この羊羹は、本当に伝えたいことへの入り口です

「この羊羹は、ただの入り口です」

 全国の特産品をPRする会でこの商品に出会ったものだから、てっきり地元の食材をふんだんに使った…というような説明をされると思っていた。

 

 ところが、このピアノの鍵盤がデザインされた和菓子、「ジャズ羊羹」を作ったジャズとようかんの谷川さんは、本当に伝えたいことはその可愛らしさでも美味しさでもないという。それは旅と音楽の素晴らしさ。そして…。

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思いが伝わるためには
心の余白が必要だと思ったんです

谷川:僕たちは“旅する音楽”という、旅と音楽をセットにしたイベントを主催しているんです。もともとあちこちでアーティストのコンサートを開いたりはしていたんですが、心がパンパンなお客さんが結構いるなぁと思って。

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——心がパンパン?

 

谷川:うん。コンサートの開演直前、なんなら開演後も仕事してたり、全く違うことを考えていたりするんですよ。でも、音や言葉をいっぱい浴びるのには、心がほぐれてそこに隙間がある状態でないと、入ってきませんよね

それで十分楽しめないのはお互いにとって残念だし、勿体ないなぁと思ってて。だから、コンサートの前後に「余白」をとって欲しかったんです。その“余白”を持ってもらうのに一番いい方法を考えたら、そうだ! 旅先で開催するのはどうだろうって。

 

——それでコンサートの開催場所を少し不便な地域にして、イベントを旅とセットにするように。

 

谷川:そう。僕らの音楽イベントを言い訳に、旅に出て来てほしいんです。そしてコンサートの前にその町の周辺を散歩したり、お店に入ってみたりして心の柔軟体操をしておいてほしい。

 

——すると、より表現が入って来るようになるというわけですね。

 

谷川:そうです。それに旅先では、みんな普段いる場所よりも心がほぐれやすいでしょう?

絶対に、自分を受け入れて
くれる音楽がある

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 ——旅する音楽は、どんな方々と活動を?

 

谷川:僕がよく一緒に活動しているアーティストの多くは現状、音楽を積極的に好きな人しか知り得ない存在だったりします。だけど、じゃあ彼らがその人たちしか幸せにできないかというとそんなことはない。

世の中は多数派ばかりではないこと、そのどれかに属していなければならないような気持ちになりがちだけど、そんなことはないということに気がつけるんです。

 

—— 彼らは、少数派を肯定してくれる存在なんですね。

 

谷川:そう。彼らの表現を日常に取り入れた方が幸せになる人が増えるって確信してるから、僕らはその出会いをお手伝いできればと思っているんです。

余白で感じることができる
もう一つのもの

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 ——旅する音楽ではいろいろな土地を回られているようなのですが。

 

谷川:いろんな町に行きます。そして、方言や農産物も気候も違う知らない町に、なぜか知っている風景を見ることがあるんですよ。

 

——あ、わかる。私も最近地方出張に行った時、移動の車中から見た山と川、民家、みたいな、なんでもない風景に懐かしさを感じました。初めて訪れた場所なのに。

 

谷川:そう。それは、普遍のものなんです。緑だったり、山、川、青い空。自分が今まで関わりを持たなかった町にも、そういう昔から自分の故郷にあるのと同じようなものや、親しみやすさや懐かしさを感じるような暮らしがあるんだということを、イベントの参加者にも感じてもらいたいんですよね。

 

——余白の時間で、ですね。

 

谷川:はい。それからね、例えばイベントで金沢に行ったとします。そこでたまたま入った居酒屋さんのおじさんなのか、そこのお母さんなのかわからないんだけど、その人たちと一緒に過ごした楽しい時間があれば、後になってニュースで「金沢」と聞いた時に、反応するようになるんですよね。

これが良いニュースならなんか嬉しいし、辛いニュースなら胸が痛む。ほんのちょっとかもしれないですけど、普段自分がいない町の泣き笑いに心が動く。これが複数の町でできていくと良いなと思ってるんです。

今はこんな時代だから、どこで何があっても不思議じゃない。

 

——自然災害も含めてですね。

 

谷川:例えば人間の体ってのはうまくできていて、一つの場所で血が出ていれば総出で治しに行くでしょう。治ったら、また元に戻って、また違う一方が傷つけばまた総出でそっちを治しに行くんですよ。

日本を一つの体と考えたら、痛みがあるところを他の部分が支えれば良いんじゃないかって思うんですよね。知らない町のことだからその町だけで処理しろよっていうのは、ちょっと悲しいです。そしていずれはこの感覚が、世界中に広がっていってくれれば良いなとも思う。

 

——その町の名を聞いた時、誰かの顔が浮かぶ。素敵なことですね。

イベントで、その土地の
人と人を繋げる意味

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——ところで、地方都市でイベントを開くとなると、正直、見えてくるものっていいことばかりじゃないと思うんですが…。

