インド貧困地域に建つ学校を「アートのチカラ」で支援する、国際的な芸術祭って?

インド東部、最貧困州といわれるビハール州の小さな村にある学校で、2010年国際的な芸術祭「Wall Art Festival(WAF)」が始まった。目的は、現地の人々にアートの魅力を伝え、同時に学校の楽しさを伝えること。

学校の壁をキャンバスに
日本とインド「アート交流」

淺井裕介「祝福のダンス」Wall Art Festival 2011
写真:三村健二

そこに壁があれば。そして土と水と植物があれば。他に何もなくてもアートはできる。それがWAFの出発点。開発途上地域や貧困地域の学校の壁に、日本とインドのアーティストが絵を描き、壁画を作るのがこのフェスティバル最大の見どころだ。

「ビハール州のこの村周辺の人々の識字率は、2011年の調査でようやく50%を超える程度。学校に通いきれず成長していく子どもも多くいます。農作業に駆りだされたり、出稼ぎについて行かねばならなかったり、学校に継続して通えない理由は様々なんです」

これはNPOウォールアートプロジェクトを指揮する、おおくにあきこ代表の言葉。地域の子どもたちがアートに触れることで、自分たちの未来について考えるキッカケになれたら。こうして、ウォールアートフェスティバルがスタートした。

村全体で“表現の場”をつくる
ウォールアートフェスティバル

大小島真木「この場所で空を歌おう」 Earth Art Project 2014
 写真:ウォールアートプロジェクト

WAFは、校舎の壁をキャンバスに、日本とインド両国のアーティストたちがおよそ2週間〜3週間現地に滞在しながら壁画を制作していくイベント。子どもたちは制作中、芸術家たちの筆さばきを目の前で見ることもできる。また、村人も参加してのワークショップが開催され、村全体で表現の場を作ることで、学校へ通えない子どもたちも自然と校舎へと足を運ぶ機会をつくっている。

フェス後、作品を
元の白壁に戻す理由とは?

ところで、製作された壁画は芸術祭の3日間のみ、エキシビジョンとして無料公開された後、アーティストと話し合い、時機をみて元の白い壁に戻してしまうんだそう。その理由をおおくにさんはこう表現する。

「アーティスト渾身の作品ですから、とても悩むけれど、でも敢えて消す。そのことに再生と継続への願いを込めています。ゼロから何かが生み出される熱を帯びた過程を経験することで、子どもたちは“アートのチカラ”を感じ取ることでしょう」

この言葉に裏打ちされるように、フェスティバル後に「絵を描きたいという子どもが増えた」、「歌や踊りでも表現力が増した」といった、目に見える変化が現地の先生たちから報告されているんだそう。

学校へ通う「キッカケ」づくり

大小島真木「とても大きな空の話をしよう」制作から1年後
写真:吉澤健太

学校で開催することの意義は?「制作に打ち込むアーティストたちを目の当たりにして、子どもたちはがんばることの意味を知る」と、おおくにさん。芸術祭で学校に通っていない子どもや親たちに、学校に来てもらうキッカケをつくり、学校が楽しい場所と伝えることもできる、と。
彼女の言葉通り、ビハール州と2013年に開催したインド西部マハラシュトラ州では、開催後、新たに学校に通い始めた生徒がそれぞれ100人増えるなど、しっかり目に見える形で結果となって表れている。

2016年2月には、日印アーティストに加え多くのボランティアの協力を得て、WAF3つ目の拠点マハラシュトラ州の学校にてWAFが開催された。インドの学校の壁をキャンバスにした芸術祭は、継続していくことでアートと学ぶことの魅力を伝えている。以下は、これまで参加したアーティストたちの作品から、その一部をご紹介。

淺井 裕介
(Asai Yusuke)

淺井裕介「誕生日の森〜父の木、母の山〜」Wall Art Festival 2014
写真:吉澤健太

淺井裕介「誕生日の森〜父の木、母の山〜」Wall Art Festival 2014 
 写真:吉澤健太

1981年、東京都生まれ。現地で採集した土と水だけで描いた泥絵は、村人たちが普段の農作業で親しんでいる土の新しい価値を伝えた。

加茂 昂
(Kamo Akira)

加茂昂「まなざしを手向ける」Wall Art Festival 2014
写真:吉澤健太

加茂昂「まなざしを手向ける」Wall Art Festival 2014
写真:吉澤健太

1982年、東京都生まれ。絵画を単体で表現するだけでなく、複数並べたり重ねたり、絵を掛けた壁にじかにペイントするなど、絵画のインスタレーションという独自のスタイルを展開。

遠藤 一郎
(Endo Ichiro)

遠藤一郎「僕の学校に祭りがやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!2」
写真:吉澤健太

遠藤一郎「未来龍ワルリ大空凧2」
写真;吉澤健太

1979年、静岡生まれ。これまで4回のWAFに参加してきたアーティスト。WAF2012では、壁だけでなく象やリキシャに描いたり、みんなの夢を書いた凧を大空に飛ばしたり、村全体を巻き込んでの“お祭り”を演出。

大小島 真木
(Ohkojima Maki)

大小島真木「とても大きな空の話をしよう」Wall Art Festival 2013
写真:高嶋敏展

大小島真木「この場所で空を歌おう」 Earth Art Project 2014
写真:ウォールアートプロジェクト

1987年、東京都生まれ。画家。WAF2013、WAF2014において、ワルリ族の村で制作してきた『失われつつあるワルリの森』をテーマにした三部作を、2016年のWAFにて完成させた。

ラジェーシュ・チャイテャ・バンガード
(Rajesh C.Vangad)

Rajesh C. Vangad 「止まらない、終わらない、何もかも」Wall Art Festival 2014
写真:吉澤健太

Rajesh C. Vangad 「止まらない、終わらない、何もかも」Wall Art Festival 2014
写真:吉澤健太

1975年、インド・マハラシュトラ州生まれ。先住民ワルリ族に伝わる伝統絵画「ワルリ画」の継承者。

松岡 亮
(Matsuoka Ryo)

松岡亮「Play Pray Paint」Wall Art Festival 2016
写真:ウォールアートプロジェクト

松岡亮「Play Pray Paint」Wall Art Festival 2016
写真:ウォールアートプロジェクト

アーティスト。絵画、インスタレーション、壁画、刺繍を制作。素手や素足で絵を生み出す技法は、彼にとっての“遊び”であり“生きること”そのものでもある。

先住民ワルリ族の村を舞台に
「世界森会議」が今秋開催

さて、ウォールアートプロジェクトもうひとつの取り組みが、インド先住民族ワルリ族の伝統的な家を建てる「ノコプロジェクト」だ。これまでの4年間、活動してきたワルリ族の村を舞台に2016年9月1日〜9日まで、「Global Forest Meeting(世界森会議)」の開催が予定されている。詳細は以下の動画から。

Licensed material used with permission by Wall Art Festival
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。