絶対にやってはいけない「敬語の間違い6つ」

言葉は変わるものである。しかし、あまりにも安易に、あまりにも速く、あまりにも間違った方向に変わるのを、のんきに眺めているわけにはいかない。それでは、巷にあふれる敬語の誤用「敬誤」から、敬語の行く先を探っていこう。

01.
言葉が足りない?多い?
「退室をいただく」

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よくある敬語の間違いに、尊敬語もどきの謙譲語がある。「ご確認してくださいますようお願い申し上げます」といった言い方だ。「ご確認する」は謙譲語なので目上の人の行為には使えない。「確認してください」の尊敬表現は「ご確認になってください」「ご確認ください」などで、「して」を入れることはできない。

また、誤用と正しいものが入り混じった文もよく見かける。「特急券を購入いただくと特急列車にもご乗車いただけます」「ご理解いただけないお客様には退出いただきます」などだ。「購入いただく」「退出いただく」は「ご」が足りないが、「ご乗車いただく」「ご理解いただく」は正しい。

さらには「委員の先生方に退室をいただきます」という、「ご」が足りないのに余計な「を」が入っている例も見られる。

02.
「ごゆっくりお買い物ください」
も要注意

「ごゆっくりお買い物ください」「早目にお手続きください」

このような表現も見られるようになったが、これも誤用である。「お~ください」の形が作れるのは尊敬語「お~になる」が作れる動詞に限られる。また、「和語の名詞+する」のサ変動詞は「お~ください」にならない。

では「名詞+をする」の場合はどうか。「買い物をする」「手続きをする」などである。これらの尊敬の表現は「お買い物をなさる」「お手続きをなさる」である。

「~ください」を使うと次のようになる。
「ごゆっくりお買い物なさってください」「早目にお手続きをなさってください」

無暗に「お~ください」の形にすればいいというものではないのである。

03.
まるで王様扱い?
「消防署にご連絡を差し上げ…」

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自社の工場で火災を起こした企業の記者会見で、会社側の人が次のような言い方をした。

「消防署にご連絡を差し上げ」「消防署がお見えになり」

消防署をここまで崇める必要はない。敬語を使わなければならないと思い込んでいるようだが、このような使い方は敬語の知識のなさを露呈するものでしかない。この場面では「消防署に連絡し」「消防車が来て」以外の言い方はない。

近所の人に「どちらへ?」と声をかけられて、「水道料金をお支払いするために市役所にお伺いします」と答える人がいるだろうか。公的機関に対して尊敬語や謙譲語を使うことはしない。そのことを知らないのは、敬語を知らないのと同じことである。

04.
丁寧にしたつもりが…
巷にあふれる「になります」

「こちら、天丼になります」「こちらの商品は2500円になります」「500円のお返しになります」

「天丼になります」は「この食材が今から天丼になるわけ?」というジョークのネタにはなるかもしれない。「お返しになります」も「店員が自分の行為を尊敬語『お~になる』で言うの?」という具合だ。

商品1つの値段を述べる際に「になります」は使えないが、合計金額の場合は使うことができる。また「になります」の本来の使い方として、年齢などの数字とともに用いられるものがある。「息子は今年8歳になります」「この町に住んで20年になります」これらの場合は「になります」と「です」はほぼイコールで結ばれる。

「です」より丁寧に聞こえて「でございます」ほどかしこまっていない「になります」が好まれるようになったのは、日本語の丁寧語化の1つの表れと言えるが、残念ながら完全に間違った方向に進んでいる。

05.
もう笑うしかない!?
「こちらになってございます」

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目当ての商品のありかを尋ねると、「こちらでございます」と丁重な言葉が店員から返ってくる。このような場面にも「になります」が登場してきた。

「こちらになります」「こちらになっております」

この誤用に加えて、それ以上に大きな間違いを重ねる人々も出てきた。

「こちらになってございます」

「なっております」の「おります」を「ございます」にするというものである。「おります」と「ございます」は別の意味の言葉である。「おります」は「います」の謙譲語のため、「桜がきれいに咲いてございます」という人はいないだろう。一般の日本人に「います」と「あります」の区別のつかない人はいない。自分が低姿勢であることを相手に見せたいと思っている人が、この表現を使うようである。

06.
子供が車道に!とっさに
「危のうございます」

間違った「敬誤」は論外だが、たとえ正しいものであったとしても、その場にふさわしからぬ敬語が少なくない。車道に飛び出そうとする子供を見かけたら、誰もがとっさに「危ない!」と叫ぶ。そのようなときに、正しい敬語で優雅に「危のうございます」と言う人はいないだろう。いつでもどこでも、誰にでも丁寧な言葉を使えばいいというわけではない。

敬語の使い分けができないのは、敬語を知らないのと同じである。間違っていることに気づかずに過剰に「敬誤」を使用するというのも、敬語を知らないからに他ならない。知らないのに、自分を飾りたいのか、むやみに使いたがる。上辺だけ取り繕っても、すぐにほころびてしまう。謙虚に勉強するしかない。

失礼な敬語 誤用例から学ぶ、正しい使い方
コンテンツ提供元:光文社

野口恵子/Keiko Noguchi

日本語・フランス語教師。青山学院大学文学部フランス文学科卒業後、パリ第八大学に留学。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程単位取得退学。フランス語通訳ガイドを経て1990年より大学非常勤講師になる。著書に『かなり気がかりな日本語』(集英社新書)『バカ丁寧化する日本語』(光文社新書)など。

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