ビートルズ『Hey Jude』に隠されたメッセージ
音楽とは、時を超えて人々の心に深く刻まれるもの。
ザ・ビートルズの名曲『Hey Jude』は7分を超える大作でありながら、リリースから50年以上経つ現在でも、私たちに勇気を与えてくれる。
そんなこの曲だが、ジョン・レノンの息子のひとり、ジュリアン・レノンによれば「陰と陽」の要素があるとのことで……?
今回は『Hey Jude』の裏に隠れた、感動的な物語を紹介しよう。
名曲に隠された「闇と悲しみ」
1962年、ジョンと最初の妻シンシアはリヴァプールで結婚し、その翌年ジュリアンが誕生した。しかし、ジョンがオノ・ヨーコと不倫交際したことが決定打となり、2人は1968年にあえなく離婚。シンシアとジュリアンは取り残されてしまった。
ポール・マッカートニーは、当時5歳でありながら精神的に不安定な状態になっていたジュリアンを慰めるため、移動中の車内で『Hey Jude』を書いたと語っている。
そんなジュリアンは、現在60歳。
ミュージシャンであり写真家でもある彼は、回顧録の制作に取り掛かっているのだそう。先日行われた「Club Random with Bill Maher」のポッドキャストで、回顧録について、そして『Hey Jude』への想いについて口を開いた。
いわく、この曲に対しては「愛と憎しみ」、相反する二つの想いを抱いているのだそう。
まず、彼にとってこの曲は、父が家族を捨てていった痛ましい出来事を呼び起こす「鮮明かつ暗鬱なリマインダー」であり、「闇と悲しみ」を象徴するものだという。たった5歳の彼にとっても、両親の間で何か良くないことが起こっているのは容易に想像がついた。
一方で、ポールからのメッセージとしても受け止めており、これについては感謝しているようだ。
続けてジュリアンは「私は両方の面を理解しているが、多くの人々はこの曲に“陰と陽”の要素があることを知らないんだ」と語る。
悲しみに沈む人々を癒し、勇気づけてきた『Hey Jude』だが、彼だけはこの曲のリマインダーとしての(すなわち“あの出来事”を呼び起こす)機能を理解しており、人知れず苦しんでいたのかもしれない。
ポール・マッカートニーが
『Hey Jude』で本当に伝えたかったこと
実はこの曲、制作当初はポールによって『Hey Jules(ヘイ ジュール)』というタイトルで作られていた。
「Jules」とはもちろん、ジュリアンのニックネーム。
ポールは苦境にある人々に優しく手を差し伸べながら、小さな友人のような存在だったジュリアンに対する「辛くても、頑張って乗り越えるんだよ」というメッセージも隠していたのだ。
その後、彼のニックネームを隠すためにタイトルを変更し、ポールが愛したミュージカル映画『オクラホマ!』に登場するJud(ジャド)という人物にちなんで、ようやく「Hey Jude」が生まれたのだそう。
ジョンと別れたシンシアは、その後数回の再婚を経験し、2015年にこの世を去った。最期まで変わらず彼女のそばに居続けたのは、紛れもなくジュリアンだったという。
ポールの愛を伝える“陽”の側面と、ジョンの不倫を呼び起こす“陰”の側面。ジュリアンにとって『Hey Jude』とは、ビートルズを取り巻く二つの要素を同時に想起させる曲なのだ。
今後も語り継がれるであろうこの名曲は、「聴き手」の捉え方によって全く異なった反応を引き起こすものだった──。
ところで、いま『Hey Jude』聴きたいでしょ……?
個人的に地球最後の日に聴きたい曲は、間違いなくコレ。
現在でも、ポール・マッカートニーは『Hey Jude』を歌うたびにジョン・レノンを想っているそうです。この曲には、私たちの「心の傷」を癒してくれる不思議なパワーがあるはず。