深海で「プラを食べる」細菌が進化──自然が見せた意外すぎる適応力

世界中の海洋で、表層から深海に至るまでPETプラスチックを分解する能力をもつ細菌が確認されつつあります。海洋環境に適応したこれらの微生物は、プラスチック汚染がもたらす負荷に対して自然界が示した進化的な応答の一端を明らかにするもの。

本稿では、この発見を報じた「NATURE NEWS」の情報をもとに、その科学的背景と社会的示唆を紹介します。

海洋細菌の驚異的な適応能力:プラスチック分解酵素PETaseの発見

世界中に広がるPETase生産菌

400を超える世界の海水サンプルを対象とした大規模な遺伝子解析により、機能的なPETase酵素の遺伝子情報が約80%のサンプルから検出されました。これは、プラスチック汚染に対する地球規模での微生物の進化的な応答を示しています。

深海における進化の優位性

食料が極めて乏しい深海環境において、PETプラスチックのような合成素材を分解する能力は、これらの微生物にとって明確な生存上の利点となります。この広範な分布は、人類の活動が地球の最小生物の進化の景観と代謝機能を根本的に変化させていることを示唆しています。

自然分解の限界

しかし、これらの細菌がプラスチックを分解する速度は、海洋に流れ込む膨大な量の廃棄物に比べると「取るに足らないほど遅い」と科学者らは指摘。年間数百万トンものプラスチック廃棄物が海に流れ込む現状では、自然分解だけではプラスチック危機を解決するには至りません。

「M5モチーフ」:進化の鍵

PETase酵素のプラスチック分解能力の核心は、PETプラスチックポリマーを分解することを可能にするユニークな構造的特徴である「M5モチーフ」にあります。この自然界で進化した酵素構造は、科学者にとって重要な設計図となるはず。

自然の叡智を活かす:循環型経済への道筋

より強力な酵素のバイオエンジニアリング

M5モチーフの発見は、研究者にとって、実験室でより強力で産業グレードの酵素を設計するための貴重な青写真を提供することでしょう。自然界で進化した構造を研究・最適化することで、プラスチック廃棄物を効率的に分解できる酵素の開発が期待されています。

リサイクリングプロセスの革新

これらの改良された酵素は、リサイクル施設においてプラスチック廃棄物を効率的に分解し、その基本構成要素に戻すことで、プラスチックを無限にリサイクルして新製品に変える真の循環型経済を実現する可能性を秘めているとも言えます。

自然からの学びと人間の責任

深海でのプラスチック食性細菌の自発的な進化は、生命の回復力と適応能力の力強い証です。しかし、自然に汚染除去を依存することは危険な幻想。むしろ、自然の創意工夫から学ぶことで、人類が排出した廃棄物を管理するための、より効果的な未来への道筋が見えてくるのではないでしょうか。

Top Image:AIによる生成
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。