地球を“再生”する時代へ「 ネイチャーポジティブ」で変わるビジネスと社会

気候変動、地球温暖化、プラスチックごみ問題……ニュースで目にするたびに、「将来、地球はどうなってしまうんだろう」と不安になることはありませんか? 私たちZ世代は、まさに地球の未来を左右する重要な局面に立たされています。「環境にいいことをしましょう」という言葉だけでは、もう不十分。これからは、私たち自身が積極的にアクションを起こし、持続可能な社会を創造していく必要があるのです。

自然の損失にストップをかけ、プラスに転じるためのアクション、それが「ネイチャーポジティブ」という考え方。

ネイチャーポジティブとは?
ビジネスが自然を守る時代へ

2030年までに、生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せることを目指す、世界的な目標。そこにネイチャーポジティブ(自然再興)はあります。従来の環境保護のように、ただ自然への影響を減らすのではなく、自然を再生し、より豊かにするための積極的なアプローチとも言えます。

なぜ今、ネイチャーポジティブが注目されているのでしょうか?それは、地球環境の悪化が、私たちの暮らしや経済活動に、ダイレクトに影響を与え始めているから。「生物多様性の損失は、食料安全保障、水資源、人間の健康、そして気候に深刻な影響を与える」と「国連環境計画(UNEP)」は警告を発しています。企業にとっても、原材料調達のリスクや、ブランドイメージの低下など、無視できない課題として浮上しているのです。

企業は経済活動を通じて資源を消費し、環境に負荷を与えている存在。だからこそ、積極的にネイチャーポジティブに取り組む責任があります。環境回復に貢献することで、地球を守るだけでなく、ひいては企業自身にも大きなメリットが生まれます。

環境負荷の低い持続可能なビジネスモデルは、長期的に見てコスト削減に繋がり、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性も秘めています。また、環境問題に積極的に取り組む姿勢は、企業イメージの向上に繋がり、Z世代をはじめとする環境意識の高い消費者から支持を集めることも。

さらに、優秀な人材獲得にも有利に働くでしょう。近年、就職活動を行う学生の間では、企業の環境への取り組みを重視する傾向が強まっています。ネイチャーポジティブを推進する企業は、優秀な人材を獲得し、企業競争力を高めるうえで、重要なアドバンテージを得ることにもつながるかもしれません。

Z世代が変える、ビジネスと社会のあり方

いま、世界では様々な環境問題が深刻化しており、生物多様性の損失は、かつてないスピードで進行しています。

世界132ヵ国の政府が参加する政府間組織「IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)」によると、すでに100万種もの動植物が絶滅の危機に瀕しているという報告もあり、私たち人類の未来を脅かす深刻な問題となっています。

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、17の目標の一つに「陸の豊かさも守ろう」が掲げられました。世界全体で、生物多様性の損失を食い止め、自然と共生する社会を実現するために、具体的な行動が求められているのです。

そんななか、Z世代を中心に環境問題への意識が高まり、持続可能な社会の実現に向けて、積極的に行動を起こす人々が増えています。デジタルネイティブ世代である私たちは、情報発信力や消費行動を通して、社会に影響を与える力を持っています。環境問題を「自分ゴト」として捉え、未来のために、何ができるのかを考え、行動することが重要です。

しかし、日本は、欧米諸国と比較して、企業のネイチャーポジティブへの取り組みが遅れていると言われています。環境省が発行した「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」では、企業がネイチャーポジティブ経営を実践するためのプロセスや具体的な取り組み事例などが紹介されていますが、まだ十分に浸透しているとは言えません。

日本企業の中には、「コストがかかる」「企業努力だけでは限界がある」といった理由で、環境問題への対応に消極的な企業も少なくありません。しかし、世界では、環境問題への対応が企業の競争力を左右する時代になりつつあります。日本企業も、積極的に行動を起こさなければ、世界市場での競争に取り残されてしまう可能性があるでしょう。

ネイチャーポジティブな挑戦
Z世代を刺激する最先端事例

世界では、すでに多くの企業がネイチャーポジティブへの取り組みを始めており、革新的な技術やアイデアで、地球環境の回復に貢献しています。Z世代の心を掴む、世界の最先端事例を見ていきましょう。

海洋プラスチック問題に挑む
「The Ocean Cleanup」の挑戦

広大な海に漂うプラスチックごみ。その回収は、容易ではありません。しかし、オランダのNGO団体「The Ocean Cleanup(オーシャン・クリーンアップ)」は、独自のテクノロジーを駆使し、世界中の海からプラスチックごみを回収するという壮大なプロジェクトに挑戦しています。

彼らが開発したシステムは、太陽光と海流を利用してプラスチックごみを効率的に回収できる画期的なもの。すでに太平洋ゴミベルトと呼ばれる、海洋プラスチックごみが大量に集積する海域で、実証実験が行われており、年間数千トンものプラスチックごみを回収できる見込みです。

オーシャン・クリーンアップの創設者ボイヤン・スラット氏は、かつて「TIME」誌の取材に対しこう語りました。「60年間、状況は悪化するばかりでした。今、私たちは流れを変えられると信じています」。スラット氏の活動は世界中から注目を集めており、多くの企業や団体が彼らの活動に賛同し、支援しています。

