希望は、ゆっくりやってくる──193歳のゾウガメから学ぶ、生き方のレッスン

もし、193年という時間を生きてきた生き物がいたとしたら——。
その目に、人間社会はどのように映るのでしょう。

米心理学メディア「Psychology Today」に掲載された記事で、動物行動学者マーク・ベコフ氏がケンドラ・クーラー氏の小説『The Tortoise Tale』を紹介しています。
世界最高齢の陸上動物アルダブラゾウガメ“ジョナサン”に着想を得たこの物語は、
カメの静かな視点から、人間の営み、自然との関わり、そして「生きる」ということを問い直す作品です。

ここでは、その「Psychology Today」の内容をもとに、長い時を生きるゾウガメが私たちに伝えようとしている“希望のメッセージ”を探っていきます。

『The Tortoise Tale』が描く
ゾウガメの視点からの人間社会

ゾウガメ「ジョナサン」が見た193年の歴史

著者のケンドラ・クーラー氏は、世界最高齢の陸上動物であるアルダブラゾウガメのジョナサン(193歳)にインスピレーションを受け、『The Tortoise Tale』を執筆しました。

この物語は、故郷を離れ、ある邸宅で生涯を過ごす巨大ゾウガメの視点から、人間の世界、その光と影、そして複雑な人間関係をユーモアと洞察力をもって描いています。ジョナサンのような長寿の生き物は、私たちに計り知れないほどの経験と知識を内包していることを示唆しているようです。

動物倫理学の視点からの探求

クーラー氏は、自身の専門分野である動物倫理学やサステナビリティの知見を活かし、本書で動物の主体性、エコフェミニズム、エコ不安、飼育下の動物、絶滅危惧種、人間と動物の間の暴力、家畜問題など、多岐にわたるテーマに触れています。

これらは物語の登場人物や展開を通して、読者に自然に、そして穏やかに伝えられています。フィクションという形式を借りることで、種を超えた危害、多様な生命の幸福、そしてこの脆弱な惑星に生きるすべての命の相互接続性についての真実を明らかにしているのです。

希望と行動を促すメッセージ

クーラー氏は、読者がゾウガメや他の生き物について学び、彼らが私たち自身の幸福や地球にとってどれほど重要であるかを理解することで、より敬意と尊厳をもって接するようになることを願っています。

本書は、アンナ・スウェル著『黒馬物語』やマーガレット・マーシャル・サウンダーズの『ビューティフル・ジョー』といった、動物の視点から書かれた過去の名作が、読者の意識改革や政策変更に貢献したように、現代においても同様の効果をもたらすことを目指しました。

ゾウガメが決して希望を捨てないように、私たちも動物、他者、そして共有する世界に対して、「戦うようなケア」をもって行動することを訴えかけているようです。

ゾウガメから学ぶ現代社会への示唆

「遅さ」に学ぶ持続可能な生き方

ゾウガメのゆっくりとした動き長い寿命は、現代社会の「速さ」や「効率性」を追求する価値観に一石を投じるもの。彼らの存在は、私たちに立ち止まり、物事を深く観察し、長期的な視点を持つことの重要性を教えてくれます。

情報過多で変化の激しい現代において、ゾウガメのような「遅い」存在から学ぶことは、精神的な安定や、より持続可能なライフスタイルへの転換を促すヒントとなるでしょう。

多様な生物との共生が生む、新たなコミュニティの形

本書が描く、ゾウガメを中心とした多種多様な生き物たちのコミュニティは、人間中心の社会構造から脱却し、異なる種が共存する新たなコミュニティの形を示唆しています。

野生動物との共存は、単に環境保護の問題に留まらず、私たち自身の社会性他者との関わり方を見直すきっかけにもなるのではないでしょうか。身近な野生生物への関心を持つことが、人間同士のつながりを深める触媒となり得ると考えるからです。

エコ不安を乗り越えるための希望の象徴

地球温暖化や環境破壊に対する不安、いわゆる「エコ不安」が広がる現代において、ゾウガメが長きにわたり生き抜いてきた事実は、私たちに希望を与えます。

困難な状況でも生き延び、適応していく生命の力強さは、私たちが抱える環境問題に対する解決策を見出し、行動を起こすための勇気にもなり得るはず。クーラー氏が語るように、ゾウガメのように、希望を失わずに、できることから行動していくことの重要性が強調されています。

Top image: © iStock.com / Chalabala
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