場が絶対に盛り上がる『7つのテクニック』。話題のMC型教師に学ぶコミュニケーション術
会議、プレゼンテーション、研究発表、スピーチ…。そんな人前に出る機会を、苦手に感じている人も多いのではないでしょうか?
東京学芸大学附属世田谷小学校に、沼田晶弘という先生がいます。先生の授業で見られる生徒とのやり取りは、まるでバラエティ番組における司会者と芸人のよう。インタラクティブなコミュニケーションで授業を盛り上げ、子どもたちが楽しく学べる場をつくっています。
そんな先生は、いわばコミュニケーションの、もっと言えば1対多のコミュニケーションのプロフェッショナル。そのコツを伺いました。
01.
本題なんて後回し!
“引きのある話”で場をほぐす
授業はもちろん、学外で講義を行う際にも先生が実践しているのが、開始1〜2分で場をほぐすこと。
どうするのか? 先生がよく使うのが“地元あるあるネタ”です。例えば、実際に大阪での講義ではこんなネタを披露したのだとか。
「大阪空港で飛行機を降りたとき、僕はエスカレーターの左右どちらに立つべきか悩みました。ここは大阪だけど、飛行機に乗ってきたのは東京から来た人たちですから。迷った挙句、僕は結局真ん中に立つことにしました」
最初に本題とは関係ない、引きのある話で場をほぐすことで、お互いにリラックスでき、1対多のコミュニケーションが円滑に進められるのです。
02.
序盤はウケやすい人に
照準を合わせる
いざ本題に入り、発表をしているときに気になるのが、険しい顔をしている人や興味のなさそうな顔をしている人。スピーカーとしては、ついつい気をとられてしまいます。その対処法として序盤は、“ウケやすそうな人”に意識を集中するのが沼田流。
「『ザ・イロモネア(観客席からランダムに選ばれた5人を、芸人が規定のネタで時間内に笑わすことができると賞金が与えられるテレビのお笑い番組)』を見ても、仏頂面をして笑わなかった観客が、芸人のチャレンジ失敗には残念そうな顔をしたりしています。ということは、その人は内心笑っているのに、顔に出せていないだけかもしれません。だから、まずはウケやすそうな人に照準を合わせて場を盛り上げ、笑っていいんだ、発言していいんだという雰囲気を作るんです」
全員にウケる必要はない。そう考えるだけで、ある種のプレッシャーから開放される、というわけです。なるほど〜。
03.
失敗をごまかさず、
ウケるネタに変えてしまう
準備を万全に整えて、きっと喜んでもらえると思って発表しても、まったくウケないこともあります。毎日小学生相手に楽しい授業を展開する沼田先生だって、時には失敗することもあります。いわゆる“スベる”というやつです。
そんなときに沼田先生は、決して取り繕ったりせず、素直に失敗を認めるのが正解だと言います。
「この話、おもしろいと思ったけれど、あんまりみんなにはウケないみたいですね。じゃあ、今日の朝の会の話は終わり!」
こんなふうに素直に敗北を認め、話を切り上げてしまう。すると、反対に子どもたちは驚いて「えーっ!?」っと声をあげ、その状況を逆におもしろがってくれるそう。
失敗を決して誤摩化さずに、失敗したと告白してしまったほうが、結果的には上手くいく。コレ、プレゼンなどビジネスシーンでも使えそうですよね。
04.
アクセントは前へ
意識してハキハキ話す
話し方そのものについても、沼田先生は一家言あります。それはアクセントを前へ持ってくるというもの。
「『要はー、こういうことですよねー』というアクセントが後ろにあるしゃべり方をしてしまうと、ゆったり落ち着いた雰囲気に。実際、森本レオさんや石丸謙二郎さんなど、一部の方たちはそういった話し方が個性となっています。でも、それは彼らのキャラクターがあってこその必殺技。多くのアナウンサーやナレーターは、アクセントが前にある話し方をしているんですよ」
日頃から落語家からアナウンサーまで、話術に長けた人の話し方を研究しているという沼田先生。その研究結果が「アクセントを前に置く」なんだとか。ぜひ試してみたいテクニックです。
05.
その場の全員を巻き込み、
楽しむ!
「同じ時間を過ごすのであれば、なるべくワイワイとみんなを巻き込んでやる。そうすれば有意義で、楽しくて時間はあっという間に過ぎていく」というのが、沼田先生がMC型授業を行う理由の1つ。たしかに、一方的に話を聞く時間は、聞き手にとって苦痛かもしれません。
だから沼田先生の授業はいつだってインタラクティブ(双方向)なコミュニケーションが基本です。
壇上から話すだけでなく、誰かの視点に立ち、時には聞き手になり、自分自身新しい気づきを得ることを楽しんでいるのです。
大人の世界でも同じ。一方的に話すのではなく、その場にいる全員と会話できれば、それがプレゼンでも、スピーチでも、成功とと言えるかもしれません。
06.
相手に与えるべきは、
「何を言っても大丈夫」という安心感
そんな沼田先生がもっとも大切にしているのが、子どもたちとの信頼関係。授業では挙手していない子どもにも発言を求め、それに対して先生がツッコむ場面も。
理想的な風景ですが、それを実現できているのは、子どもたちが「何を言っても大丈夫だ」という安心感を持っているからだそう。
先生は、日頃から先生だけが読む内緒の交換日記で毎日一人一人と交流するなど、密なコミュニケーションを心がけています。さらに、叱る時にも、しっかり理由を聞いて最後は「でも報告してきてえらい!」などと褒めて終えるように心がけているそうです。
普段の行い、と言ってしまえばそれまでですが、やはり話す側と聞く側の信頼関係は非常に大事なんですね。
07.
「なぜ遅刻したのか」なんて
聞く必要はない
さらにもうひとつ、話のテクニックとは別の大切なことを。
沼田先生は、普段から相手に「余計なウソをつかせない」と決めています。寝坊してきた子どもにも「なぜ今日遅刻をしたのか」と問い詰めることはありません。遅刻してきたことは事実なのですから、聞く必要はないという考え方です。
そこで問い詰めてしまうと、相手は「ちょっと調子が悪くて…」と言い訳せざる得なくなります。その子はウソがばれるのではないかと心配して、気軽に発言することができなくなります。
このように個々のコミュニケーションで日頃から信頼関係を結んでいるからこそ、1対多のコミュニケーションも円滑に進むわけです。
これらの考え方やテクニックは、きっと授業以外の場面でも活用できるはずです。 沼田先生に習い「どうせやるなら楽しく」をモットーに!
1975年、東京生まれ。国立大学法人 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。【twitter】@88834【QREATOR AGENT】僕の仕事は、子どもたちを煽ること 「一流を目指せ」って言います。だって、絶対もっとできるもん