのです。そこで何に使おうか考えたときに、家の建て替えが思い浮かんだのです。38年間住んできたこの家に愛着はあるけれど、中が暗くてじめっとした家で残りの人生を暮らすのはイヤなのです。だからこれからの人生をより味わい深くするために、このお金を使いたいと思います」
こうきっぱりと言い切られた姿は、本当にカッコイイと思いました。自分たちの夢をかなえるために建てた家は、周りの人がなんと言おうとその価値を変えることはありません。ぜひこの意識を家族で共有してみましょう。
03.
「資産になる家」を
長いスパンで考える
「資産になる家」とは、「住宅ローン以上の金額で貸せる家」のことを指します。たとえば、建てようと思う家について、住宅ローンの金額は大まかに算出することができます。それと併せて賃貸情報誌を見てみると、同じエリアで同じような家がどれくらいの値段で賃貸に出されているかを調べて、ある程度相場をつかむことができるのです。このやり方で、ローンと家賃の相場があまりにもかけ離れていないかチェックしてみましょう。「資産となる家」は、家賃相場のほうが高い家になります。
家を建てると、日本ではとくに「一国一城の主」という価値観が生まれるものです。それは自然なことですが、家が不動産だという意識の中には、耐久性が高いのはもちろん、その地域のニーズに合わせて、人にいろいろなバリエーションで貸す可能性を組み込むことが大切です。
人生はどんなことが起こるかわりません。家の使い方をフレキシブルに対応できるように考えておくのも、リスク管理のひとつです。
04.
「自然素材を増やすとお金がかかる」
というのは、ただの思い込み
資産価値を上げるために、自然素材を利用した家をつくることを考えます。一般に「自然素材の家は高そう」というイメージがありますが、実は一概にはそうとはいえないのです。
工業製品のビニールクロスは、1平米あたり1000円から1500円くらい、安いものを探せば1000円を切るものもあるかもしれません。しかし紙のクロス「ルナファーザー」等を使えば、1平米あたり1500円ぐらいまででできます。これもれっきとした天然系の素材なのですが、ビニールクロスと同程度の価格です。
ビニールクロスを壁に貼ると、ちょうどラップを巻いているような状態になります。冬場に静電気を帯びて「パチッ!」となるのはビニールクロスのせいです。一方、紙のクロスは和紙を巻いているような状態で、通気性や透湿性に優れ、結露やカビの発生を抑えます。いわば呼吸する建材です。それがほぼ同じ価格でできてしまうことを、一般の人はほとんど知りません。
フローリングに関しても、無垢のフローリングと合いたを張り合わせた一般的に普及している複合フローリングとでは値段はそれほど変わりません。複合フローリングは「物を落としてもへこまない」「季節が変わっても木が伸縮しない」という点でクレームが起こりにくいので、ハウスメーカーなど大手において「品質保持できる品質の高いもの」という位置づけで使われているということです。私の場合は、本物のほうが、素足に直接触れる部分が肌触りもよく、香りもよい面などが魅力だと思っています。
「これは高いから無理だ」と最初から引っ込めてしまうのではなく、どのような要望でも「まず出してみる」ことをおすすめします。
05.
目先の安さに
絶対につられてはいけない
家を手に入れようと考えたときに、人はまず出せる予算のことから考えてしまうものです。しかし生涯全体を見渡して、家にかかるお金をきちんと見直してみる必要があります。
建て売り住宅等で、今安く手に入ると思っている家は、基本的には耐久消費財的な家づくりをしています。手に入れた時点では安くても、30年後から50年後、もう一度建て直すリスクをがつきまとうのです。
安く手に入る家の場合は、30年後に立て直すか、または30坪くらいの家で1,000〜1,500万円くらいの改修費用の積み立てを30年後までに行うかのどちらかぐらいは必須になると考えていたほうがよいでしょう。
「今、手に入れられるから」という理由だけで買ってしまうと、30年後にローンは残っていても建て替えをしなければいけなくなります。しかし、そのときには自分は何歳になっているかを考えてください。60代、あるいは70代かもしれません。新たなローンを組むことはもう難しくなっているでしょう。
だからこそ私は、目先の安さにつられて家を買うという行為は、とても安直で危険なことなのだという警鐘を鳴らしていきたいのです。
『住む人が幸せになる家のつくり方』
コンテンツ提供元:サンマーク出版
株式会社川本建築設計事務所代表取締役。1級建築士。広島と東京を拠点に「快適で幸せな建築空間作り」を専門にする建築家。設計活動を行う傍ら、全国的に講演活動や執筆活動を行っている。