起業すればするほどリスクヘッジになる!?「ポートフォリオアントレプレナー」とは

岩佐 大輝/Hiroki Iwasa

1977年、宮城県山元町出身。大学在学中の2002年にITコンサルティングを主業とする株式会社ズノウを設立。東日本大震災後は特定非営利活動法人GRAおよび農業生産法人GRAを設立。先端施設園芸を軸とした東北の再創造をライフワークとする。日本およびインドで5つの法人のトップを務める。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)がある。

国内外に5つの法人を抱える岩佐大輝氏。同時にそれだけの会社を回すことは不可能ではないかと考えてしまうが、複数の会社を運営することは、逆にプラスの効果を生み出すことができると岩佐氏は語る。自身のことを「ポートフォリオアントレプレナー」と呼ぶ岩佐氏に、経営の考え方を伺った。

事業を増やしまくって
ポートフォリオアトレプレナー
になろう!

ーー岩佐さんは現在、複数の会社を経営しているそうですね。

岩佐 株式会社GRAという農業生産法人を宮城県の山元町で、NPO法人のGRAを東京及び宮城県で運営しています。それに加え、GRAインディアという現地法人がインドにあります。あとは私が24歳の時に創業した株式会社ズノウと、化粧品を日本で製造してタイや香港、台湾、中国で販売している株式会社イチゴの、計5社がメインですね。正確にはもう数社あります。

ーーすごい…今後も運営していく会社の数は、増やしていこうと考えているのでしょうか?

岩佐 思っています。関わる国が増えたり、仕事の範囲が広がったりすれば、十分にあり得る話ですね。

ーーあまり増えてしまうと、手が回らなくなるんじゃないかと考えてしまうのですが、そういうことはないのでしょうか?

岩佐 一言に「経営」と言っても、いろいろなかたちがあると思うんです。たとえば会社を作っては売る、作っては売るという行為を繰り返すアントレプレナーもいますよね。

ーー連続起業家ですね。

岩佐 そうですね。でも、私の場合は自分のことを「ポートフォリオアントレプレナー」と呼んでいます。つまり、自分が経営する会社をポートフォリオ(ここでは“自分の能力や価値を周囲に伝えるための自己作品集”の意)として管理することを重視しているんです。既存事業は売らないし捨てない。

簡単に言うと、今までの経営資産を売るのではなく、新しく興味のある事業にマージさせるんです。資産として蓄積していくんですね。

旧態依然の会社でも
イノベーションは起こせる

ーーどんなメリットがあるんでしょうか?

岩佐 ひとつはリスクを減らすことができます。業界ごとに景気がいい、悪いがあると思うんですけど、それを平準化することができるんです。あとは、新しく立ち上げた会社に対して、前からある会社のリソースを活用することができるし、逆に前からある会社は新しいビジネスに触れることができる。そうすると、イノベーションが起こりやすい環境を維持できるんですよ。

会社って10年や20年経つと、どんなに意識をしても少しずつ保守的な体質になって、よっぽどの会社でないかぎり新しいことに挑戦できなくなってしまうんですよね。なかには社内アントレプレナーのように会社の内側からイノベーションを起こそうとしている会社もありますが、いまいちうまくいっていない。だからそうではなく、新しく会社を外につくってしまうわけです。

ーー岩佐さんはITの企業の代表と、農業に関する企業の代表を務めていますが、デジタルとアナログのように、対極にあるものをうまく組み合わせてしまうということでしょうか?

岩佐 そうですね。「ローテクとハイテク」「国内と海外」「営利と非営利」「地方と都会」など、色んなパターンが考えられますね。それをうまくポートフォリオ化していくことで、「IT」×「農業」のような新しいかたちの事業を生み出すことができるわけです。僕はそれを「マルチパラレルリーダーシップ」と呼んでいます。とにかく自分の中に対局軸を複数持つことが大切なんですよ。

ーー世の中的にも、田舎がいい、都会がいいといった極論よりも、普段は都会で働いて、週末は田舎で生活するような2拠点居住のライフスタイルを提案する人が増えてきていますよね。岩佐さんの考えは、今だからこそ受け入れられやすいのかもしれないなと思いました。

