夕暮れをただ眺める「ダスキング」が欧州で静かなリバイバル

夕暮れが夜へ変わる時間を静かに眺める習慣「ダスキング」。

スマートフォンから離れ、自然と向き合うこの古いオランダの習慣が、現代のウェルビーイング実践としてヨーロッパで再注目されている。

夜の訪れをただ見つめる習慣

日没後、空がゆっくりと暗くなっていく時間を静かに眺める──そんなシンプルな習慣がヨーロッパで再び注目されている。

オランダでかつて行われていた「ダスキング(dusking)」、現地語では「schemeren」と呼ばれる習慣だ。

この実践では、椅子に座って景色の一点を見つめながら、夕暮れが夜へと変わる過程を観察する。

人工の照明やスマートフォンは使わず、自然の光が消えていく様子に意識を向けるのが特徴だ。

近年、この習慣の復活を呼びかけているのが、オランダの詩人で作家のMarjolijn van Heemstraである。彼女は数年前からダスキングのイベントを開催し、アイルランドやドイツ、イギリスなどでも体験会が行われるようになった。

忘れられていた日常の“休止時間”

ダスキングは決して新しいウェルネス法ではない。18世紀の新聞やガイドにも記録が残るほど、かつては一般的な習慣だったとされる。

電灯が普及する以前、多くの家庭では夜の照明をつける前に、家族で外を眺めながら暗くなる時間を過ごしていたという。いわば一日の区切りとなる「静かな休止時間」だったわけだ。

この習慣は長い間忘れられていたが、van Heemstraが紹介したことで再び関心が集まり始めた。アムステルダムでは150人が川辺に集まって夜の訪れを眺めるイベントが開かれ、音楽フェスティバルでも数百人規模の体験会が行われた。

彼女はダスキングを「外の世界に意識を向けるマインドフルネス」と説明する。目を閉じて内面に集中する瞑想とは異なり、周囲の風景や音の変化に注意を向ける点が特徴だという。

スマホ時代の“注意力の回復”

ダスキングが現代で共感を集める背景には、スマートフォンやデジタル機器による注意力の分散があると指摘されている。

夕暮れの変化を静かに観察することで、日常のペースを少しだけ落とすきっかけになるというわけだ。

夕焼けを眺める習慣と似ているように思えるが、ダスキングには違いもある。夕焼けは壮大な景色を楽しむ体験になりがちだが、ダスキングはもっと微細な変化に注意を向ける行為だとされる。

木の輪郭がゆっくり消えていく様子や、鳥の声が途切れる瞬間など、わずかな変化を感じ取ることが重要だという。

光害が奪った“夜の世界”

こうした活動の背景には、人工光の増加による「光害(ライトポリューション)」への問題意識もある。

2023年に掲載された研究によると、2011年から2022年の間、世界の夜空の明るさは平均で毎年約9.6%増加。西半球では、人工光の影響を受けない暗い空を体験できる人は約10%にとどまるという。

人工光は人間の健康にも影響する可能性が指摘されている。University College Londonのレビュー研究では、夜間の光がメラトニン分泌を抑制し、睡眠や体内時計に影響を及ぼす可能性が示された。

さらに、昆虫や鳥、コウモリなど夜行性の動物にとっても人工光は大きな環境要因となる。LED照明によって夜行性のガの活動が大幅に減少したという研究も報告されている。

ダスキングの魅力は、特別な道具や場所が必要ない点にある。椅子と視界の開けた場所さえあれば実践できるため、都市部でも取り入れることが可能だ。

自然の光が消えていくわずかな数十分を観察するだけで、日常のリズムや感覚が少し変わるかもしれない。

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