「好きだったり、嫌いだったり(笑)」するけれど、いちばん好きなもの。

どんなものでも、それは、だれかにとっては特別でロマンのあるもの。この世は、小さなものから大きなものまで、だれかの “フェイバリット(=好きなもの)” で溢れているのです。
 
だれにもわかってもらえなくても、「わたしはこれが好き!」と言い切れたらそれはとても素敵なことだし、「わたしも!」とおなじことを思う人があらわれてくれたら、もっと素敵ですよね。もちろん、無理になにかを好きになる必要はないけれど、“好きなもの”を語るだれかの言葉にふれるのは、清々しくて、いいものです。
 
今回は東京・赤羽にあるR&B喫茶店のオーナーに、オール・タイム・フェイバリットなものを5つ挙げていただきました。ひとつずつデイリーで紹介します。 
柴田秀行さん

 東京・赤羽にあるR&B喫茶『CAFE B-3』のマスター 

#FAVORITE 01.
アントニオ猪木(元プロレスラー)

困っちゃいますよね、周りは(笑)

 

■ 猪木(プロレス)を好きになったきっかけって? 

子どものころ、毎週金曜日の夜8時にプロレスをやっていて。『金八先生』をみるか、プロレスをみるか、だったんです。まさに力道山とかが活躍していて、古舘伊知郎が解説をしていたころ。

生放送で、血も流れているし、臨場感もありましたし、人生で一番最初の衝撃はプロレスでした。

タイガーマスクが圧倒的なスピード感で飛んだり跳ねたりして、四次元殺法なんていいますけど、まさにそうで。最後のメインの試合を猪木が飾って、古舘節が炸裂して。僕の人生観はあれで決定づけられましたね。

■ 人生観ですか。

人生観....うーん、まさに猪木とかはこういうの言葉にするの上手いんですけどね(笑)。引退のときの有名な言葉、「迷わず行けよ、行けばわかるさ」とか、自伝のタイトルになっている『苦しみの中から立ちあがれ』(シャピオ刊)とか。

僕は「この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ....」という部分に共鳴して。猪木は、上手いんですよ。言葉の選び方とか、本当に。

■ たしかに猪木は、名言がたくさんありますよね。

プロレスラーって言葉が上手い人か、下手くそな人か、どちらかな気がしていて。猪木は言葉を使うのも、人を巻き込むのも上手い。反対に、ジャイアント馬場は上手いこととかいっさい言わない。馬場が好きな人はそういう実直な感じが好きだと思うけど、猪木は....「常識をつきやぶれ」とか、困っちゃいますよね、周りは(笑)。

それでも、やっぱりパッと出てくる好きなものっていうか、一番影響を受けたのは猪木なんですよね。正確にいうと、好きだったり、嫌いだったり、なんですけど(笑)。 

 

自分のプロレスを
体と言葉で表現できる人

 

■ 嫌いな部分もあっての一番って、何よりすごいと思います(笑) 

やっぱり圧倒的に試合が面白いんですよね。プロレスラーは、まずそれありき。猪木は、相手の技を受けて、最大限に相手のいいところを引き出して、最後にそれ以上の力で自分が勝つんです。どんな相手でも、相手のことを光らせつつ、自分のフィールドで試合をやる。その中で感情表現をしっかりしていて。そういうところでは、やっぱり天才だと思います。

■ 素朴な質問ですが、プロレスにしかないものってなんですか?

感情を表にだして、それを戦いという形で表現するというのは、プロレスならではじゃないかな。今でいうと、棚橋(弘至)とか、大仁田(厚)もそういう戦い方をずっとしていますよね。 

あとは、リアルとファンタジーのバランス。今は、ほとんどエンターテインメント、つまりファンタジーに寄っているんですけど、当時はその境界線が曖昧だったんです。昭和という時代のせいでもあると思うんですけど。

そのグレーゾーンの上で戦う猪木は、やっぱり本当に強くて。幻想は幻想として、ちゃんと体現して、そこに勝敗というリアルも常にあって。そのバランスの中で、自分のプロレスを体と言葉で表現できる人ですよね。

“ぜひ、これを見て!”

『アントニオ猪木 VS 大木金太郎(1974年10月10日 蔵前国技館)の試合』

猪木は、たとえグダグダな試合だとしても何がしか見どころがあるし、名勝負も多いんです。

でも、ひとつ選ぶとしたら、この試合かな。若い頃落ち込んだりしたらよく観ていました(笑)。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。