小さな八百屋とケーキ屋が語る。「本当においしいものを届ける」ってどういうこと?

小さな八百屋「ミコト屋」が扱う果物は、1年中手に入るわけではありません。そんな旬の時期にしか出会えない、とびきりおいしい果物を使ってケーキをつくる「MERCI BAKE(メルシーベイク)」の田代翔太さんと、イベント出店でミコト屋とよく顔を合わせるというペルチさんが集まり、「本当においしいものを届けるには?」についての座談会の模様をまとめました。

「プラムの味は、いまでも
忘れられないくらい、
感動的においしかった」

鈴木:ケーキの世界って、見た目がすごく大事で、どうしてもきれいなものを求められるけれど、翔太はキズがついたものも、喜んで使ってくれる。そういうケーキ屋もいるっていうのが、新鮮な出会いでしたね。

田代:きれいなものしか使わないっていうことに、ずっと違和感があって。でも、それしか知らなかったし、それが仕事だと思ってた。甘くなければ、甘くするし、酸っぱければ、その味を丸くする。おいしく加工することがぼくの仕事だと思ってました。だけど、そこにもずっと違和感があって。ミコト屋の果物を使うことに決めたのも「自然栽培じゃなきゃいけない」というつもりはなくて、単純においしいから。鉄平さんに初めてもらったプラムの味は、今でも覚えているくらい、感動的においしかった。だから、お店をオープンする前から、ミコト屋の果物を使いたくて。果物だけじゃなくて、定番のキャロットケーキのニンジンや、こないだは北海道産のトウモロコシも使ってみました。キャラメルと合わせて、キャラメルコーン味のタルトを初めてつくってみたら、これが大好評で。

山代:でも、もうトウモロコシの時期は8月の半ばで終わっちゃったから、もう来シーズンまで入らないんだよなぁ。

田代:届いてからメニューを考えるんですけど、毎日、冒険です。来週何が入るか事前にわからないんで、お客さんにもなかなか言えない(笑)。「先週食べたあのケーキがおいしかったんですけど」と言われても、「すいません、もうシーズンが終わってしまったんで、来年です」みたいな。

山代:そんなケーキ屋、なかなかないよね(笑)。

「イチゴのショートケーキは
旬の時期にしか売らない」

鈴木:だからこのケーキ屋には、一年中、イチゴのショートケーキはないんですよ。でも、ショートケーキといえば、普通のケーキ屋なら売り上げの柱だし、あれば売れるもの。けれど、それをしないで、季節のものをちゃんと取り入れることで、自然のリズムを伝えようとしているのがすごくステキだなって。

田代:イチゴの時期は全部イチゴのケーキでいいと思う。

鈴木:翔太のつくるショートケーキ、食べてみたいよね。

山代:イチゴが出る時だけのね。

田代:専門学校で教えていた時、イチゴの旬を生徒に聞くと、みんな12月って言うんですよ。クリスマスはイチゴ、ハロウィンはカボチャみたいに祭事とセットになっているんです。本当の旬はぜんぜん違うのに。

山代:ぼくらも、旬のはずれた注文が入ることがあって、でも探すも何も、ないものはないから、どうしようもないんですよね。

鈴木:自分たちの都合に合わせようとするんじゃなくて、その季節にあるものでつくろうとすれば、つくれるはずなんですけどね。一年中、供給しようとすると、どうしても農薬を使わないと育てられない。

山代:とにかく無理矢理つくろうとするから、弱いんですよ。いろんな薬で守ってあげないといけない。特に、イチゴとか、見た目が大事な果物はそうなんです。

鈴木:自然のサイクルに合わせてつくられたものを選択して、買ってくれる人たちが増えれば、無理してつくる必要はなくなるし、逆に旬の本当においしいものを楽しめるようになる。「今は旬じゃないんだ」ってことにもっと気がついてほしいんです。自然を見抜くよりも、不自然に気づくというか、そういう感覚がみんなにあれば、「なんかおかしいな」って思うじゃないですか。

ペルチ:ぼくも、個人で活動する前は、カフェという、小さいコミュニティのなかのルールが基準だったから、さっきの話でいくと、ショートケーキをつくるためにパーフェクトを目指して最高のイチゴを集めようとしていました。でも、外に出てフリーで動けるようになっていろんな人と出会って、視野がすごく広くなったおかげで、だんだんと、今ある状態のなかでベストを目指すっていう考え方にシフトしてきたんです。

