機内の「裸足」、どう思う? 乗客7割の本音に見る、リラックスと配慮の静かな境界線

長時間のフライト、限られた空間。少しでも快適に過ごしたいという気持ちは誰にでもある。しかし、そのリラックスを求める行為が、周囲に思わぬ不快感を与え、SNSで瞬く間に拡散される……そんな時代だ。

最近、デルタ航空の機内で起きたある乗客の行動が、まさにこの現代的な問題を私たちに突きつけた。

「裸足の乗客」
SNSで拡散された一枚の写真

Newsweekが報じたこの一件、単なる「マナー違反」という言葉だけでは片付けられない、根深いテーマをはらんでいるのかもしれない。

問題の震源地となったのは、デルタ航空の機内。前の座席がないバルクヘッドの壁や、備え付けの機内エンターテインメントのスクリーンに、ある乗客が裸足のまま足を乗せている光景だった。この様子を捉えた動画が、海外の巨大匿名掲示板「Reddit」に投稿されるやいなや、「信じられない」「なぜ平気でこんなことができるのか」といった驚きと非難の声が殺到し、大きな議論を呼ぶことに。

こうした空の足問題は、決して今回が初めてではない。たとえば、俳優で映画監督のダニエル・ウーが2025年3月、自身のSNSに機内で前の座席に裸足を乗せている乗客の写真を投稿し、「本気でこれをやっているのか?」とその行為を強く非難したことは記憶に新しい。彼の投稿は多くの人々の共感を呼び、機内でのマナー意識について改めて考えるきっかけとなった。

航空会社側も、こうした状況を静観しているわけではない。アメリカン航空やデルタ航空、ユナイテッド航空といった主要な航空会社では、裸足で機内を歩き回る乗客や、他の乗客に不快感を与える行為に対して、規定を更新し、場合によっては搭乗拒否や降機を求める権利を乗務員に与える動きも見られるという。

では、乗客自身は、機内での足の扱いについてどう感じているのだろう。

旅行予約サイト「Kayak」が2023年6月にアメリカとカナダの乗客1000人を対象に行った調査が、興味深いデータを示している。それによれば、実に68%の人が「足は床にあるべきで、前の座席に足を乗せるべきではない」と考えている。さらに、56%は「飛行機とビーチは違う」として機内で靴を脱ぐこと自体に否定的であり、76%もの人が「視界に他人のつま先が入るのは好まない」ため、靴下も脱ぐべきではないと回答している。これらの数字は、多くの人々が、たとえ窮屈な機内であっても、足の露出や置き場所に対して明確な規範意識を持っていることを示しているのではないだろうか。

delta / Reddit

「自分だけは大丈夫」が招く摩擦。データで見る迷惑行為のリアルと、パンデミックが変えた価値観

「国際航空運送協会」(IATA)の報告も、機内での迷惑行為が増加傾向にあるという厳しい現実を突きつけている。同協会によると、2022年には平均して835便に1件だった迷惑行為の発生率が、23年には480便に1件へと大幅に増加。乗務員の指示への不遵守がもっとも多いものの、言葉による虐待や酩酊状態での迷惑行為も後を絶たないらしい。さらに「米連邦航空局(」FAA)は、2024年だけで迷惑行為を起こした乗客に対し、合計750万ドル(約11億7000万円)もの罰金を科したと発表しており、問題の深刻さがうかがえる。

こうした状況の背景には、個人の「快適さの追求」と、公共空間における「他者への配慮」という、二つの価値観のせめぎ合いがあるといえるだろう。特に飛行機という密閉された特殊な環境下では、このバランスがより一層重要になる。

さらに見逃せないのが、新型コロナウイルスのパンデミックを経て、私たちの衛生観念が大きく変化したという点だ。公共の場での物理的な接触や飛沫に対する警戒心は格段に高まり、それが他者の行動に対する許容度にも影響を与えている可能性がある。

かつては「少しくらいなら……」と見過ごされたかもしれない行為が、今ではより強い嫌悪感や不安感を引き起こす原因となっているのかもしれない。これは、機内という閉鎖空間であればなおさらだろう。

 

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今回の「裸足炎上」の一件を、単なるワイドショー的なゴシップとして消費するのではなく、自分自身の行動や価値観を静かに見つめ直す機会と捉えたい。

次にあなたが飛行機に搭乗するとき、あるいは電車やカフェといった日常の公共空間に身を置くとき、ほんの少しだけ「自分ごと」として周囲に意識を向けてみては。

Top image: © iStock.com / Nadezhda1906
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