意識のベクトルを相手に向けると、 違った世界が見えてくるーライフスタイルプロデューサー村上萌ー

01.
大切なのは、毎日の工夫と積み重ね

久志 新しい働き方や生き方、ライフスタイルを提案しているカリスマでいながら、普段から元気で一生懸命でいる萌ちゃんのことは、前から気になっていたんです。しかも、萌ちゃんほど自己管理を徹底している同世代の起業家はいないと思って、今日の対談をお願いしました。

村上 ありがとうございます。

久志 自分の行動が誰かの明日に影響を与えているっていうのが、萌ちゃんを体現するキーワードだと僕は考えています。本質的な魅力や価値を提供し続けているから、すごく輝いているんだなって。このライフスタイルになるきっかけはあったんですか?

村上 いまって、ネットを通したりして自分を演出するのは簡単ですよね。だけど、主人のサッカー選手っていう仕事を見ていて思うのが、スポーツは嘘をつけないってことなんですよ。真剣勝負で勝ち負けがハッキリあるからこそ、たくさんの人を感動させるんだなって。人の心を動かす主人が素敵だなって尊敬していたのと同時に、私はそれに見合っているのかと考えてしまっていたんです。それが、自分の行動を見つめるきっかけになりました。

久志 自分のライフスタイルをしっかりと確立するのって難しいことですよね。それを身につけて、普段の仕事や生活に反映させているのはスゴい。普通の人は出来なかったり、晩年になって気づくことかなって僕は思っているんです。

村上 学生時代から彼と付き合っていて、どうやったら彼と一緒に移動しながら仕事できるんだろうって考えていました。サッカー選手は転勤や移籍が多いから、パートとかだと引越しでリセットになるじゃないですか。だから、どこへ行ってもその場所をコンテンツにできるような仕事の軸を作りたいと思っていたんです。結局そんなワガママな状態ではどこへも就職できず1人でスタートしました。

久志 自分の出来ることを探していった積み重ねで、今みたいな境地というか、ステージに辿り着いたってことですか?

村上 まずは"やりたいこと"より、"できること"をとにかく探して何でもやりました。PRみたいなことから、ある会社の在庫管理やイベントの雑用みたいなことも。そこから徐々に"やりたいこと"へと変えていきました。今はようやく自分の生活と仕事が少しずつリンクしてきて、主人との暮らしを楽しくしようとすることが仕事に繋がったりもします。たとえば、私が主人と朝ご飯を食べる姿を発信することで、それを見た方が甘酒を買ってくれたりするんですよ。そういうふうに、良い意味でプライベートと仕事を連動させたかったので、それは嬉しいです。

02.
意識のベクトルを相手に向けると、違った世界が見えてくる

久志 今は自分でマネジメントして、発信して、って自分のイメージを作れますよね。それって普段の向き合い方が、そのまま自分に跳ね返ってくるように感じます。

村上 最近は自分が出ちゃうと逆に良くないと思っています。たとえ私が焼き鳥を食べていても、お客さんには週末の朝ご飯を楽しみにしていてもらいたいし、人間だから、半年後には変わってる可能性がある。そこを自分ひとりで勝負しちゃうと、難しいだろうなって思っています。だから最近はライフスタイルプロデューサーとして個人で出ることはなるべく控えて、考えて理想の生活を提案しているNEXTWEEKENDを軸に仕事をしています。そう考えるようになってから、社員も5人になったし、個人がメディアになるよりもよっぽど運営しやすいです。

久志 「テラスでカフェラテ飲んで気持ちよく仕事してる私ってどう?じゃなくて、テラスでカフェラテを気持ちよく飲んでもらう場を提供するのが、私たちである。」って、前に言っていましたよね。ふつう、人って認められたときは浮かれて本質を見失いがちだと思うんです。なのに、萌ちゃんがミスコンでティアラをかけてもらった瞬間、マジでヤバイと思ったって。

村上 ミスコンで1位になった瞬間、この先の人生で何をしていこうって考えたんです。ぱっと見キラキラした肩書きになっちゃって、このままじゃヤバイって。結果が予想外のことになったから、イタイ滑り方とかをしないように、どう利用していこうって腹黒く考えていました。

久志 それをちゃんとプロデュースして提供できるところが、スゴいなって思うんです。表に出て注目されたけど、また次のステップを目指したわけじゃないですか。そのマインドセットが、ミス成蹊みたいに大きなターニングポイントで得た気づきとして反映されているという。その、一連の課題を捉える流れに尊敬します。

村上 きっと、意識が自分に向いているか、相手に向いているかの違いだと思います。自分にベクトルが向いていたら、ティアラを着けたときに「やった!私認められたんだ!」って思っちゃう。それがちゃんと相手や外に向いていれば、結果に対して自分はどうしていけるんだろう? って、半分は客観的に見れているはずです。

