ニュージーランドの海岸で、幻の「ツチクジラ」が発見。史上初の解剖へ……!

ニュージーランドの海岸に打ち上げられた、謎のクジラ。その正体は、世界でたった7頭しか確認されたことのない、幻の「ツチクジラ」だった。

幸運にも今回は調査に適した状態だったため、史上初の解剖が行われたという。未知の生物の謎を解き明かす、貴重な機会となったようだ……。

9つの胃袋が物語る
ツチクジラの進化の道筋

ツチクジラは、その生態のほとんどが謎に包まれている。これまで生きた姿が確認されたことはなく、「南太平洋の深海に生息する、極めて珍しいクジラ」という情報しか存在しない。2012年の調査では、「非常に深く潜る習性をもつ」と報告されているのみだ。

「Smithsonian MAGAZINE」によれば、今回の解剖によって明らかになったのは、ツチクジラが他のクジラとは異なる、特異な消化器官を持つということだ。なんと胃袋は9つに分かれており、そのなかには「イカのくちばしやレンズ、寄生虫などが見つかった」と、ニュージーランド環境保全省の上級海洋科学アドバイザーAnton van Helden氏は語る。

深海という過酷な環境を生き抜くため、独自の進化を遂げた結果なのだろうか?

退化した歯に刻まれた、進化の歴史

さらに興味深いのは、ツチクジラの顎に「痕跡的な歯」が発見されたことだ。同氏によると、歯茎に埋もれた小さな歯は、彼らの進化の歴史を物語っているとのこと。

過去の研究では、他のアカボウクジラ科のクジラは、進化の過程で「主にイカを吸い込んで食べる」方法に移行したため、歯が退化したことが示唆されている。今回の発見は、ツチクジラもまた、同様の進化を遂げてきたことを裏付けるものと言えるだろう。

進化の過程で、ある器官が必要なくなり、退化していく現象は、生物の世界では決して珍しくない。私たち人間の盲腸も、そのひとつだ。

では、私たち人間はこれから先の未来、どのように進化していくのだろう? 遠い未来に思いを馳せながら、今一度、自身の身体についても見つめ直してみてほしい。

科学と文化の調和
マオリ族の教えが導く未来

今回の調査は、科学的な側面だけでなく、文化的な意義も大きい。解剖には、現地のマオリ族の人々も参加し、生物学的知識と伝統的な知識の統合が図られた。マオリ族にとって、クジラは「タオンガ」と呼ばれる、神聖な生き物だ。調査チームの一員であるRachel Wesley氏は「先住民と科学者が協力して、クジラとその行動についてより深く理解することができた」と語っている。

先住民の知識と近代科学の融合は、近年、生物多様性の保全や気候変動対策など、地球規模の課題解決において注目されている。自然と共存してきた先住民の知恵に、私たちはもっと耳を傾ける必要があるのかもしれない。

今回の発見は、ツチクジラという謎多き生物への理解を深めるための、小さな一歩に過ぎない。今後、CTスキャンなどを用いた詳細な分析が進められる予定だ。さらなる発見により、進化の謎が解き明かされる日が待ち遠しい。

Top image: © iStock.com / seawaters
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