「東京藝大」の学生が「富士フイルム」にプレゼンを実施!その内容と軌跡を追う【IGNT】

学生の情熱に戦略のプロはどう答える?

©NEW STANDARD 2023

「IGNT」からスタートした学生立案によるプロジェクト「Plowing」。

同プロジェクトの実現に不可欠なプロダクト「写ルンです」をリリースする「富士フイルム」から、今回、学生のプレゼンテーションの場に参加してくださったのは、ウェブやコンテンツビジネスにおけるさまざまな戦略/戦術を手がける「富士フイルムイメージングシステムズ株式会社」の藤堂正寛さん。いわば、物作り、そしてマーケティングにおけるプロフェッショナルだ。

そんな藤堂さんの目に「東京藝術大学」の川上さんらが想いを込めて立ち上げたプロジェクト「Plowing」はどう映ったのか?

プレゼンテーション終了後に語られたのは「自分を信じることの大切さ」や「世の中に何かを発信するために重要なこと」など、おそらく多くの人にとって学びの多いものだった。

「伝える」と「伝わる」
似て非なる、大きな違い

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富士フイルム・藤堂正寛さん(以下、藤堂さん):まずは提案いただきありがとうございます。僕らサラリーマンだったり、企業人では気づかない視点とか目線が盛り込まれていて「なるほどなぁ」と......うん、すごく楽しい時間でした。

 

東京藝術大学・川上湖瑚蕗さん(以下、川上さん):いえいえいえ......でも、ありがとうございます。

今回、最初は富士フイルムさんに提案させてもらうことをゴールにしたプロジェクトではなかったんですが、お話させていただくご縁をもらえて感謝しています。

 

藤堂さん:そもそも目指していたゴールっていうのは、同じような考えをもった、同じような感覚をもった人たちが増えたらいいなっていうことなんでしょうか?

 

川上さん:そうですね。そういう輪が広がっていけばいいなって。ちょっとまえだと想像できなかったような。たとえば、今のサウナのブームみたいな。

 

藤堂さん:なるほどね。企業の活動ってマネタイズとして成立させなきゃいけないという前提はありながら、基本は“世の中の人たちをいかに幸せにできるか”だと考えているんです、僕は。

富士フイルムのイメージング事業では、写真や映像を通して世の中の人を笑顔にすることがテーマで。そういう意味では、すごく素敵なプロジェクトだなと思いますよ、「Plowing」。

ただ一方で、企業の協賛や賛同を得るためには、それがいかに対象の企業の活動に“寄与”するかを、世代もバックボーンも興味の対象も自分とは異なる人たちに理解してもらう必要もあると思うんです。

 

川上さん:......ですよね。はい、理解できます。

 

藤堂さん:あ、決して誤解してほしくないんですが、川上さんが「plowing」というプロジェクトへの想いを僕個人に伝えられていないかといったら、決してそんなことありません。

僕は今日、あくまでも一企業人としてここにこさせてもらっています。

その立ち場でいうなら、川上さんのプレゼンテーションは「伝える」ことはできていても「伝わる」まで到達していなかったのかもしれないな、と。

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川上さん:個人に想いを伝える場合と社会や企業に賛同してもらう場合の表現や演出が異なるという理解で合っていますか?

 

藤堂さん:そうですね。さっき「プロジェクトの目的は、同じような感覚をもった人を集めること?」っていう質問をしましたが、感覚的に伝えるだけだと、なかなか企業や社会から合意を得ることはできません。

感覚的なものを構造化して、言語化して、それがいかに社会や世の中や人に寄与するかが伝わってこそ、僕たちのサポートも含めて、次のステップに進める可能性が大きくなるんじゃないかなと思います。

ちなみに、プロジェクトを一緒にやっているメンバーも川上さんの意見や考え、感じ方に対して「だよね」っていう感じなんですか?

 

川上さん:はい、同じ世代の多くの人が共感してくれました。下の学年の子たちも「わかる」って。

さっきの藤堂さんの「言語化」について、このプロジェクトを進めていくなかで、じつはすごく大きな壁だったんです。

興味とか関心を三角形のピラミッドで描いたときに、頂点を「好き」だとすると、そのちょっと下にある「好きかもしれないもの」を言葉にしようとする「なんかいい」とか、今どきな表現をすると「エモい」になっちゃって「でも、これだとちょっと違うんだよなぁ」と思いながら……。

 

藤堂さん:きっと、そこがキモですよね。いろいろな企業や広告会社が、川上さんのいう「なんかいい」を言語化しようとしていますが、今、世の中に発表されている「なんかいい」の定義が正解かといわれたら......どうなんでしょう。

逆にいえば、「Plowing」を通じて得られる「なんかいい」を定義化、言語化できたら、このプロジェクトに限らず、多くの若い人たちの強い共感を得られるサービスやプロダクトをいろいろと生み出せると思います。

「Plowing」がすでに実現していた
「N=1発想」とは?

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藤堂さん:今回「Plowing」のプレゼンテーションを受けて、すごく驚いたことがあります。

 

川上さん:ん?なんでしょうか?

 

藤堂さん:このプロジェクトがマーケティング業界でいうところのN=1という発想に基づいているということです。

 

川上さん:いわゆる「顧客起点」ですね。

 

藤堂さん:その通りです。今のサービスや製品開発、マーケティングなどで非常に有効とされる手法で、特定のひとりのユーザーの考え方や感じ方、意見を徹底的に掘って分析することを指すんですが、この「Plowing」というプロジェクトでは、企画立案者である川上さんの心理......つまりは「インサイト」が高確度で掘られていると感じます。

 

川上さん:ありがとうございます!

私、普段から大学で「人の主体的な行為や文化そのものを作るようなデザインってできないかな?」ということを考えたり学んだりしていて、人の意識や体感を深く掘るくせがついているのかもしれません。

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藤堂さん:なるほど。川上さんがいいと思っていることは、それはそれで間違いのない“絶対”のものなんですよ。ユーザーである自分を深掘っていって、みえてきた仮説や定義づけをどう社会と接遇させるか。

そこで必要になってくるのがロジックと言語化だと思うんです。

ただ、川上さんは学生である今の時点ですでにインサイトを掘ることの重要性に気づいている......それは素直にすごいことだと思いますね。

 

川上さん:プロジェクトを進めている最中は気付いていなかったんですが、この「Plowing」の考え方って、ずっと自分の芯にあったものだったのかなって感じています。

だから、それに気付けて、自分の心理のなかからインサイトを掘り出せたことだけでも十分価値はあったなって思います。

 

藤堂さん:素敵な気付きですね。

いろいろな要素が絡み合って、時代が複雑になっているからこそ、真のインサイトを発掘することってすごく難しくて、だからこそ本当に大切な行為だなって感じます。

「誰のために?」「何のために?」って、本当に見えにくいから、この時代は。

まぁ、これは自分たちも日々苦労していることなんですけどね(笑)。

 

川上さん:自分はまだ学生なので、そこまでシビアな捉え方はできていませんが......おっしゃっていること、本当にそうだと思います。

今日は貴重な機会をいただいてありがとうございました!

 

藤堂さん:こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。