サンゴの墓標:グレートバリアリーフが直面する危機
色とりどりのサンゴ礁が広がり、多様な海洋生物が生息する“海の楽園”グレートバリアリーフ。しかし今、その楽園はかつてない危機に瀕している。気候変動の影響は、想像以上に深刻さを増しているようだ。
記録的な規模で進行するサンゴ礁の死滅
楽園の危機を報じたのは「Travel Noire」。2024年の調査で、グレートバリアリーフにおけるサンゴの死滅が過去最大規模に達したことが明らかになったという。調査を行った「オーストラリア海洋科学研究所」は、最大でサンゴ礁の72%が死滅したと報告している。なかでも北部の一部のエリアでは、硬質サンゴの約33%が死滅し、過去39年間で最大の減少幅を記録したという衝撃的な事実も判明した。
サンゴ礁の死滅の主な原因は、地球温暖化による海水温の上昇。サンゴと共生し、鮮やかな色を与えている褐虫藻が、海水温の上昇によってサンゴから抜け出てしまうらしい。その結果、サンゴは白化し、栄養補給ができずに死滅してしまうという負のループが発生しているようだ。
消滅の危機がもたらすもの
「グレートバリアリーフは回復力のある生態系だが、その回復力にも限界がある」「繰り返し損害を受ければ、回復は難しくなる。私たちは、まさに今、その転換点を迎えている」。WWFオーストラリアの海洋部門責任者Richard Leckの言葉は、決して大げさではないはずだ。
グレートバリアリーフの消滅は、単に美しい景観が失われるだけにとどまらない。サンゴ礁は海の生物多様性を支えるだけでなく、観光資源としても重要な役割を担っている。グレートバリアリーフの経済効果は、年間約64億オーストラリアドル、約6万4000人の雇用を生み出しているという試算もある。サンゴ礁の消失は、環境問題にとどまらず、オーストラリア経済や社会にも大きな影響を与える深刻な問題だ。
環境負荷の低い旅行を選択する時代に
気候変動の影響をもっとも大きく受ける自然の一つであるグレートバリアリーフ。その危機的状況は、私たち旅行者の責任についても考えさせてくれる。旅行は、環境問題とは無関係だろうか?
美しい景色を楽しみ、その土地の文化に触れる旅行は、かけがえのない体験を与えてくれる。しかし、その裏側で環境負荷をかけていることも事実。大量の二酸化炭素を排出する飛行機の利用、観光地のゴミ問題、過剰な観光開発による自然破壊……。
昨今、環境への負荷を最小限に抑え、その土地の自然や文化を守りながら旅をする「エコツーリズム」や「サステイナブルツーリズム」が旅行者のなかで新たな選択肢となりつつある。楽園の珊瑚礁を後世にのこすアクションは、我々の選択のなかにもあるのかもしれない。