料理の「習慣やコツ」を自分のものにしていく合理化のすすめ

1976年に刊行され、料理ブームの先駆けとなった書籍『聡明な女は料理がうまい』。この本は、社会が進化しても変わらない女性の生き方について、“料理”と“台所”を通して提案し、ベストセラーとなりました。その中から、「無駄なくテンポよく料理をしていく」ためのヒントを見ていきましょう。

01.
足まめな市場通いで
料理の感性を磨く

料理は市場歩きに始まる。市場は生き物だ。生き物とのあいさつを欠かしては、生きた料理ができない。

温室栽培や冷凍の発達で、なんでもいつでも手にはいるようになってしまったが、それでもやはり市場に四季はめぐり、シュンのものはいかにも意気揚々とみずみずしい笑顔を見せる。そんな表情を目ざとくとらえて食卓に季節を生かす感性を維持するためにも、なるべく足マメな市場通いが望ましい。

私は行く先々で暇を見つけては市場をのぞく。外国へ行ったときも、観光名所をめぐるより、市場の雑踏の中にはいってゆくほうが、その国の最もなまなましい素顔にふれることができる。所変われば品変わるという驚きと、人間ってやはり同じだなあという懐かしさとが交錯する市場歩きぐらいおもしろさを実感させるものはない。

たとえば札幌で用事があれば、帰りがけに二条市場へ寄ってごらんなさい。毛がにや甘えびや北寄貝や生すじこや…ああ、思い出すだけでワクワクする。こういう買い物を覚えたら、空港の売店のみやげ物なんて高くてつまらなくて買えたもんじゃない。京都に行けば錦小路で、はもや加茂なすやたけのこやしば漬けを買う楽しみがあるし、高知の日曜市や飛騨高山の朝市に出会えればまだ根の土も乾かない菜っぱや朝露にぬれた山菜や自家製の素朴なみそやあんころもちをお百姓さんから直接買って帰ることもできる。

02.
時間やエネルギーも
貯蔵する冷凍庫

暇なときにまとめて買い物や料理をしておくことは多い。冷凍庫は食物だけでなく、それにかける人間の時間や労力の貯蔵も引き受けてくれるのだ。余ったお金を銀行に預けるのと同じように、冷凍庫に暇を積み立てておくと、ずいぶんと気持ちに余裕ができる。

カレーやミートソースやビーフシチューのような煮込みものはたっぷりと作ったほうがおいしいから、いつも倍量ぐらい作って、残りを冷凍する。コロッケをはじめフライものはどうせお店を広げたからには10個でも20個でも手間は同じだから、ついてのことにどっさり下ごしらえし、パン粉をつけた状態で不要の分を凍らせておく。揚げる前に解凍の必要はない。

ハンバーグ、ピザ、ギョーザも下ごしらえの段階、つまりあとはフライパンで焼くだけという状態で冷凍する。これも凍ったままで焼ける。玉ねぎを刻んで炒めたり、じゃがいもやにんじんの皮をむいてゆでたりするときも、ついでのことに余分を作って凍らせておくとその何回分かの手間が省けて重宝する。

こういう半製品の貯蔵こそ家庭における冷凍の最大のメリットだと思う。

03.
調味料の使い方を理解する

化粧でいえばだしやスープはファウンデーションで、最後のひとはけのアイシャドーにあたるのは、食卓のソースや香辛料だろう。これはほとんど既製品になってしまったが、サラダのドレッシングまでできあいというのはものぐさにすぎる。私はついにマヨネーズだけは既製品を使うことが多くなったが、それでもちょっとレモンの絞り汁をたらすとか、玉ねぎやパセリを刻み込むとか、カレー粉をまぜてみるとか、少しはパーソナルなアクセントを加える。

調味料の中でいちばん慎重に扱わなければならないのは、いちばん必要な塩である。塩の入れすぎだけはまず救いようがないから、必ず控えめに入れて味をみながら足していく。

白菜、大根、キャベツをはじめだいたいの野菜は、煮たり炒めたりするときに、まず最初にある程度の塩を入れること。野菜に火が通ったあとではじめて塩を入れると、なぜかその野菜のイヤなクセが出る。

油も調味料のうちだが、正確には油と脂に分けて書かれるべきだろう。植物性の材料にはバター、ラード、ヘットなど動物性の脂を使い、動物性の材料には、サラダオイルやごま油など植物性の油を使うのが一応の原則である。

04.
台所仕事=わずらわしいもの
であってはならない

ケチのためのケチと、前向きの節約とは全く別のものなのだ。私が料理の合理化、省力化をすすめるのはもちろん後者のためである。

しかし、世の中には手間ひまをかければかけるほど心がこもるものだと信じる人も多い。しかもそういう人は、昔ながらの方法や手順にやたらと固執して、合理化や省力化には眉をひそめる。そういううるさい先輩のお説教は必ず有益でもあるが、ほどほどに聞いておかないと、料理とはこんなにめんどうなことかと思って、初めから意気沮喪してしまいかねない。といって「熱湯を注いで3分」なんてカップヌードルの説明書きが料理だと思うようになっても困るが、手前みそを言わせていただければ、要領よく心をこめる私あたりの感覚がまあいちばん適度ではないかと思う。

ともかく、台所仕事はわずらわしいものであってはならないのである。のべつまくなしにつきまとうシガラミとしての台所仕事に、創造の喜びはない。シガラミをバッサバッサと断ち切って、自由な人間として、みずからの意欲で積極的に料理を楽しんでこそ、ゆたかな収穫も望めると思う。

だから、台所仕事の合理化、省力化をはばかることはないが、ちょっと便利だということになんでもヤミクモに飛びついていたらキリがないし、かえって上すべりして収拾がつかなくなりやすい。自分の身になじんだ習慣やコツは、なるべく手放さないほうが結局はトクである。

05.
コツをつかんで
料理をすばらしい伴侶に

原則やコツは、いずれもよく洗練された合理的な生活の知恵であり、けっして料理をわずらわしくするものではない。実際に料理の経験を積むうちに、さまざまなコツを実感的に確かめ、そのコツの底流として、いくつかの大原則を把握することができるだろう。密林のように得体が知れなかった料理の世界が、自分の庭のようにすっきりと見渡せるようになり始めるのはこのころである。

料理というのは、フトコロにはいり込んでつかむべきところをつかんでしまえば、しごくすなおでやさしくものわかりのよいかわいい女なのに、ちょっとつきあい方をまちがえるととんでもないじゃじゃ馬でメタメタに振りまわされる。恐れず見くびらず、自然に親しみいつくしんで、このじゃじゃ馬をステキな伴侶にしたいものである。

※書籍からの引用にあたり、一部表記を編集しております。


聡明な女は料理がうまい
コンテンツ提供元:アノニマ・スタジオ

桐島洋子/Yoko Kirishima

文藝春秋に勤務の後、フリーのジャーナリストとして海外各地を放浪。70年に『渚と澪と舵』で作家デビュー。72年『淋しいアメリカ人』で第3回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。以来、メディアの第一線で活躍するかたわら、独身のままかれん、ノエル、ローランドの3姉弟を育て上げる。ベストセラーとなった『聡明な女は料理がうまい』や、女性の自立と成長を促した『女ざかり』シリーズをはじめ、育児論、女性論、旅行記などで人気を集めた。

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