ウォニョンに憧れる少女たちの“危険な”ライフスタイル。TikTokの対応が問題視されている
K-popアイドルグループ「IVE」のサブボーカルを務めるチャン・ウォニョン。圧倒的なカリスマ性を持ち、多くのファンを虜にする彼女。
最近ではウォニョンに憧れ、彼女をモチベーションに自分磨きに精を出す現象を「ウォニョニズム(ウォニョン主義)」と呼び、SNS上では一種のムーブメントと化している。現にTikTokでは、「#Wonyoungism」というハッシュタグとともに43万以上の投稿が存在するほど。
一見すると、単なる推し活のような主義。だが、その実、投稿されるコンテンツの中には「トキシックウォニョニズム」なる極端なファン層が垣間見えてくる。
TikTok動画を投稿しているほとんどのユーザーは11歳から16歳の女の子たち。問題は、彼女らの作成するコンテンツに「摂食障害」を肯定する態度が見受けられることだ。
もちろん、すべての投稿がそうだとは限らない。しかし、多くの動画の中には不健康な方法で“完璧”なボディイメージを追求することが美化されていると言えよう。
有害な「ウォニョニズム」を
TikTokは止められない?
Webメディア「Dazed」の取材に応じた未成年のファンはこう語っている。
「ウォニョンのような理想の体型を目指すためのライフスタイルを12歳から始めた。ほら、今の私を見て。ほぼ透明肌で、理想の体型で、健康的なライフスタイルでしょ!」
彼女の発言は、ウォニョンのような完璧な体型を理想とする層がいかに若年層化しているかを物語っている。
この種のコンテンツに孕む危険性は枚挙にいとまがない。が、これらの投稿にはTikTokからの身体的・精神的健康リスクに関する警告がほとんどないことが指摘されている。
TikTokのレギュレーション項目の一つに「摂食障害とボディイメージ」が明記されている。以下、長文だがその内容を記載したい。
私たちは、TikTokが自尊心を尊重し、否定的な社会的比較を助長しない場所になることを望みます。私たちは、摂食障害および危険な減量行為の表示や助長、または減量製品や筋肉増量製品の取引や販売の促進を許容しません。 有害な可能性がある体重管理を表示または助長する、あるいは減量または筋肉増量製品を販売している場合は、コンテンツに年齢制限が適用され(18歳以上)、「おすすめ」フィードの対象外となります。リスク警告なく美容整形に関するコンテンツが表示されている場合、コンテンツは制限され(18歳以上)、地域によっては「おすすめ」フィードの対象外となります。
つまり、同プラットフォームは、未成年をトキシックなコンテンツから保護する規制を設けているということ。
しかしながら、未成年ユーザーのフィードには、過度な減量方法を含んだウォニョニズム動画が流れてしまっているのが現実だ。
TikTokダークサイド
〜コンテンツの混在〜
それもそのはず、#Wonyoungism のようなファンダム空間におけるコンテンツ動画には、ファンカム、ダンス動画、メイクアップチュートリアルが混在しており、時折1日の食生活をシェアする#WhatIEatInADayが挿入されることもある。このようにコンテンツが複雑化してしまうため、規制が難しいことも事実だ。
また、TikTokでは深刻な摂食障害を「健康的なライフスタイルの選択」として捉えられる傾向にあるという。そのため、ユーザーの批判的な思考も不可欠だろう。
これまで紹介してきたように、「トキシックウォニョニズム」は、若い女の子たちが陥る健康被害の一つとも言えなくはないのかもしれない。
「ウォニョンがかわいそう」
憤るファン
多くのファンが有害なイズムを美化し肯定するなか、憤りを感じ始めているファンも存在する。「Dazed」のインタビューに応じたあるファンは、「有害なウォニョン主義」を続ける人たちは、完璧なライフスタイルを追い求めるあまり、ファン全体に悪影響を及ぼすほど行き過ぎていると特徴づける。
さらに他のファンは、トキシックなコミュニティから完全に身を引き、「厳しい意見かもしれないけど、『ウォニョン主義』は私にとってIVEを台無しにしました。TikTokの女の子の多くはダイエットにばかり焦点を当てています。ウォニョンがかわいそう。彼女はこんな目に遭うべきでありません」と。
このファンのいう「ウォニョンがかわいそう」という意見には、実際にウォニョン自身が学生などの若い人に対して、ダイエットをするべきではないとの考えを示してきたことが理由だろう。
ダイエットはしなくていいんです。
特に学生さんは成長期だからこそ
たくさんご飯を食べてください
有害性からの脱却は可能なのか?
ファンの推し活がある種の“有害性”を帯びながら広がってしまったとも言える「ウォニョニズム」。ただ単に、好きなアイドルのコンテンツを消費したいと考えているファンもいるはずだ。また、きっとウォニョン自身も、同ムーブメントにおけるトキシックさを望んではいないだろう。
TikTokが責任を持ってコンテンツを規制することも求められる昨今、ユーザー自身はどう付き合っていくべきなのだろうか。
バージニア工科大学の心理学助教授で、ソーシャルメディア上の摂食障害コンテンツを専門とするヘザー・デイビス博士は、ソーシャルメディアのダイエットコンテンツを額面通りに受け取ることを警告している。
今回の事例における最大の特徴として、理想の体型を追求しているのが11〜16歳と若いことが挙げられる。未成年が批判的にTikTokコンテンツと向き合う能力が備わっているか定かではないため、保護者の介入も一つの方法なのではないだろうか。
過去にもSNSの影響から、モデルやアイドルの体型を目指す女の子たちが摂食障害になってしまうことは繰り返し起こっていたことを思えば、「ウォニョニズム」だって目新しい事象ではないのかもしれない。しかしながら、いつでも起こりうる問題だからこそ、ソーシャルメディアは歯止めをかけるようにするべきだろうし、ユーザー自身のリテラシー向上もより求められるのではないだろうか。