羨望の眼差し

A氏は優秀な男だった。頭脳明晰で人望にすぐれ、容姿も申し分ない。実業家として成功を収めた彼の話には、皆が静かに耳を傾け、賞賛の言葉を送る。

その日も彼は講演会に登壇し、世界情勢について思うところを述べた。会場は彼の一言一言に反応して熱を帯びていき、聴衆の敬意と羨望に溢れた視線に、A氏は満足した。

しかし夕方になると、A氏はどこか、体の不調のようなものを感じた。上手く言い表せないのだが、誰も自分に見向きもしてくれないような、自分に自信が持てないような……。こんな時は家に帰り、ゆっくり休むに限る。

夕方以降の予定をキャンセルし、自分の部屋に戻ったA氏は、机の上に錠剤が置いてあるのを見つけた。

「インターネット上のあなた、体験できます。効果は約半日。この薬を飲めば、脳波に作用する物質によって、あたかも自分が、SNSでの自分になったかのような気分を……」

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原作・文 つちやみ
イラスト マッチロ

この作品はフィクションです。
実在する人物や団体、事件とはいっさい関係ありません。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。