NEXTWEEKENDで理想の週末を提案しているからなのか、履歴書や自己紹介で「私も週末に窓際でモンブランを食べるのが好きです。」みたいにアピールしてくれる人はベクトルが自分に向いているんですよ。モンブランを食べることが好きな自分の、その先が重要だって分かっていません。私たちは一般の女性に向けて、豊かなライフスタイル提案しています。けれど、ターゲットが80歳の男性だったとき、その人達に向けて何が提案できるか。本気なら、ターゲットが自分と同じ層じゃなくたって、提案を考える思考のプロセスを持ってなきゃいけないはずなのに。だから社員には、間違えても自分が発信者だとか思わないように、どんな時もなんでそのアイディアが良いと思ったのかはかなり追究していますね。

久志 それを気づいているってすごいですよね。人って快楽性のあるものとかラクなものとか、自己肯定されるのもそうだけど、いわゆる甘いものが好きですから。

村上 自分の好きなことや考えを発信したい人が、多すぎると思うんです。講演をずっとやってしまう人も、伝えられる内容よりも現場に呼ばれた自分に酔っています。そこで自分が啓発していると思うのが危ないって思います。

久志 その中で、なんでそんなにストイックに甘いものを断てるんですか? なかなか普通の人にはできないことですよ。

村上 私は前提として、答えは誰も知らないと思っています。明日の経験次第で考えが変わると思うから、自信もありませんし。現状で何かが評価されたとして、その瞬間自分の中で根拠はあっても、それが正解だなんて誰も言えないはずです。なのに自信を持って答えを言い続ける人は、そこで自分の中の正解を持っちゃったのかなって。

久志 萌ちゃんのとこの社員さんが「1年前2年前と思っていたこと、やってること、言っていたことが全然違う。それをポジティブに発言するのがスゴい印象的で、素敵なんです」って話してくれました。変わり続けることは重要だけど、とても難しいことですよね。それを萌ちゃんはやっている。そのマインドセットが、明日どういう考えや行動になるか分からないという話しに、すごい繋がっていると思います。

03.
おいしい実をつけていれば、自然と道ができてくる

久志 全然想定してなかった質問なんですけど、参考にしている人や、憧れている人はいますか? ロールモデルや、好きな本などもあれば教えて欲しいです。

村上 本は読みますけど、周囲の人に対してすぐ感情移入してしまうので、ひとりの人を追いかけたことはあまりありません。カレーの屋台を見たら、どうしてこの人カレー屋をやっているんだろう? って、その背景を考えたときに、みんな尊敬できるので。

久志 僕も、本は読むけどオタクというわけでもないんです。例えば、しゃがんでいる人がどういう仕草をするか? というところからも学べることはあると思っています。しゃがみ方はこうしたら美しく見える、みたいに。何かを読んだり聞いたりしても、自分にそういう意識がなければ“読んでる俺”とか“言ってる私”とか、それだけになるじゃないですか。

村上 すこし回しモノっぽいんですけど、私が卒業した成蹊大学って、成に蹊(こみち)って書くんです。それが「桃李(とうり)もの言わざれども下(した)自(おのずか)ら蹊(こみち)を成す」という漢語の一部と同じなんですよ。「桃とかスモモは何も言わないけど、自分たちがやってきたところに道は出来る」ちゃんと実を成らしていれば、おのずとそこに人が集まり、道はできていくという意味なんです。

久志 なるほどおもしろいですね。

村上 答えがないことだけが答えだって常に思っているんです。だから、見れば答えが載っているバイブルみたいなモノには違和感があります。

久志 でも、答えがあると思っている人は多い気がします。そういう人を経営者的に変えてくか、最初から組まないか、と言われたらどっちですか?

村上 信念まで変えるのは、私の仕事じゃないなって思います。「モンブラン食べるのが好きです!」って言っていた人も、好きなだけじゃダメだって気づくと思うんですよ。そこで、次はどうしようって行動できる人は次で活かせるはず。「どうしてわかってくれないの!?私がこんなにモンブラン好きなんだから、NEXTWEEKENDで企画だってなんだってできるわ!」っていう人は、たぶん答えを持っているから、もういいやって思っちゃいます。

久志 表現しづらいことを言語化するのが上手ですね。萌ちゃんのなかで、変わる人の区別のつけ方や、変化したときの見分け方の基準はあるんですか?

