「いとしいきみよ、どうか取り乱さないでくれ」。死を覚悟した探検家が、妻と息子に残した手紙

偉大なる探検家である彼の名前は、ロバート・ファルコン・スコット。イギリス海軍の軍人で、南極探検チームのリーダーを務めました。

ショーン・アッシャーさん編集の『注目すべき125通の手紙 その時代に生きた人々の記憶』から、彼が死を覚悟しながら最愛の妻キャスリーンと2歳の息子に宛てた、美しくも愛に溢れた手紙を紹介しましょう。

極限状態の探検家が残した
家族へのメッセージ

ぼくの未亡人へ 

最愛のきみへ

 

 ぼくたちは非常に苦しい状況にあり、無事生還できるかどうかわからない。短い昼食時間にかろうじて暖を取りつつ、ありうる結末を迎える準備として手紙を書くことにした。最初の手紙はもちろんきみに書く。歩いていても、眠っていても、ほとんどきみのことばかりを考えている。ぼくの身に何かあったとき、これだけは知っておいてほしい。ぼくにとってきみがどれほど大切な存在かということを。きみとの楽しい思い出を胸にぼくは──。


 また、これから書く事実も慰めとしてもらいたい。ぼくは痛みをまったく感じず、健康で元気なままこの世のくびきから解き放たれるはずだ。そうなることはもう目に見えている。食料は底をつきかけ、次の補給所まであと少しという所で動けずにいる。だからぼくが苦しみ抜いたなどと思わないでくれ。

もちろん不安は大いにある。もう何週間も不安につきまとわれているが、体調はきわめて良く、食欲もあるのが救いだ。寒さは厳しく、身を切る程度どころか猛り狂うときもある。それでも暖かい食事で心まで温まり、活力が湧いてくる。これがなかったらとても生きのびられない。


 ここまで書いてから丘をだいぶ下った。かわいそうに、タイタス・オーツは亡くなった。健康をひどく害していたのだ。残されたぼくたちは進み続けている。補給所までたどり着けると思うが、寒さが和らぐ気配はまったくない。あと20マイルの所まで来ているのだが、食料も燃料ももうほとんど残っていない。


 いとしいきみよ、どうか取り乱さないでくれ。きみなら大丈夫だと信じている。息子がきみの慰めとなると思う。きみを助け、一緒にあの子を育てていくのを楽しみにしていたが、きみがいればあの子は安全だと思って満足しよう。息子もきみも国から特別の配慮を受けてしかるべきだと思う。とどのつまり、ぼくたちは模範となるような精神をもって国のために命を捧げたからだ──この点については、この手紙を書き終えてからこのノートの最後に書いておく。いろいろな関係省庁に送ってもらいたい。


 時間があれば息子にも短い手紙を書くつもりだ。大きくなってから読めるように。再婚についてはつまらない感傷にとらわれないでくれ。ふさわしい男性が現れ、きみを生涯にわたって支えるというのなら、もう一度幸せになるべきだ。きみにとってぼくが良き思い出となればと願っているが、もちろん再婚はきみにとって恥じることではけっしてないし、息子は親を誇りに思って生きてくれると思いたい。


 大切なきみよ、この寒さのなかで書くのは大変なんだ。氷点下70度で身を守るものはテントしかない。ぼくが今まできみを愛してきたことは知っているだろう。ぼくが常にきみのことを思っていることも。

ああ、それから、これはどうしても知っておいてくれ。この状況でいちばんつらいのは、もう二度ときみに会えないんじゃないかという思いだ。避けられないものは受け止めるしかない。ぼくがこの一行のリーダーになるべきだときみは強く勧めてくれた。危険な旅になると感じていたのだろうね。ぼくは自分の仕事をきっちりと果たした、そうだろう?ぼくの大事なきみに神のご加護がありますように。あとでまた書けるようなら書いてみる──続きは前の方のページに。



 上記の文章を書いてから補給所まで11マイルとなった。暖かい食事はあと1回、冷たい食べ物はあと2日分、これでなんとか目的地まで辿り着かなければならないが、すさまじい嵐で4日も足止めをくらっている。絶好のチャンスはもう訪れないと思う。

ぼくたちは自殺せず、最後の最後まで補給所をめざし闘い続けることにした。闘いのなかで迎える最期に苦しみはない。だから心配しないでくれ。このノートの奇数ページに何通か手紙を書いた。これを送ってもらえるだろうか?

きみと息子の将来が気にかかっている。息子には、できれば自然史に興味を持たせてほしい。ゲームよりいい。自然史に力を入れている学校もある。きみなら彼を野外でたっぷり遊ばせてやるだろう。神を信じるようにさせてやってくれ。信仰は慰めとなる。ああ、いとしいきみよ、ぼくはあの子の将来にどれほど夢をつむいでいたことだろう。

きみが冷静に受け止められる人なのはわかっている。きみと息子の写真はぼくの胸ポケットに入れている。バクスター夫人からもらった赤い小さなモロッコ革のケースにも1枚入れている。ぼくのナップザックには南極点に立てた英国国旗と、アムンゼンが〔目印として〕使った黒い旗その他が入っている。小さな英国国旗を国王にひとつ、そしてアレクサンドラ王妃にもひとつ差し上げ、残りはきみの哀しいトロフィーとしてくれたまえ!

この旅についてきみに話したかったことが山ほどある。家で快適にのんびり過ごすよりどれだけ良かったか──息子に驚くべき話を聞かせてやれるが、そのために支払う代償のなんと大きなことか──きみのいとしく愛らしい顔をもう見ることができない──年老いた母によくしてやってくれ。母に宛てた短い手紙もこのノートに書いてある。

それからエティーたちと連絡を取り続けてくれ──
ああ、きみはきっと世間に対し気丈にふるまうのだろう──それでも援助は素直に受け取るように。息子のためだ──おとなになったら立派な職を得て、世のために何かをしてほしい。クレメンツ卿に手紙を書く時間がない──ぼくが卿を高く評価し、卿の指示でディスカバリー号の指揮官に任命されたことをけっして悪く思っていないことを伝えてくれ──バクスター夫人とサンドバースト夫人に別れの挨拶を伝えてほしい。二人とも心優しい人だから、これからも付き合いを続けていくといい。それからレジナルド・スミス夫妻にも挨拶を伝えてくれ。

南極に眠った英雄たち

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当時、イギリスはノルウェーと「どちらが先に南極点に到達するか」を競っていました。しかし、1912年1月17日、スコットたちが南極点に到達した時には、すでにノルウェーの探検隊が南極点に到達した後でした。彼らは失意のまま帰路につき、南極大陸から出ることなく、全滅することになります。

スコットの手紙は探検隊の仲間たちの栄誉を称え、妻と息子の将来のことを心配し、願い、夢見ています。この手紙は1912年11月12日にスコットたちの遺体とともに発見され、家族の元に届けられました。

また、スコットたちは先に南極点に到達したノルウェー隊が「自分たちの帰路にもしものことがあった場合に、自分たちの勝利を証明するために南極点に残した手紙」を所持しており、敵であるノルウェー隊の栄誉を守ろうとした英雄的行為として称えられました。 

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