「道が一本違えば、写真も、人生も変わる」― 伊藤徹也(プロカメラマン)

伊藤 徹也/Tetsuya Ito

プロカメラマン。
1968 年生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。旅、ポートレート、ランドスケープ、建築、インテリアを中心に撮影中。「BRUTUS」、「CASA BRUTUS」、「Number」、「FIGARO JAPON」等の雑誌や広告で活動している。

2014年5/1号『BRUTUS』の表紙も、伊藤徹也氏が撮影。現在、絶賛発売中。

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「てっちゃん、南極行かない?」

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今月2014年5/1号『BRUTUS』の表紙は、伊藤さんが南極で撮影された写真なんですよね。素敵な写真ばかりで旅に出たくなりました。そんな伊藤さんは、普段どんな働き方をしているんですか?

Answer

 「来週一緒にご飯食べない?」みたいな感じで、撮影の依頼が来るんですよ。編集者によって、依頼の仕方もいろいろありますが、僕の場合はそんな風に始まることが多い。例えば、今月2014年5/1号『BRUTUS』の写真も、「てっちゃん、南極行かない?」という連絡がきっかけ(笑)。引き受けると、打ち合わせもなしで、何時にどこね、という約束だけ。僕は、南極がどんな世界か全くわからなかったので、“南極点に上陸して冒険が始まる”くらいの気持ちでかなり厚着をしているのに対して、担当編集者はロケ地を知っているからやたら薄着なんですよ(笑)。表紙にこういう写真を撮ってくれ、という制限するようなリクエストもなかったので、無我夢中で好きな時にシャッターを切っていましたね。

いつもこんな感じなので、仕事の依頼は出来る限り断りません。これまでの僕のカメラマン人生に安定なんてなかったので、断ったら自分じゃない気もしてしまうんですよね。

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人生の転機は、いつも不意にやって来る

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カメラマンとしての経歴を伺わせてください。

Answer

高校で陸上部の部長だったのに、朝練をサボって野球をしていたらじん帯を切った上に、骨折するという重傷を負っちゃったんですよ(笑)。付属大学の芸術学部の推薦に引っかかったんですが、そういう学部は実技があるので、怪我で運動ができない僕に残された道は、芸術学部文芸学科と写真学科のみ。「写真なら誰でもできるんじゃないのかな」と、あの当時は軽い気持ちで写真の方へ。だからそもそもカメラマンになりたいとは思っていなかったし、正直、潰しがきかなかったのでプロになるしかなかったんですよ(笑)。

就職先が決まらず、卒業後、あちこちでアルバイトを掛け持ちしていた僕は、社会人2年目、23歳の時、再び足を怪我して入院。そんな時、「伊藤、お前明日空いてる?」という一本の連絡が。毎日のように暇を持て余していた僕に断る理由などありませんでした! 雑誌の一角にちょこんと掲載される程度の写真だったのに、ド緊張していた僕は大掛かりな機材で行き、ベテランの編集者から一時間の説教。衝撃のデビュー戦でしたね(笑)。それから徐々に仕事は増えましたが、決して売れるようになったわけではなく。次は30歳の時、その時もまた入院して仕事を失っていた僕に、仕事の電話が。不思議なもので、入院すると、人生の転機となる電話がかかってくるんですよね。

 

 

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道が一本違えば、写真も、人生も変わる

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経歴、かなり面白いですね(笑)。いつから今のように、活躍されるようになったんですか?