村上 どうですかね。基本的にはそのまま止まらないで色々な経験をすれば、誰でも変われると思います。知れば知るほど、答えなんてないって気づくはずなので。どんな人も、育った環境や出会った人とか、これまでの経験に基づいて判断していると思うんです。だから、若い人は悩むことが多いと思うけど、決断を誰かに任せず、最終的な判断を自分でするたび、それが自分らしさになってくのかなって思います。常に自分はまだまだ何も知らないと思っていられれば、きっとみんな変われるじゃないでしょうか。

04.
やっていることが結果になる

久志 萌ちゃん本当にすごい。よく言われることですが、これからますますwhyが重要になってきますよね。自分の経験がベースにある信念は、他人には真似できない。それは最高の差別化だし、参入障壁だと思うんです。まさにそれこそが1番重要なことですよね。

村上 whatはみんな考えますよね、ないと始まらない。それこそ今は情報が多いから、きれいなことは覚えたら言えるし、自分で考えたように錯覚する人もいるかもしれません。ただ、その人のオリジナルの考えがないと、結局リアルにならないですから。だからhowやwhyが必要だし、そのストーリーが完成した時に、その具体例がどれだけオリジナルなのかが大切だと思います。

久志 萌ちゃんを目標にしていたり、萌ちゃん風に仕事をしてる若い子を何人か知ってるんです。ただ、提供しているhowの部分は似ているけど、whatやwhyが全然違うなぁと思ったことがあって。クリエイティブプロデューサーであり、ひとりのアーティストとして、高いレベルで取り組んでいる萌ちゃんは本質的な存在だなって感じました。

村上 作り手がわかった瞬間に、その人の考え方とかも分かったりしますから。結局、やっていることが結果になるんですよね。いま私があまり前に出たくないと言っているのは、私の考えを言ったところで関係ないからでもあります。それよりできたものに価値があれば、私がライフスタイルプロデューサーだろうがなんだろうがどうだっていいんです。

久志 萌ちゃんは、そのwhat やwhyみたいなものをプロダクトとか場に込めようとしているんですね。私がいなくても、それは届くよねって。

村上 最終的には、全部伝わるだろうなって思ってはいるんです。だから、サンドイッチが美味しいって言ってくれる人や甘酒を買ってくれている人が、私のことを知らなければ知らないほど嬉しいです。その状況を如何に作っていけるかと考えています。もちろん、出ることで説得力が増したり、親近感を感じてもらえるなら出ますけどね。あくまでも結果ありきです。

05.
キラキラ女子に見えているなら、大成功

 

久志 何度か、前にはあまり出ないようにしているって言っていましたよね。今回のインタビューに対するモチベーションはどうでしたか?

村上 同世代で、自分の考えで活動している人の話をすっごく聞きたかったんです。私はずっと最年少で来たから、22歳で会社とかにしちゃって不安だったんですよ。

久志 僕もずっと最年少で、アメリカから帰ったら周りが30代の中に10代で放り込まれていました。萌ちゃんと話していると、感動もあるけど共感することが多いです。友達になれて単純に嬉しい。

自分の存在価値をアウトプットで作るしかない中で、表層的にやっているようにも見える萌ちゃんと話してビックリしたんですよ。僕が信じていることを僕以上にやっている人だって、尊敬を覚えました。同時に、そういう自分は色眼鏡で見ていたなって。反省です。

村上 パッと見でキラキラに思ってもらえたなら良かったです。うちの社員が「萌さん、私たち毎日バタバタなのに、毎朝優雅にアサイーボール食べてると思われているらしいですよ」って言ってきたことがあって。それは大成功じゃん! って返しました。私たちが焼き鳥を食べていることなんて言わなくていいし、それこそが、ちゃんとNEXTWEEKENDの世界をつくれているということなんだと思います。

久志 スゴイ返しですね。僕はアサイーボールを食べている萌ちゃんより、焼き鳥を食べている萌ちゃんの方が好きです。

村上 別に隠しているわけではなく、実際にお会いした方には、焼き鳥が好きだって言うんです。ただ、他では言う必要もないですし。で?って感じじゃないですか。

久志 たぶん、読者にはそういうのも伝わっていると思うんですよ。萌ちゃんのブログとか本ってすごく素敵な感じだから、デザインとかで来る人もいると思うんですけどね。それに惹かれて萌ちゃん自身のファンになった人には、ただのキラキラ女子じゃないってちゃんと分かっていると思います。

村上 そうですかね。でもまあ実際、焼き鳥とハイボールが大好きで、夜仕事が遅くなった翌朝とかに、ちゃんとキラキラアサイーボウルとかを食べたいなって思ったりするからこそ、企画ができているのかもしれませんね。

久志 今までのイベントじゃないところで、若い人向けにまた話したりしたいですよね。萌ちゃんが作る企画書や、戦略論にも興味があります。企画書を作った過程をお互いプレゼンし合うようなことはやってみたい。

村上 そうですね、ぜひ。お互いに勉強会的なこともやってみたいですね。

久志 色々そういう話もしましょう。友達というより同志みたいな感じで、これから切磋琢磨できたらなって思います。

今日はお忙しいところありがとうございました。

村上 ありがとうございました。

村上 萌/Moe Murakami

"おてんばな野心を、次の週末に叶える"というコンセプトで、メディアNEXTWEEKENDを主宰する、村上萌さん。ウェブサイトと連動した雑誌NEXTWEEKENDの刊行やサンドイッチ屋など、彼女の提案するものはキラキラと輝いて、思わず触れたくなるものばかりだ。TABILABO代表の久志尚太郎が、彼女に仕事や生活の原点を訊ねる。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。