サードウェーブのきっかけは日本の喫茶店にあり【連載:とりあえず、コーヒー】
前回、今の日本のカフェブームは「サードウェーブ」というコーヒーのトレンドの波にがっつり乗った形、ということをお話ししましたが、じつはこのサードウェーブ、日本の昔ながらの喫茶店が大きく影響しているって知ってました?
サードウェーブのカフェと言えば、おしゃれで外国っぽいのに対して、なんだか古い感じの日本の喫茶店。
正反対のような気もしますが、どんな関係があるんでしょうか。
「えらい洒落てるなぁ…」
サードウェーブコーヒーとの
初コンタクト、2009年
シアトルの深煎りコーヒーに思いっきり慣れていた私が、初めてサードウェーブを代表する浅煎りのコーヒーを飲んだのは、2009年のこと。サンフランシスコへ旅行に行ったときに、えらい流行ってるコーヒー屋さんがあるからと現地の友達に連れて行ってもらったのが、そう、いま東京にビュンビュン風を吹かせている「ブルーボトルコーヒー」でした。
ブルーボトルは、シアトルのカフェ特有のゆったりソファに座っておしゃべりする人やパソコンを持ってきて何時間も仕事している人ばかりの光景とは違って、座るところもほとんどなく、テイクアウトのみということにまず衝撃を受けました。
昔、初めてスタバへ行ったときに「ト、トール?トゥゴォ?なんですかそれ?」という斬新な注文方法から受けた衝撃に似ています。さらにはその酸っぱい味にびっくり。でもシンプルかつ洗練されたお店の雰囲気、そして一杯ずつ丁寧にドリップを淹れてくれる様子は、なんだか職人のような感じさえしました。
これが私とブルーボトルの初コンタクト。とにかく「なんかえらい洒落てるなぁ」というのも第一印象でした。
ブルーボトルの原点は
日本の古き良き「喫茶店」
ブルーボトルは、クラリネット奏者で大のコーヒー好きだったジェームス・フリーマンさんが、自分で選んだコーヒー豆を丁寧に自家焙煎して売り出したことから始まりました。これはフリーマンさんが日本へ旅行したときに入った、古き良き喫茶店から影響を受けて始めたスタイルなんだそうです。
少し前置きが長くなってしまいましたが、喫茶店が出て来るのはここです。タバコ臭くて薄暗い店内で、ちょっと頑固そうで寡黙なマスターが真剣な表情でコーヒーを一杯ずつ淹れている、あの日本の喫茶店です。
こだわり抜いた豆選びと、その豆の味を最大限に引き出す器具。大量生産の焙煎ではなく、少量の豆を丁寧に焙煎し、焙煎後すぐにお店に出すというまさにその職人気質。そんな喫茶店文化にフリーマンさんが大きくインスパイアされ、職人気質と現代のテクノロジーとトレンドを融合させてできたのが、ブルーボトルなんですね。
私が初めて行ったブルーボトルで感じた「職人のような感じ」は、ずっと身近にあった日本の古き良き喫茶店から受け継がれたもので「なんかえらい洒落てるなぁ」の部分は、現代のカリフォルニアのスリックなデザインだったんですね。
2つの混じり合いが完璧でした。
故きを温ねて新しきを知った
「サードウェーブ」
サードウェーブはまさに、古いことを研究し新しいことを知るという「温故知新」ということわざがピッタリだと思っています。古きをしっかり理解し勉強したからこそ、そこからまた古さを活かしつつ、新しい別のウェーブが生まれたんじゃないかなと思います。
これはコーヒーに限らず、音楽だって映画だって同じことが言えるかもしれません。ファッションも20年くらいすると一周してトレンドが戻って来ますしね。
でも、ちょっぴり寂しいことも
ブルーボトルのフリーマンさんが感銘を受けた日本の古き良き喫茶店のひとつ、南青山で38年間続いた「大坊珈琲店」が、2013年に惜しまれながら閉店しました。
自家焙煎とネルドリップを貫いた職人珈琲店でした。端くれではありますが、私もコーヒーに携わる者としては行っておかなくてはいけないお店だったんですが、行けずじまいのうちに閉店してしまったので、本当に残念です。
どんどん新しいものが生まれると同時に、古いものは消えていってしまうというのはちょっぴり寂しいことですが、ブルーボトルのようにしっかり受け継いでいってくれる「新しき」があるなら、「故き」もずっと生き続けるのかもしれませんね。