食の未来を革新する
「Impossible Foods」の戦略

食肉生産による環境負荷は、大きな問題となっています。アメリカのフードテック企業「Impossible Foods」は、植物由来の原料を用いて、本物の肉に近い味や食感を実現した代替肉を開発し、この課題に挑んでいます。

同社の報告によると代替肉は、牛肉と比べて、温室効果ガスの排出量を最大89%削減、土地利用を最大96%削減、水消費量を最大87%削減できるとされています。環境負荷を大幅に削減できるだけでなく、動物福祉にも貢献できる持続可能な食料として注目される代替肉市場を牽引してきたのは、まさしくInpossible Foodsに他なりません。

すでに多くのレストランやスーパーマーケットで販売され、世界中の消費者に受け入れられ始めています。

環境保護をビジネスの中心に据えた
「Patagonia」の姿勢

ご存知、アウトドアブランド「Patagonia(パタゴニア)」は、創業以来、環境保護活動を積極的に行ってきたことで知られています。同社は2018年より、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」という理念を掲げ、環境に配慮した取り組みをビジネスの中心に据えています。

パタゴニアは、売上の一部を環境団体に寄付する「1% for the Planet」に参加し、リサイクル素材の使用、製品の長寿命化、修理サービスの提供など、様々な取り組みを実施。また、環境問題に関する情報発信や、消費者に環境保護活動への参加を呼びかけるなど、積極的な活動を行なっていることでも知られています。

パタゴニアの活動は、多くの消費者に支持されており、彼らの商品は、高品質で環境にも優しいというイメージを獲得。同社の成功は、企業が環境保護をビジネスの中心に据えることで、経済的な成功と社会的な貢献を両立できることを示す好例と言えるでしょう。

日本発、Z世代を牽引する企業の挑戦

もちろん日本でも、ネイチャーポジティブに取り組む企業が増えてきています。そのなかでも、特にZ世代の共感を集める、注目企業とその取り組みを紹介しましょう。

地域と共生する、農業ベンチャー
「株式会社 坂ノ途中」

株式会社 坂ノ途中」は、京都府に本社を置く農業ベンチャー企業。2009年の創業以来、「100年先も続く農業」を目指し、環境負荷の少ない持続可能な農業を推進しています。

農薬や化学肥料に頼らず育てられた季節の野菜や果物を中心に、環境に配慮してつくられたコーヒーや調味料などの加工品を取り扱うほか、耕作放棄地の再生や、若手農家の育成にも取り組むなど、地域社会への貢献も積極的に行っています。

「坂ノ途中」は、オンラインショップや、提携スーパーなどで、新鮮な有機野菜を販売しており、食の安全や、環境問題に関心の高いZ世代から注目されています。

ネイチャーポジティブな未来
2030年、日本はどう変わる?

2030年、そしてその先の未来、私たちはどのような世界を創造していくのでしょうか? ネイチャーポジティブは、単なる環境保護活動ではなく、私たちの社会や経済、そしてライフスタイルを根本的に変革していく、大きなムーブメントです。

日本政府は、「生物多様性国家戦略2023-2030」において、2030年までに、生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の実現を掲げています。

この目標達成に向け、企業や、国民への働きかけを強化し、様々な政策を推進していく方針です。たとえば、2030年までに陸と海の30%以上を保全する国際目標「30by30」の達成や、企業の生物多様性に関する情報開示の促進、生物多様性に配慮した製品・サービスの普及などが挙げられます。

テクノロジーが変える、環境保護の未来

AI、IoT、バイオテクノロジーなど、テクノロジーの進化は、ネイチャーポジティブの実現に大きく貢献すると期待されています。AIを活用した森林伐採の監視や、海洋プラスチックごみの回収IoTセンサーによる生態系のモニタリングなど、様々な分野で、実用化が進んでいます。

さらに、遺伝子編集技術や、合成生物学などのバイオテクノロジーは、環境汚染の浄化や、生物多様性の回復に役立つ技術として、注目されています。これらの技術革新は、これまで解決が困難だった環境問題を克服し、ネイチャーポジティブな社会の実現を加速させる可能性を秘めているのです。

Z世代が変える、消費のカタチ

環境問題への意識の高いZ世代が、消費活動の中心となることで、ネイチャーポジティブへの意識は、ますます高まっていくでしょう。企業は、Z世代の価値観に合わせた商品や、サービスを提供することで、彼らの支持を獲得し、市場競争を勝ち抜いていく必要があります。

たとえば、環境負荷の低い製品やサービス、倫理的な調達方法を採用した商品、動物福祉に配慮した商品など、Z世代の価値観に訴求する商品やサービスが、今後ますます求められるようになるでしょう。

もちろん企業だけでなく、ネイチャーポジティブな未来を創造するためには、私たち一人ひとりの行動が重要。環境に配慮した製品を選んだり、食品ロスを削減したり、自然と触れ合う機会を増やしたり……自分のできる範囲で、できることから、始めてみましょう。地球の未来は、私たちの選択にかかっているのですから。

Top image: © iStock.com/Man As Thep
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