世界中から「最高の授業」を届ける -高原大輔・聡子-

高原大輔・高原聡子/ Daisuke Takahara・Satoko Takahara

「人生一度きり!世界中をこの目で見たい」という衝動を抑えきれず世界40カ国を巡った、高原大輔・聡子。旅をしてはその地を走り、人と出会い、そして日本との架け橋となって若者にリアルを伝え続けた。そんな二人が海を渡った先に手にしたのは何だったのだろうか。

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世界一周の旅をしながら、様々な教育機関で海外と日本の授業をリアルタイムで繋ぐ「世界教室」や世界を走ることをテーマに「地球の走り方」で記事を執筆。

大輔は各国を旅する中で、世界で活躍できる人材育成の必要性を強く抱き、帰国後、その想いを実現するためフィリピン・セブ島にNexSeed(ネクシード)(http://nexseed.net/ )を立ち上げる。

聡子は、東日本大震災で被災した中高生の自立支援活動の一環として、大使館連携の海外ホームステイプログラムをコーディネート。自らの海外経験を活かして中高生の海外体験をサポートしている。また、グローバル教育やキャリア育成の講演、旅本の執筆を行っている。

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001.
もしイスラエルに生まれたら、あなたはどんな人生を歩んでいただろう?

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高原さんご夫婦は仕事を辞め、すべてを捨てて世界一周の旅に出ました。旅先で一番印象に残っていることを聞かせてください。

Answer

(聡子) イスラエルで日本に生まれたことを改めて考えさせられる出来事がありました。 エルサレムで泊めてくれたおじいさんに連れられて、隣町の音楽祭に行った時のこと。

そこで出会った学生に「街を案内するからまた来てよ」と。この学生を信じて大丈夫なのかな、なんて内心疑ったけど、本当に一日中つきっきりで案内してくれました。そうして、一日の終わりに思い切って政治や宗教、将来のこと等々を聞いてみたのです。

すると、「世界ではイスラエルの問題について必要以上に騒がれているけれど、実際に生活している私たちは心の底から国を良くしていきたいと思っている」「10年前はアラブの格好をしている人を見たらテロを警戒してバスを降りていたけれど、今はとても平和に暮らしている」「イスラエルでは女性もある期間は軍隊に入る。その所属によっては、極秘情報を知っている為に2年間は国外に出られない」と。

人は生まれてくる親、国を選べないのに、人生はこんなにも違ってしまうものかと考えさせられました。壁で遮断されたパレスチナの人々、中国軍に睨まれているチベットの人々、カーストから抜け出せずに生きるインドの人々。

世界には自由が制限されている人たちが大勢いる。それに比べて世界最強のパスポートを持っている私たち。そして、「行きたい!やりたい!」と思ったら実現できるこの時代。この時代の日本に生まれたことは既にチャンスを与えられているようなもの。世界を知ることを躊躇する理由はないですよね。

002 .
大人の社会科見学で海外を知る「世界教室」

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なるほど、世界一周したからこそとても説得力がありますね。 そんな出会いがあった高原さんご夫婦の旅には、「世界教室」というプロジェクトがあったんですよね。どんな企画だったんですか?

Answer

(大輔) 旅の途中に、旅先(海外)からSkypeで日本の高校や大学とリアルタイムで繋ぎ、授業を行う「世界教室」というプロジェクトです。リアルな情報を提供するために、現地の方や現地で働く日本人にインタビューをしたり、実際に「世界教室」に登壇してもらいました。

きっかけは、せっかく行くのであれば、私たちのリアルな経験を誰かに伝えて、日本にいる若い人たちにとって何かのきっかけになればと思ったことでした。

日本の人口は右肩下がりで、国内マーケットは縮小する一方。マーケットを更に海外に求め、外国の人たちと肩を並べて生活する時代が近くまで来ている。にも関わらず叫ばれる、若者の海外離れや内向き志向。

このままでは、先人たちが築き上げた素晴らしい日本が崩れてしまう。だから私たちが海外のリアルを伝えることで、少しでも若い人たちが「海外って面白いじゃん」、「俺も海外に行ってみたい」って思ってくれたらいいなと考えました。そして、至ってフツーの私たちがそれを伝えることで、海外をより身近に感じてもらえたらと思いました。

「世界教室」の取材では、普通の旅行では知り得ないようなディープな話をしてくださる方が多かったです。大人の社会科見学っていう感じですね。インドでは授業中に停電したり色んなハプニングもありましたが、授業の数ヶ月後に実際に海外に飛び出した学生さんから連絡をもらった時は本当に嬉しかったです。

003.
若い時にしかできない旅がある

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そもそも仕事を辞めてまで、なぜ世界一周の旅に出ようと思ったのですか?