 

谷川:確かに現地の中心メンバーと話せば話すほど見えてくるものがあります。例えば隣町がやって成功したからうちもやろうといって、その町に合わない開発が行われ駅前の商店街が廃れてしまっているとかね。

 

——よく聞く話ではありますよね。

 

谷川:短期的には成功してるのかもしれないけど、そういうことではないと思うんです。

 

——というと。

 

谷川:僕たちはイベントの主催側として、その町の色んな層の人たちを繋げるようにしています。

例えば金沢でイベントやりますとなった時、中心となって話を持ちかけるメンバーがいますが、やりたいことを話すうちに、もっといろんな得意分野をもった人が必要になって募集をしたりする。するといろんな人が名乗り出てくれる。いろんな年代にも相談し、巻き込みます。すると縦の繋がりもできる。

 

これらの人たちは、イベントがなければ同じ金沢の地で、別々に生きて行くんですよね。でも僕らがきっかけとなってそれぞれの線が交差し、自分たちが得意としない専門性をもった目で町を見られるようになったり、多面的に町を盛り上げていけるようになるんです

 

そうすると、僕らのイベントが終わっても、この人たちの付き合いは続いていって、今度またこのメンバーで別の企画をするんだよ、みたいになるんですよね。これはすごい意味があることで、イベントを単発単発でやっていたら街をぐいっと変えるような影響力は持ち得なかったり、志もいつの間にか途絶えてしまったりするんですが、こうなると力強い。

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——若い世代とも何かしているんですか?

 

谷川:小中学生とワークショップや演奏会などをしたりしています。そこで、町のアイデンティティを残したり、その町にしかない魅力を残したりするのは僕にはできない、君たちにしかできないと言うんです。

 

——イベントを通して種まきをしてくるという感じですね。

 

谷川:そうですね。田舎の小中学生からすると、僕がそうであったように「こんなとこに生まれて…」と思ったり都会に憧れがち。けど実は自分の町にもすごい作家さんがいたり、すごい志で農業に取り組んでいる若手の人がいたり。そういうヒーローがいることにも、もっと気がつくきっかけにもなって欲しいと思って。

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自発的な地方創生の裏にある
地元への負い目

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——ここまでお話を聞きながら、ずっと考えていたことがあるので、伺ってもいいですか。

 

谷川:なんでしょう。

 

——私は、18で地元の福島を離れて以来、福島のために何もして来られなかったっていう負い目みたいなものがあって。地方創生メディアの編集ライターという仕事につくってなった時に、これでやっと地元のために何かできるんじゃないかって思ったんです。でも直接的にやるのってなんか照れ臭さもあって。だからまだ他の地方の応援ばかりなんですが…谷川さんも地元でもない場所の地方創生みたいなことを、強制ではなく自発的にされてますよね。それって…。

 

谷川:さっき話したように、「日本は一つの体」という思いもあります。だけど、僕も地元のためにやってこなかった負い目がある。親だからこそなかなか素直に話しができないように、自分の地元にも素直に貢献できないってやっぱりありますよね。僕が他の地域を助けるのは、そんな地元への罪滅ぼし的なところもあるのかもしれません。同じですね(笑)。

 

——やっぱり(笑)。

そして旅する音楽は次の町へ

谷川:結局旅する音楽が伝えたいことって、「普遍的」なものの大切さ。いろんな旅をして遠回りしながら、普遍を再認識して欲しい。

自分の子供の時にあった川遊びや夏祭りのような習慣や楽しさなどは、自分たちより前の世代からあった大事にしないといけないもの。こういった普遍をそのままに、それぞれの町が魅力的に時代に合わせて成長したり姿を変えて行って欲しいなと思うんです。

 

——で、ジャズ羊羹は、それを知ってもらうためのただの入り口に過ぎないと?

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谷川:あ、羊羹自体にもちゃんとこだわってますよ(笑)。全て職人の手作りだし、味にも妥協はない。そしていつか世界に僕らの思いを伝える日が来た時に、日本人として自信を持ってすすめられるよう和菓子にしたんです。

 

ほんとうに伝えたいことを伝えるってなかなか大変なこと。でもこの羊羹をきっかけにするとそれが実現したりするんですよ。かわいいね、美味しいねって手に取ってくれるでしょ?そのうち、「なんで鍵盤のデザインなの?」と興味を持ってくれる人が出てくる。ここでよくぞ聞いてくれましたと、少しずつ脱線したお話とかをさせてもらうようにしているんです。

 

だから、もっともっとジャズ羊羹を人気者にしたいと思ってるし、その裏にいる作り手として、出番が来た時には、ちゃんと説得力を持って話ができるように、旅する音楽の活動もしっかりしていかないと、と思ってます。

 

——旅する音楽、次はどの町に行くんですか?

 

谷川:それは…ナイショです!

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Licensed material used with permission by 旅する音楽
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