美味しいのはあたりまえ!毎日通いたい、都内の6つのコーヒーショップ。

東京には、おいしい珈琲があり過ぎる。どこそこにいい店があるよ、あたらしい店ができたよ。こんな会話が日常茶飯事だからこそ、都内の珈琲店について語りはじめたらキリがない。いろいろな豆があって、淹れ方があって、その形態も、流行語のようになってしまったサードウェーブコーヒー店であったり、街に根付いた喫茶店であったり、さまざまだ。では、いま、ほんとうに知りたい珈琲店って、いったいどんなところだろう。

美味しいのはあたりまえ。店内に流れる空気であったり、音であったり。机のぬくもりや、お客さん同士の語らいや、スタッフの笑顔であったり。それらも大切な要素となり、ほんとうの「おいしさ」を作りあげる。東京の渋谷界隈で見つけた名店を紹介する。

01.
PADDLERS COFFEE(幡ヶ谷、代々木上原)

代々木上原駅と幡ヶ谷駅をむすんだ真ん中。この辺りは小学生の通学路になっていて、朝は賑やかな声が行き交い、街のあたたかみを感じさせる。途中、大きな桜の木を見かけたかと思ったら、そこが『PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)』だった。

西原本店がオープンしたのは、桜満開の4月。現在のお店は1年半前に出来上がり、その前は、2年ほど別の場所で営業していた。土日祝日は遠方からやってくる人が多いが、平日の、とくに朝の時間帯は、陽の光が店内いっぱいに降り注ぎ、馴染みの常連(なかには90代のおばあちゃんまで)が集まり、ゆったりとした空気を作っている。こんな場所が近所にあったら、きっと毎朝通ってしまうだろうなあ。そんなことを思わせる空間とでも言おうか。

コーヒーをひと口含んだら、キャンディのように包まれたホットドッグを丁寧に取り出し、がぶりと頬張る。バジル入りのソーセージは、ザワークラウト(キャベツの漬物)との相性が良く、ボリューミーな見た目の割に、さっぱりしていて食べやすい。店主とおしゃべりしているうちに、あっという間になくなってしまったから、ちょっともったいないことをしたと思った。パンは、ホットドッグに合うように、近所のカタネベーカリーと別注で作った。ソーセージも、渋谷のリベルタンと、六本木の祥瑞(いずれも仲良しの飲食店)より都度仕入れている。せっかく東京にいるのだから、店づくりは、自分たちで完結させたくない。いろいろな人が集まり、繋がれる場所にしたい。そういった風通しの良さが、このホットドックに集約されているのだと思った。珈琲は、日替わりでさまざまな種類を楽しめる。店内にセンス良く配置された花々は、週一で設えられる。小さな赤い実をつけたひめりんごがひときわ美しかった。

PADDLERS COFFEE
住所:東京都渋谷区西原2-26-5
電話番号:03-5738-7281
営業時間:7:30〜18:00
休:月曜

02.
THE COFFEESHOP(代官山)

なんてシンプルな店名だろう。お店の上には、湯気(のかたちをしたロゴマーク)が立っている。なんだか「ここに美味しい珈琲があるよ!」と手招きされているような気がしてならない。『THE COFFEESHOP(ザ・コーヒーショップ)』は、6年前に1号店の代官山店が生まれた。次いで、富ヶ谷店。今年の6月には逗子にも生まれた。場所柄、近所に住む人のほか、仕事中、ひと息入れに来るお客さんがたくさん訪れる。

先にご紹介したパドラーズコーヒーに通ずるかもしれないが、いずれも歴とした街の珈琲屋さんなのに、珈琲を淹れてお客さんに差し出すだけに留まらない。自らを「コーヒークレイジー」と呼び、そのWEBサイトを開けば、美味しい珈琲を売るだけでは終わらない、意思の強さのようなものが伝わってくる。たとえば、「THE SHORT ISSUE」を開けば、珈琲豆の保存方法や、ドリップバッグをもっと美味しく淹れるコツなど、珈琲にまつわる豆知識をたくさん知ることが出来る。決して上からの目線ではなく、「こうやったらもっと楽しいよ、そうそう、もっと気軽にね。」そんなふうに寄り添いながらやさしく教えてくれるのだ。