Answer

実は、ずっとそんな調子なんですよ(笑)。今もあの頃とあまり変わりはありません。今45歳ですが、35歳の時も正月のお節のアルバイトの面接を受けましたから。

海外で働くようになったのも、昔から一緒に仕事をしていた元フィガロ ヴォヤージュの編集者・牛島さんに、「伊藤くんは、旅ものに絶対に向いているから、海外で写真を撮ってきなさい」と口説かれたのが始まり。ちょうど36歳くらいです。海外での撮影仕事はいろいろと細かくて面倒だから、一週間くらいずっと断っていたんですけどね。実際にやってみると、とても勉強になって、楽しくてたまらないんですよ。

僕のカメラマン人生は、有名な先生について、センセーショナルなデビューを果たすといったサクセスストーリーではありません。昔から今まで変わらず、出張の連続。一つの組織で働き続けたこともなく、仕事はいつも不安定。道が一本違うだけで撮れる写真も、経験する人生も全く違う。以前はよくそれで悩むことがあったんですけど、今はもう、こういう運命なんだなと思っています。

 

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あえて調べない。世界は驚きの連続だから

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海外で仕事する上で意識していることはありますか?

Answer

言葉が通じないくらいで、海外だから特別何かをしているというわけではないんです。国内出張だろうが海外出張だろうが、持って行く機材の量も変わりませんし。

でも、いつも意識しているのは、事前にイメージを持たないこと。他人のイメージを押し付けられないこと。僕は、あえて現地の資料は見ません。素晴らしい写真なんて世の中に溢れていますからね。例えば、南極に10回行ったことがある人は、10個分の南極の景色を知っている。そんな人に比べれば、1週間の滞在でベストな風景に出会えることはないじゃないですか。だから僕は1週間いたなりの等身大の景色を撮るようにしています。ただ綺麗な写真を撮ることではなく、誌面のための写真を撮るのが僕の仕事ですから。

 

 

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追い込まれた分だけ……

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カメラマンのどんな部分が好きなんですか?

Answer

課題をこなしていく感覚です。被写体を作品として撮る写真家と違って、僕は、例えば「この雑誌の表紙の写真を撮る」というタスクをもらって、それをどうやって面白く見せるのか考えながら撮るタイプ。だから、写真家というより、カメラマンなんです。「伊藤さんが撮りたいものは?」と、聞かれるといつも困っちゃうんですよ。僕にとっては、ここにあるスプーンを撮ることも、世界の絶景を撮ることも、何も変わりないですから。

もちろん、課題をこなすことは簡単ではありません。例えば、海外での仕事はロケの期間があり、その中で求められる写真を撮らなければならなりません。でも僕は追い込まれるほど燃えて、いい写真が撮れるんです。イギリスで撮ったこの写真(写真下部)。ロケ最終日なのに、なかなかピンと来る特集の見開き写真を撮れていなくって。それで取材先の家に入る前に、僕だけ高台に登ってみたら、少年が走り回っていたんです。「これはもらった!」と、カメラを回しました。不思議と何があっても、最終的には必ず納得のいく写真が撮れるんですよ。

 

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最高の一瞬は、予定調和を壊した先にある

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いい写真ってどんな時に撮れるんですか?

Answer

ふとした時に、撮れることが多いですね。つい先日ハワイで見た天気雨は、本当に感動的でした(写真下部)。同行の編集者は、気がついたら涙が出たという風に、僕の隣でボロボロと涙を流していましたよ。ハワイの公園で突然雨が降り出したんですが、その時の木々の隙間から差し込む逆行気味の木漏れ日と雨の雫がとても芸術的で。この世のものとは思えませんでした。そういう瞬間って、そこに行けば見られるものじゃない。きっとその場所、時、天気、想いなど、いろんな要素が重なって生まれるんですよね。スタジオ撮影よりロケの方が好きなのは、90%の残りの10%に宝探しのような冒険を求めているからかもしれません。

きっと本当に大切なものは、予定調和を壊した先にあると思います。そして、その一瞬を逃さない瞬発力が必要。これって、旅に似ていますよね。旅では、先が見えない上に、予測不可能なことが次々と起こる。その中のある瞬間に、素晴らしい景色や人との出会いが隠れています。カメラマンの場合は、それはその瞬間にシャッターを切り、写真として残すこと。叩き上げでカメラマンになった僕の人生も、いつも不安定な旅そのもの。写真を撮ることも、生きることも、旅に近いのかもしれません。僕はこれからも、その一瞬を掴むために、世界中を駆け巡り続けます。

 

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