Answer

(聡子) 介護業界で働いていた時、企画の仕事でお客様(ご入居者様)に「あなたの夢は何ですか?」っていうアンケートを実施したんです。そこで多くの方が仰ったのが「旅」と「(おいしい)食べ物」という言葉。「人生の最終章ってそういうものなんだ」って素直に感じました。

私たちの施設はいわゆる高級レジデンス。地位や名誉もある富裕層が多く、社会的にみたら成功者と言われるような人ばかり。

そんな方々が、若くて体が動けるうちに色んな場所に出かけて、おいしい物を食べて、好きな人と時間を共有するって素晴らしいことだよ。僕たちにはもうできない、と。キャリアもお金もある人たちが出来ないこと。いつかしてみたいと思っていた世界一周の旅、それはまさに今なんだと思い立ちました。

004.
世界を走って、気づき、出会う

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「世界教室」以外にマラソンをしながら旅をしたんですよね。それについて伺わせてください。

Answer

(聡子) 「世界を走る旅」と題して、「旅ラン」(マラソンをしながら観光)をしました。出発前は自分たちもいわゆる皇居ランナーで各国のラン事情にも興味があったし、旅ラン情報を発信するってプロジェクトで「地球の走り方」さんにも応援してもらいました。

新しい街に行くと、まず荷物を降ろして二人で街を走ってみる。短時間で街の雰囲気を把握できるし、そのあとの観光も効率的になるのでオススメです。実際に走ってみると、「ここ、走ってる場合じゃない」と思うような場所も沢山ありました。狂犬病を持っている犬が徘徊していたり、道が凸凹だったり。

けれど、経済が豊かになって行くほど、道が土からアスファルトになり信号が整備され、乗り物もリキシャ→バイク→車になり、さらに公園ができる。あぁ、国のインフラってこういう風に発展していくのかって走りながら肌で感じました。

また、途上国の人たちは健康に気を配るよりもまずは今日食べるもの、目の前の生活に精一杯。けれど、経済力が高まってくると健康志向も比例して、ヘルシーフードもランする人も増えるんだなと。空気の綺麗さにしても、走りながら各国の発展の度合いを実感できました。

マラソンをしながら旅したおかげで、多くの出会いもありましたね。旅先でマラソン大会に出場してランナー同士仲良くなったり、現地のラングループに混ぜてもらったり、スペイン巡礼で走っていたら珍しがって声を掛けてもらったり。旅にテーマがあるとそれについて話せるので、人とつながりやすいですね。

005.
「捨てる」とは、自由を手にすること

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「世界教室」にマラソンと、どちらもリアルな世界を知ることができるすごく魅力的な旅ですね。それでは最後に、旅で得たものはなんでしょうか?

Answer

(大輔)「捨てる力=自由になる力」です。旅に出るために、積み上げてきたキャリアを捨て、ド節約の旅に出ました。今だから出来る経験として野宿もしましたし、公園で体を洗ったり、川で洗濯をしたことも。職務質問されたこともありました(笑)

そんな経験が出来たお陰で、生きるために何が最低限必要なのか、感覚が研ぎ澄まされた気がします。旅に出てから捨てることが怖くなくなりました。「0になっても意外と楽しい。そしてそこからいつでもまたスタートできる」そんな感覚です。

また、旅中はカップルでしたが、二人の絆も深まり、帰国後に結婚も果たしました(笑)今は二人とも外国の方と一緒に働く環境にいて、私はフィリピン セブ島で起業し、英語×ITのスクールを経営しています。聡子もグローバルコーディネーターとして仕事をし、日本とセブのデュアルライフを始めました。旅前は想像すらしていなかった生活ですが、色んなものを手離したことで、仕事も生活も新たなステージがやってきた様に思います。

常識に囚われず、自分の意思で人生を決定し、生きたい道を歩む。そんな人生を過ごせていることはとても幸せです。それは特別なことじゃなくて、チャンスは誰もが秘めている!自由になれるかどうかは心の持ち様とちょっと飛び出す勇気だと思います。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。