砂糖を用意していないのは、珈琲本来の甘みを感じてもらいたいという想い「No Sugar, But Sweet」を掲げているから。もし、より甘みが欲しかったら、ミルク入りを頼めばいい。ミルクと組み合わせることで、より珈琲の甘みが引き立つと言う。今日は肌寒かったので、店長おすすめのエチオピアの豆でホットを注文した。ていねいな手の動きをぼんやり見つめていると、前よりも少しだけ珈琲に詳しくなったような気がする。

THE COFFEESHOP
住所:東京都渋谷区猿楽町2-3
電話番号:03-6380-5811
営業時間:12:00〜SUNSET CLOSE

03.
ONIBUS COFFEE NAKAMEGURO(中目黒)

中目黒駅から歩いてすぐ。人通りの少ない、静かな路地を入った公園の脇に、一軒家の『ONIBUS COFFEE NAKAMEGURO(オニバスコーヒー)』はある。オープン時から通い詰める友人に、その魅力について尋ねると、近所の縁側に行く感覚で通えるところだと言う。行くと誰かがいるのが分かるから、安心するのだと。

1階はテイクアウト用のカウンターと焙煎スペース、2階はテーブル席。確かに友人の言葉通り、近くを通りかかれば、特に珈琲という気分でなくても、わざわざ足を止めて、ベンチに腰掛けたくなる心地の良い空気が流れる。

外国人カップルが向かいに座った。その隣には、慣れた様子でスタッフに話しかける若い女性。かつて、江戸の日常風景として見られた向う三軒両隣は、こういった雰囲気だったのではないかと思った。ご近所同士、お互いが何かと助け合ってきたような。もともと長屋だった家屋を改造したということにも納得だった。珈琲は、フルーティさを出すために、かなり浅めにローストしている。このやさしい味わいに慣れてしまうと、深煎りが飲めなくなりそうだ。

ONIBUS COFFEE NAKAMEGURO
住所:東京都目黒区上目黒2-14-1
電話番号:03-6412-8683
営業時間:9:00〜18:00
休:不定休

04.
SHOZO COFFEE STORE(表参道)

栃木県の黒磯に足を運んだことはあるだろうか。駅を出てしばらく歩いていくと、通称「SHOZO STREET」が現れる。黒磯の古い商店街を、ひとつひとつ改築し、人が回遊できる通りにしようと思いついたのは、1988年にオープンした珈琲店『1988 CAFE SHOZO』オーナーの菊地省三さん。通りには、珈琲店以外に、アンティーク家具や雑貨を販売する『ROOMS』、公園へ遊びに行きたくなるようなシャツや靴など、着心地の良い普段着を扱う『04STORE』が並ぶ。

以前菊地さんにお会いしたとき、みんながワクワクすることをやりたいんだと、お話してくれたことを思い出した。栃木から離れた東京の表参道という地で、象のマークの看板を見つけたときは、そのワクワクストーリーの続きに触れることが出来るのだと思って、思わず小躍りしてしまった。白い扉を開けて、珈琲を注文し、窓辺のベンチに腰掛ける。このあたりは、休日はとくに、人通りが激しい。しかし、不思議と、ここだけは流れる時間がゆったりしているように感じる。長い山道を歩き続け、ようやく山小屋の小さな灯を見つけたとき、心からホッするような。そんな気持ちにさせられるのだ。

「森のブレンド」は、相変わらずの美味しさで、すっきりさわやかな風味にとても癒される。店内にさりげなく置かれたこの看板を見つけて、自分たちの想いを言葉にして伝えることの大切さを改めて思った。一度でいいから、飲んで味わってもらいたいと願う。ほんとうに、そういう味。ここを訪れば、今の自分の居場所を確認できるような、自分を包み込んでくれるような優しさがある。

SHOZO COFFEE STORE
住所:東京都港区南青山3-13 COMMON246内
営業時間:9:30〜18:00(平日)11:00〜18:00(土・日・祝)
休:臨時休業あり