「誕生日だけじゃなく、
デイリーに通ってもらえる
ケーキ屋でありたい」

田代:旬もそうですけど、ケーキ屋ってたいてい、ショーケースに全部のケーキをそろえないとオープンしないんです。見栄えの問題で。でも、うちの店は9時30分に開けても、ほとんどならんでなくて、朝はスコーンとかヨーグルトとかを出して、焼き上がった順に出していくスタイル。パン屋ではそういうお店も多いけど、ケーキ屋だとあまりなくて。だから、「ガトーショコラは何時からですか?」とお客さんが聞いてくれる。1日中、いろんな時間帯で、目当てのケーキを買いに、いろんな人が来てくれるんですよ。

鈴木:ケーキって、毎日食べるものじゃないし、嗜好品。だからこそ、買う目的があるものだけど、「MERCI BAKE」はデイリーに楽しめるケーキ屋だよね。「今日は何があるかな?」って。

田代:週に2〜3回来る人が結構いますね。パン屋ぐらいのリズムで来てくれる。だから、誕生日の日しか買いに行かない特別なケーキ屋じゃないんです。ほんとは、もっと早く起きれば、たくさんつくれるかもしれないんですけど、自分の働き方として、それはしたくなかった。夜も、今はまだバタバタしてるのでなかなか終わらないんですけど、早く終わらせて飲みに行きたいし、朝も寝たいし、長くお店を続けていきたいから、無理はしたくないなって。

鈴木:無理なく続けられるかたちがそれなんだね。

「のんびりした商店街だから、
無理なく店を続けられる」

田代:やっぱり松陰神社前っていう東京のなかでもローカルな場所と人がそうしてくれてるのかなって。もともと和菓子屋だったところが閉店してしまって、そこで新しくケーキ屋をオープンさせたっていう成り立ちも良かったし。代々木八幡とか渋谷に近い場所でお店をやれば、人はたくさん来てくれるかもしれないけど、忙しいペースで仕事したくなかった。ここはのんびりした商店街だから、近所のおばあちゃんもふらっと来てくれるし、朝からやってるお店はまわりに少ないんですけど、でもやることに意味があるのかなって思ってます。

鈴木:元気な商店街は朝早いから、健康的なリズムでいいよね。ペルチも今、お店を持つか持たないか、いろいろ悩んでるんでしょう?

ペルチ:普段はカフェで働いてます。毎週金曜日だけ、とあるお店に、そのお店をやらないかと言われたんですけど、なぜかワクワクする感じがしなくて。たぶん、自分がつくった空間じゃなかったから、自分でつくってみたいという思いがあるのかなって。

鈴木:ぼくらも、どうしてもお店を持ちたいという願望はなくて。タイミングとか流れとか、必要なものが必要な時に、出てくるだろうって考えてるから。ぼくらはお店を持たずにイベント出店したり、外に出て行くことでペルチにも翔太にも出会えたわけで、それは今のミコト屋の軸になっていて財産。だからペルチも、ぼくら以上に、いろんなところに呼ばれて、おもしろいところにいっぱい行って、そこでやってきたことや人との出会いの集大成として、お店を持つのはいいんじゃないかなって思う。

ペルチ:今はお店を持たないからこそ、やれることもたくさんあって。いろんなところに行って、その土地にあるもので何かを考えたり、いろんな人との出会いもある。ミコト屋と同じように、移動しながら、そこで受けた影響やつながりでやっていく感じが、今は楽しいですね。

旅する八百屋
「3  ミコト屋対談」より抜粋コンテンツ提供元:アノニマ・スタジオ
Photo by : 新井”Lai”政廣(Sun Talk)(プラムとイチゴの写真以外)

青果ミコト屋/鈴木鉄平・山代徹

ともに1979年生まれの2人が立ち上げた小さな八百屋。自然栽培を中心とした旬のおいしいオーガニック野菜を取り扱う。"ミコト屋号”という古いキャンピングカーで、日本全国の生産現場に足を運ぶ。店舗を持たず、定期宅配と移動販売が中心。マルシェやイベントなどにも多数出店している。青果ミコト屋webサイト:http://micotoya.com/

「MERCI BAKE」/田代翔太

フランス・リヨンの菓子店で学び、帰国後フリーランスで講師やケータリングに携わる。2012年、東京・参宮橋「LIFE son」のパティシエとして立ち上げに参加。2014年7月、ケーキ屋「MERCI BAKE」を世田谷・松陰神社前にオープン。

PERCH/ペルチ

東京・千駄ヶ谷のカフェ「Tas Yard」に立つ傍ら、ヴィンテージのキッチン用品の販売や、ドリンクのケータリングなどマルチに活動。「PERCH」とは、知り合いのメキシコ人夫婦が飼っているトイプードルの名で「毛むくじゃら」の意味。

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