「デヴィッド・ボウイ」は、なぜ世界中で愛されるのか?

2016年1月10日、デヴィッド・ボウイ(69歳)がガンで亡くなった。彼の死を惜しむ声は多いが、その一方で彼の音楽に触れたことがない人もたくさんいるのでは? 彼の名前は知っていても、具体的にどんな作品を残したか問われると、答えにつまる人は、少なくないはずだ。

なんせボウイは時代時代で、めまぐるしく変化するタイプのミュージシャンだ。捉えどころがないと言えばその通り。そもそもミュージシャンではあるけれど、それだけでは語れない。一言で彼を表すとすれば「アーティスト、芸術家」が適切だ。

ボウイがなぜ偉大なアーティストなのかを知るには、彼の作品に触れることが一番。この記事が、その入り口になれば。

コンセプト・アルバムの
美しい物語に魅了される

まず目に入るのはこの独特の容姿。いわゆるビジュアル系の元祖である「グラムロック」を代表する人物が彼だ。ところでグラムロックってなんだろう?

1969年発表のアルバム『Space Oddity』は、前年に公開されたSF映画『2001年宇宙の旅』をモチーフにしてつくられたもの。アポロ11号の月面着陸に合わせてリリースされ、その物語性や宇宙を想像させる斬新なサウンドがヒットした。

全体が一連の物語になっているアルバムを「コンセプト・アルバム」と呼ぶ。彼の作品はまさにそれ。あくまで楽曲なのでストーリーが正確に読み取れないこともあるが、かえって想像力を刺激される。

彼は、性別はおろか地球人かどうかもわからないような不思議な外見で物語を再現し、多くの人々を魅了する有名アーティストになった。ただ派手な格好をして演技をするのではなく、登場人物になりきったのだ。代表的な作品は、1972年のヒットアルバム『ジギー・スターダスト』だ。

キーワードは「演じる」

「ジギー・スターダスト」は、別の惑星からやってきたロックスターで、成功と転落によって悲劇的な結末を迎えるキャラクター。着想は映画『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』などスタンリー・キューブリック作品から。ライブツアーの衣装を山本寛斎が担当したことでも知られている。

妖艶なビジュアルや、奇抜なパフォーマンスでその存在が神格化されていくが、物語にそって人格は破滅へと向かい、やがて封印された。その後もまったくの別人格を次々に演じていたが、そのほか映画俳優としても活躍した。

1983年には大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』に英兵役として登場、ビートたけしや坂本龍一と共演。また、『バスキア』ではアンディ・ウォーホル役を、『プレステージ』では天才科学者ニコラ・テスラ役を演じるなど、多くの映画に出演している。

変化を繰り返し
予想を裏切り続けた

ヴィジュアル・音楽性ともに挑戦の繰り返しで、パントマイムの動作や歌舞伎の演出、ブラックミュージックを取り入れたりと、スタイルにとらわれることはなかった。変わり続ける彼の姿を、ファンはこんなふうに感じていたようだ。

「次は何をしでかす気だろうと考えるとワクワクする」
「聴いた瞬間はパッとしなくても、3年後にその凄さに驚く」

常に先鋭的。しかも、難解なアーティストになってしまうことなく、ポピュラーな存在であり続けたのも、ボウイのすごいところ。例えば、アメリカのTV番組でブラックミュージックの殿堂でもある「ソウル・トレイン」に白人として世界初の出演を果たしているし、イギリスの雑誌「NME」が行った2000年のアンケートでは「20世紀で最も影響力のあるアーティスト」に認定されたことも。

これは、常に世の中の期待をいい意味で裏切り続けてきた彼にしか成し得ない偉業だ。彼の楽曲を直接知らずとも、誰もがそれらを聞いて育ったミュージシャンの音楽を聞いている可能性が高い。

それに、彼が影響を与えてきたのは音楽史だけに留まらない。

英国史上
最もオシャレな人

2013年に「BBC History Magazine」が行ったアンケートでは、48.5%もの票を得てベスト・ドレッサーと認定された。これはこの年に限った結果ではなく、イギリスの歴史上、最もオシャレであると認められた証拠だ。作家性、音楽性に加え、ファッション性の高さも折り紙つき。さらに、その人生もドラマティックなのだ。

ドイツ外務省が
感謝のツイートを投稿

「グッバイ、デヴィッド・ボウイ。あなたはヒーローです。壁を壊す手助けをしてくれてありがとう」

彼が亡くなった次の日の2016年1月11日、ドイツ外務省が彼に向けて感謝の言葉をツイートした。なぜだろう?「Vox」は投稿にリンクされていた動画の意味を紹介している。1976年に東西冷戦下にあるベルリンへと移住した彼が2年後にリリースした作品だ。『Heroes(ヒーローズ)』は、アルバム名であり、同時に楽曲名でもある。

歌には、ベルリンの壁でデートを重ねるカップルが登場する。「The Atlantic」によれば、友人プロデューサーのトニー・ヴィスコンティ氏の話が元だ。歌詞にはこんな一節がある。

「ボクが王様になって、キミが女王様になるんだ。どんなに無茶でも、1日だけならヒーローにだってなれるよ」

それからしばらくして、1987年。冷戦はまだ続いていたが、ボウイはベルリンで行ったコンサートで「壁の向こう側にいるすべての友だちに、祈りを」と口にし、『Heroes』を歌った。

ロナルド・レーガン元大統領が壁の西側を訪問し、ブランデンブルク門でソ連の元指導者ミハイル・ゴルバチョフに「壁を取り壊しなさい」と呼びかけたのはそれから1週間後のこと。そして、壁の崩壊が実現したのはその2年後、1989年11月だった。

最後の作品は
「別れのプレゼント」

彼の最新作『★』(Blackstar)が発表された2日後に彼は息を引き取った。作品は死をテーマとしており、各誌はその音楽性を高く評価していた。

NME」には長きにわたって連れ添った友人プロデューサー、トニー・ヴィスコンティ氏のコメントが掲載されている。彼のFacebookの投稿にはどの媒体も見抜けなかった真実が書かれていた。

「彼はいつもやりたいことをし続けた。そして、今回もベストな方法でやり遂げようとした。彼の死はこれまでの生活と何も変わらない。アートの一部なんだ。ぼくたちに贈る別れのプレゼントして『Blackstar』を録音した。ぼくは、制作に1年はかかるだろうとわかっていた。けど、心の準備なんて全然できてなかったよ。もう、泣いてもいいころだ」

動画はアルバムの中に収録されている楽曲「Lazarus」だ。YouTubeページにはファンから多くのメッセージが寄せられている。

「人生最後に創造性のピークを迎えるなんて、スゴイ」
「これ以上ないパフォーマンスアートだ」

こうして振り返ってみると、彼は最初から最後まで一貫して「アートな人」だったのだ。どれだけ偉大な人を失ったのか、今になって少しだけ分かった気がする。

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