05.
MOON mica takahashi COFFEE SALON(参宮橋)

参宮橋の駅を出て、商店街をしばらく歩ていった左手。うっかり見過ごしてしまいそうなところに小さな桃色の看板を見つける。『MOON mica takahashi COFFEE SALON(ムーン・コーヒーサロン)』は、いつも朗らかで明るい、太陽のような店主が営むコーヒーサロンである。扉を開け、細い階段を上ると、童話の世界に入り込んだかのように、一気にその空間に引き込まれる。メニューには「月の海の水」、「月の空の光」といった「月」の名がつけられた珈琲が並ぶ。どれもすっきりとして、透明感のある味わいなので、珈琲が苦手な女性にもおすすめしたくなる。

珈琲以外にも、手づくりのお菓子やトーストが用意されている。自慢のヴィクトリアケーキには、たっぷりのクリームとぶどうのソースがていねいに塗られていて、珈琲と一緒にいただくとこの上ない美味しさ。満月のようなプリンが現れる日もある。小腹が空いたときは、ハチミツバタートーストを頼みたい。埼玉県の「cimai」ベーカリーの角食パンで作る特別なメニューだ。

休日は店を開け、出張で珈琲を淹れることも多い。この日は、遠方からわざわざ訪れるお客さんで溢れていた。一杯一杯ていねいに淹れる珈琲は、角のないまあるい味。やわらかいけれど、しっかりとした珈琲の風味を感じるのは、彼女の人柄そのものだろう。雨の日でも、そのあたたかい陽の光を求めて、どこからともなくお客さんが集まり、それぞれに会話を楽しむ。まさにサロン的珈琲店の代名詞とも言える店だろう。お腹が満たされて、ふとミネラルウォーターの入ったグラスをのぞくと、コースターにプリントされた三日月がゆれていた。

MOON mica takahashi COFFEE SALON
住所:東京都渋谷区代々木5-55-5 2F
営業時間:18:30〜23:30(火〜金曜)(L.O.23:00)
     12:00〜19:00(土曜)(L.O.18:30)
休:日曜、月曜

06.
NOZY COFFEE(三宿)

休日になると、多くの人で賑わう世田谷公園。最寄り駅の三軒茶屋や池尻大橋からは少し歩くが、一度この公園を訪れるとファンになる人はとても多い。大木に囲まれているので、季節の移り変わりを感じることができて、都心にいながら自然をゆったりと味わえる。そんな公園の向かいに『NOZY COFFEE』はある。晴れた日は、開け放した入り口から、珈琲のいい香りが漂ってくる。店名は、オーナーである能城(のうじょう)政隆さんの愛称「ノージー」をそのまま使った。

もともと、珈琲豆を販売する専門店としてスタートしたが、いわゆる「専門店」としてしまうと、子ども連れの家族や女性が入りづらい。ファクトリーの雰囲気は残したまま、誰でもくつろげるように、椅子を増やして、リラックスできるスペースを確保した。入り口から地下を見下ろせば、店内を一望でき、スタッフが一杯一杯に責任を持って、ていねいな接客をしているのが分かる。ひと目で分かる誠実さが、とても気持ちがいい。

さまざまな珈琲器具があるなか、豆の魅力を最大限に引き出し、誰でも使いやすく、珈琲を簡単に楽しめる方法として、フレンチプレスを紹介してくれた。豆はいつも8種類用意していて、豆だけを買うために訪れる人も多い。通うたびに、豆の知識が深まっていく。もし、店内が混んでいたら、テイクアウトして、世田谷公園のベンチでひと休みしよう。

NOZY COFFEE
住所:東京都世田谷区下馬2-29-7
電話番号:03-5787-8748
営業時間:10:00〜18:00
休:不定休

たとえば、とくに珈琲という気分でなくても、つい足を運んでしまいたくなるような店はあるかと思う。商店街の店舗を営むおじちゃんがどんな人なのか分かるのと同じように、あの人にまた会いたいなと思えるような店主が営んでいることも、今求める珈琲店の大切な要素だろう。珈琲は、味が美味しいのはもちろんだが、味だけ見てしまうとつまらないように思う。どの店にも共通しているのは、「おいしい」には、さまざまな要素があるということ。その空間の美味しさも含めて、それぞれの店を楽しんでいただければ嬉しく思う。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。