ボルダリング
スポーツを主戦場とするライターの自分と、やはりスポーツを主戦場とする後輩フォトグラファーがアテもなくダラダラと呑み続けるある夜の居酒屋。珍しく仕事の話に花が咲き、話題は「今、観るのが面白いスポーツは?」というテーマに及んだ。
後輩:写真撮ってると、“観るのが面白いスポーツ”に出会うんですよね。僕のオススメはスポーツクライミング。ヤバいっすよあれ。

自分:ボルダリングのこと?

後輩:オリンピック競技として採用されたのは「スポーツクライミング」です。ボルダリングは、スポーツクライミングのなかの1種目なんですよ。

自分:そうなんだ。で、そのスポーツクライミングが“観るスポーツ”として面白いの?

後輩:はい。“やる”も面白いんですけど、“観る”のも面白いんです。特に欧米では、“観戦スポーツ”としての人気がすごいんすよ。あっちの人たちは“盛り上げ方”を知ってるんですよね。

“観戦スポーツ”としてのクライミングがどれだけ面白いとしても、まずは競技そのものを知らなきゃ話にならない。知らない世界のことは、その道の第一人者に聞くのが何よりも早い!

自分:日本で一番すごいのって?

後輩:そういう人はとっくに取り上げられているので、これからブレイクする選手のほうがいいんじゃないですか?

自分:なるほどね。


土肥圭太――。聞けば、今年高校を卒業したばかりの18歳にして、日本代表の一員として8月に八王子で行われる世界選手権に出場するという。本番でもデニムを履いて競技に臨むことから「デニムクライマー」と呼ばれるらしい。さっそく連絡先を仕入れてアポを取り、横浜のとあるカフェで待ち合わせた。
ボルダリング
どこまでもさわやかで、どこまでも礼儀正しく、どこまでも大人な対応をしてくれた彼に、スポーツクライミングの面白さや魅力を聞くこと1時間半……。
とりあえずの結論はこうだ。

スポーツクライマーはめちゃくちゃカッコいい! 今、世界はスポーツクライミングに熱狂している! 俺もボルダリングをやりたい! ボルダリングのことをもっと知りたい!

というわけで、港区にある都内最大級のボルダリングジム「ROCKY品川店」に足を運んでみた。本格的な競技者だけでなくもっと一般的な、日常的にボルダリングを楽しんでいる人たちにも話を聞いてみたい。
ボルダリング
「YOUはどうしてボルダリングを?」
このジムで出会ったスポーツクライマーたちにそう問いかけてみた。この広い世界、この雑然とした東京で、平日の夜にボルダリングを楽しむ人々――。マジで、めちゃくちゃ最高じゃないか。

土肥選手に話を聞いて、スポーツクライミングやボルダリングの何たるかを知った。「ROCKY品川店」でボルダリングを楽しむ流行に敏感な人たちの話を聞いて、このスポーツの可能性を大いに感じた。

あとは、見るだけ。いや、ただ“傍観”するのではなく、この素晴らしいスポーツを堪能するために自ら進んで“観戦”するのだ。

今月、八王子に世界選手権がやってくる。このチャンスを逃すわけにはいかない。
ボルダリング
これまでなかなかフォーカスされることのなかったスポーツクライミングの魅力を存分に伝え、多くの人が“観戦スポーツ”として楽しむきっかけを作りたい。そして、僕たちのヒーロー、土肥圭太を全力で応援したい!

そして、そう力強く言い放ってから数日後のこと——。

ライター細江と、(実は古くからの付き合いである)担当編集Yは、クライミング世界選手権を生観戦するため八王子を目指した。舞台はエスフォルタアリーナ八王子。そこで目撃したのは、人体のポテンシャルを駆使して反り立つ壁をよじ登ろうとするクライマーと、その姿を見守り、時には叫び、時には拳を握りしめて興奮する観戦者たちが生み出す独特の一体感と感動だった。
ボルダリング
大会前半に行われた種目別競技「ボルダリング」の準決勝と決勝を観戦した担当編集Yは、なりふり構わず叫んだ。

「どっひーーーーー!(土肥くん) ガンバーーーーーーーーー!!!!」

大会後半の複合種目「コンバインド」女子決勝を観戦したライター細江は、テニス界で言うフェデラーみたいなヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)さんの完成されたクライミングに圧倒され、やはりテニスで言うところのジョコビッチみたいな日本女子の第一人者、野口啓代さんのクライミングを固唾をのんで見守った。そしてこう叫んだ。

「ふたばちゃんガンバーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

サッカー? 野球? 違うんだよなあ。令和の時代に来る次の“観戦スポーツ”は、「ボルダリング」だ! 土肥くんだ! ふたばちゃんだ!