岩佐 働く場所を縛る必要はまったくないと思います。あとはポートフォリオをつくっていくと、ステップ論みたいな考え方をしなくていいんですよね。たとえば、海外で働きたいと思ったら、まず海外で働ける会社に入って、そのあとにTOEICとかTOEFLで何百点か取って、それから海外へ行くって考える人が多いと思うんです。でも、それってひとつでもうまくいかないと次に進めなくなってしまいますよね。ステップを踏むこと自体がリスクになっちゃうわけです。

なので、ジャンプしちゃうんですよさっさと。起業なんて特にそう。どんなに精緻に準備しても成功して10年もつ会社なんて5%程度でしょ。だったら球数を多くしてさっさと失敗すること。同じ戦いでも、経営は戦争と違って、失敗しても命までは取られないですから。

著書「甘酸っぱい経営」でも語っていますが、何もひとつに縛る必要はないんですよ。自分のポジションやいる場所を1つに制約しないで、複数のことを同時に挑戦してみることで、可能性は広げることができると思います。

ウィークタイ(弱い結びつき)
が会社の同質化を防ぐ

ーー岩佐さんは、事業を拡げていくなかで意識していることはありますか?

岩佐 ウィークタイセオリーは意識しています。ウィークタイというのは、“弱い結びつき”という意味なのですが、このウィークタイがイノベーションの源になるというセオリーがあるんですよ。

たとえば農業をものすごくよく知っている人たちがいるとします。でも、彼らのなかからイノベーションが起こることって、まず無いんですよ。もう既存の考え方しかないから。そうではなくて、農業のことをものすごくよく知っている人たちと、ITのことをものすごくよく知っている人たちとの間に接点を持たせる。そうすると、その弱い結びつきのなかからイノベーションが生まれるんです。なので、僕はとにかく多様性を重視して、いかに社内で同質化を避けるかを考えています。

結局のところ同じタイプの人ばかりが集まると、なんとなく日常業務は回るんだけど、新しい発想は出てこなくなる。だから僕は、会社では同じ船に乗っているチームとしての一体感は持ちつつも、それぞれがまったく違う切り口で会話できるような環境づくりを意識しています。しかも、それだけでは足りないので、会社と会社を結びつけるためのポートフォリオアントレプレナー的な働き方もしているわけです。

ーーGRAには株式会社と非営利団体というふたつの側面があるのも、同じ考え方に基づいているのでしょうか?

岩佐 そうですね。非営利団体に所属するメンバーは、それぞれ本業を持っているんですね。彼らはあらゆる業界のプロフェッショナルです。そういう人たちが1000名ぐらい集まって議論すると、次々に新しいものが生まれてくる。メンバーにとっても普段仕事では関わらない業界の人と接点を持てる。エキサイティングですよそれは。そうした多様性を重視する考え方は、事業運営はもちろんですが、自分の生き方や時間の使い方などにも影響していると思います。

リーダーの役割は、
閉塞感を取っ払うことだけ

ーー岩佐さんは昔から多様性を重視していたのですか?

岩佐 いえ、私は24歳で起業したんですが、その当時はITの発展が目覚ましかったこともあり、うまくいっただけだと思っています。でも、どこか閉塞感も感じていて。日々のオペレーションは素晴らしく回っているけれど、おもしろいものを生み出していくパワーは徐々に落ちているなと思ったんです。そのときになぜなんだろうというのをいろいろ考えた結果として、同じ場所で同じようなことを考えている人たちが何年も一緒に働いていると、突飛なアイディアは生まれなくなると気づいたわけです。

ーー現在はどういった生活を送っているんですか?

岩佐 週に2~3日は山元町で仕事をして、あとは東京に2~3日、海外にも2~3日いる場合もあります。だから田舎、海外、都会、ハイテク、ローテクみたいなさまざまなフィールドを行ったり来たりしている。そうすると、少なくとも自分のなかで精神と思考の自由を失わずにいることができると思っています。

ーーそれだけ動き回っていると、凝り固まる暇がないですね。

岩佐 経営者が凝り固まったらもう終わりだと思っていますから。もっとも怖いのは保守性や閉塞感です。だから、精神的に自由であり続けるためにはどうしたらいいのかを、僕だけでなく他のメンバーにも体験してもらいたいなと思っています。リーダーの役割っていうのはそれぐらいしかないんじゃないかな。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。